-第77話-頭ポンポン
「あ、なんでそんなに山口くん照れてるの?」
「いや、照れてないぞ......。いきなり何するんだよ」
正直めちゃくちゃ照れてた。
お母さんとは仲良くてももうこんな歳だから褒められることも無ければ、頭を撫でられる機会なんてもっと無いし、妹から頭撫でられるほど悲しい人生を送っているわけでもないから、本当にこんなことされたのは数年ぶりだったからだ。
「なんかごめんね......。山口くん喜んでくれると思ったんだけどな......」
安芸さんは俺のためを思って無理してくれてたのか......。これを突っぱねちゃって申し訳ないことをしたな......。
「安芸さんごめ......」
「それはそうもと何の教科やったの?」
「えっと、数学の昨日の続きをやったぞ」
「数学一人でやったの?それはちょっといただけないな」
俺が謝罪の言葉をあげそうになったその時彼女も喋り始めたわけだが、さっきまでのデレっぷりはなんだったのかと思うほど、いつも通りの安芸さんに戻っていた。
もしかしたら嫌われてしまったのかもしれない。
というかなんで勉強して怒られてるんだ俺。やっぱり嫌わてるのか。
「あ......」
「一人でやるより私と一緒にやった方が効率いいんだから、家でも意欲あるならほかの教科やってね」
そういえば昨日そんなこと言ってた気もする。
安芸さんはまたも子供をあやす様に微笑んできた。
「ああ、わかった」
「じゃあそろそろやろっか。山口くん一人でどこまでやったか教えて貰っていい?」
「えーと、中三の範囲の......」
俺がそう言うとすぐに自分の教科書から中学3年の教科書を取り出してきてくれた。
俺のために本来要らない中学の頃のものも含めて、こんだけ教科書持ち運んでいるのかと思うと、こんなペタンコな鞄を背負っていて本当に申し訳なくなってくる。
「おー、もうそんなに行ったんだ。理解出来てる?」
「多分、だけどな」
「そっか。じゃあ山口くんの言葉を信用してここからやっていこうか」
安芸さんは鞄からこの教科書と同時に取り出した綺麗な文字がびっしりと書かれたノートを取りだし、それを眺めながら問題を解いてる俺の方を横目で何回も確認してきている。
安芸さんも自分の勉強をしたいけど、酷い成績の俺を放っておけないのだろう。
「そういえばなんで今日は2人でやろうなんて言い出したんだ?」
しばらく問題を解いていた俺は少し疲れたし、手を止めて安芸さんにそう聞いた。
「だから静かな方が山口くんの勉強が捗るからって言ったじゃん」
「でも昨日も相当静かじゃなかったか?」
「まあそうだけど......」
安芸さんは言葉を詰まらせ、明後日の方向を向いた。
「私......山口くんに大きなお願いしてるのに、2人で喋ったこともなかったから......」
安芸さんは指先をつんつんと合わせモジモジしながら言った。
「それは俺も思っていたところだ」
「そっか、山口くんも考えてたんだ......」
「それに安芸さんを幸せにするって言っても何にも知らないようじゃ形にならないしな。俺、安芸さんのことがもっと知りたいんだ。梨花さんたちの前じゃ言いづらいこともあるだろうし、色々話さないか?」
安芸さんは考えるように俯いた。
「そっか……山口くんは私のことをもっと知りたいんだね」
「ああ、もちろんだ」
好きなものを抑えないままじゃ幸せになんてできるはずがない。それは当初から思っていたことだ。




