-第76話-2人きり
――翌日の放課後。
俺は駅ビルのカフェの昨日と同じ席に座って安芸さんを待っていた。
昨日は結局2時、3時過ぎまで集中力を切らしては休んでまた戻ってとダラダラ数学の問題を解いていたおかげで寝不足で、珍しく襲ってきた睡魔に対抗できず学校で爆睡してしまった。
授業をしっかりと受けることが勉強の第一歩なのだろうが、前のことができていない俺は授業を切ってでも、みんなが身につけている範囲を猛スピードで会得していくことが必要だから仕方がない。
だが、成果も着実に上がってきていて、理解しているかどうかはわからないが、今解いている問題は中学3年生の範囲だ。
昨日は中学1年のところをやっていたと考えるとすごい進歩だろう。その代わり数学と同じレベルで酷い英語もその他の教科も一切手をつけられていないが。昨日の安芸さんの言葉が思い出される。
安芸さんといる時に英数をやるかわりに家では他の教科を自力でやれと言っていたのはこれを危惧してのことだったのだろう。
なんで俺せっかくの助言を無視してやってたんだろう……。
さっきまで数学が進歩しているのを感じ高揚していた気分が完全に急降下していくのを見にしみて感じた。
「ごめん、待たせちゃってたね。今日こそ私の方が先かなって思ったんだけどな」
安芸さんは昨日俺に伝えてきた通り一人で来ていた。何気に友達としてでは無いが何回も遊んでいる仲なのに2人きりになるのが初めてだな。
呼び出された時も出かける時も登校するときでさえもいつも安芸さんの傍には人がいた。
彼女は人気者だし重鎮だから当然なのだろうけど、その隣に俺がたった1人いるというのは、実際起こっている今でさえも信じることが出来なかった。
「いや、大丈夫だ。それより本当に姫芽さんとか梨花さんになんか言われなかったのか?」
「今日は山口くんと2人でやるって言ったら二つ返事で了承してくれたんだよね」
姫芽さんは俺にアイドル好きとバレた時のようにおっちょこちょいなところがあるかもしれないけれど、梨花さんも含めて2人とも優秀で注意深い人だ。
安芸さんをそんな易々と自分たちの監視下では無いところで俺と2人きりになんてしないと思う。
きっとどこかから俺達のこと見てるんだうな......。
「そっか良かったな。じゃあ今日もお願いしていいか?」
「うん、私に任せて。絶対テストまでに数学だけじゃなくて英語も間に合わせるから」
「それは頼もしいな。頼んだぞ」
「うん、じゃあやろっか」
そう言って彼女は自分の教科書で分厚くなった鞄から中学の時の数学の教科書を取り出す。
自分の数学と英語の教科書しか入ってないペラペラな鞄と比べると残念になるが、わざわざ俺に教えるだけのために持ってきてくれたのだろう。
やるからには徹底的になるという何とも完璧な彼女らしい姿だが、それがいつにも増してかっこよく見えた。
「えっと、昨日は.......確かここまでやってたよね?」
安芸さんは俺が昨日カフェで帰る直前にやっていたところの範囲のページを開いて指さしていた。
昨日俺はここまでやったよとは安芸さんに報告していないのに、どこか知っているというのは俺がやっているところをパッと横目で見てそれを今まで覚えていたのだろう。
「いや、俺昨日家帰ってからやっちゃったんだよね」
「え、えらい......勉強やる気になったの?」
「いや、全然。でも安芸さんからの期待に答えないとなって思って」
俺がそう言うと安芸さんは少し気恥しそうに顔を少し赤くして、真正面を向いていた身体を俺とは反対側に少し傾けた。
「そっか......。一緒に頑張ろうね」
安芸さんはやっと俺の方に向き直してくれたかと思った矢先、俺の頭を子供を褒めるかのように撫で回してきた。俺は衝撃のあまりしばらく放心してしまった。
今日(7/2)から来週の土曜日(7/10)まで1日2話投稿から1日1話投稿に変更します。
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