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-第70話-実力

「よし、解き終わったぞ」


「お、意外と早いね。って全然埋まってないじゃん」


「ああ、さすが積み重ねの教科だな」


俺はまず安芸さんから渡された数学の演習問題を解いていたわけだが、ほとんど分からなかった。


自慢ではないが中学のある時期から今に至るまで数学は赤点じゃなかったことがない。言うならば皆勤賞だ。


だって小学校にはXもYもiも出てこなかったもん。


太郎くんと花子さんがりんご食べてたはずなのに、いつからこんなに記号の羅列もつまらない教科になっちゃったんだよ......。


赤点を取ったら補習があるじゃないかと思うかもしれないが、うちの学校は生徒数が膨大な分赤点該当者も多い。


そのため補習というよりは補講に近い形となっている。先生が全ての内容を解説して終わり、そんなもん俺は平常授業と同じように聞き流しているに決まっている。


だから次のテストも前回の範囲が分からないから赤点を取るしと完全に負の連鎖となってしまっている。


「これはどこからやり直したらいいんだろう......。ま、まあいいや、次は英語やろっか」


「ああ、任せてくれ」


「今度は期待してるからね......」


安芸さんはその言葉とは裏腹にあまり期待してなさそうな小さな声で俺にそう言ってきた。


「さて、テスト解くか」


隣に座っている安芸さんにも聞こえないようにそう呟いた俺はテスト用紙に目を向けた。


そこに印刷されていたのは数学とは文字を変えただけのアルファベットの羅列。


知っている単語をあろうじで目で追って言っても文法知識なんてからっきしな俺には理解することが出来なかった。


とりあえず選択肢の問題をお祈りしながら鉛筆を転がして埋め、安芸さんに笑顔を向けた。


「どうしたの......山口くん。いつもお世辞にも楽しそうにしてない山口くんからそんな笑顔を向けられると逆に怖いんだけど......」


「どうしたんだい、可愛いお嬢さん」


俺はもうどうにでもなれとひたすらに英語を誤魔化そうとした。


「可愛いって......。やっぱ山口くんらしくないよ。それで英語はどうだった?」


安芸さんは一瞬顔を赤らめたが、すぐにいつもの凛とした表情に戻って行った。


学校一の美少女なんだから今更可愛いという言葉にそこまで動揺しないと思うんだけどな......。


「あ、ああ。何とか和訳と英訳以外は埋めたぞ」


「それって選択肢問題しか埋めてないってことじゃん。それにさっき鉛筆振っておもむろに面の数を数えてた気がするんだけど......」


「ほんとすみません。許してください。だって、小学校には英語なんてなかったんだよ」


さっきの数学同様小学校には英語なんてなかったし、中学の初めの頃もアルファベット覚えただけだった。


「それはもう言い訳になってないよ......。言い訳するならもっとそれっぽいの言おうよ......。例えば『日本人がなんで英語覚えなきゃいけないんだ!』とかさ」


安芸さんは酷く落胆したような様子だ。もう諦めきったのか俺に言い訳のアドバイスまで始めてる始末だ。


「じゃあそれで」


「それでじゃないよ。まあ英語もこれは中学生の最初からやり直しが必要だね。もっと前から声掛けてくれれば良かったのに......」


「確かにそうだな。でも俺は生憎テストの存在すら認知していなかったな」


「そっか......でも教科書こんなに持ってきたってことはやる気になったってことだよね」


「ま、まあな。昨日も少し勉強したし。結局全然続かなかったけどな」


俺はその事実が急に恥ずかしくなり笑って誤魔化しながら言った。


俺の英語と数学の有様の方が人様には見せられないようなものだったが、それはなんかもう1周まわってみたいな感じだ。


「うん。それでもだよ。私は努力する人は好きだし、最後まで付き合おうと思うよ」


「ああ、ありがとう」


「でも私とやれるのは数学と英語だけだからね。それ以外は自分で家でやってよ。この2教科を1からやり直すのさえ無謀なんだからね」


「ああ、分かってるよ。ありがとな」


「ううん、全然大丈夫だよ。山口くんには私も無理なお願いしちゃってるし」


こうして俺は中学からの遅れを取り戻すべく勉強を始めること決めた。

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