-第65話-日常
――月曜日の昼下がり。俺はいつものように屋上へ向かって歩いていた。
廊下を歩いていると教室で友達と思われる人と話している姫芽さんが視界の端に入ってくる。
するとやはり一昨日彼女とともに行ったライブが思い出させられる。
そこで姫芽さんの猛プッシュにより買ってしまったTシャツだが、学校は制服登校だし休日は家から出ないしで着る機会がないことに気づいてしまい、なんとそれを親にまで問い詰められてしまった。
「あら、新しいお洋服買ったの?」
「ああ、勧められてね」
「ええ、そういうお友達も出来たのね......」
俺の服を見て何かを想像したのかお母さんは若干引き気味だが、どこか嬉しそうにしていた。
「新しい友達なんて出来てないけど」
「そうなの?じゃあこの間結奈と遊んでくれていた子たちと行ったってこと?」
「ああ、その中の2人と」
「ふーん、あんたの趣味に付き合ってくれるなんていい子たちね」
お母さんは俺を怪しむように目を細めている。俺に趣味がないことぐらい知っているだろうに。
「俺は誘われた側だけどな」
「私はしんちゃんが楽しんでいればなんでもいいけどね。それでそのお洋服はどうするの?」
「これは......ノリで買ってしまったもので......」
「あんたそれこれから何に使うのよ」
「......」
「じゃあ、それが今日からしんちゃんのパジャマね」
こうして俺は毎日アイリさんと夜を越すことになった。
――とまあ色々とあったわけだ。
「あはは、そうですね」
歩きながら回想していた俺の耳に聞きなれた声が入ってきた。
「そういえば、安芸さんは休みの日何してるの?」
「そうですね.......。基本はお稽古でしょうか。時折姫芽たちと出かけたりはしますけど」
「やっぱりほんとに仲良いんだね。もう1人茶髪の子との接点は分からないけど......。出かけるってやっぱ美術館とか行くの?」
「え、あ、いや、お料理食べに行ったり、公園でワンちゃんと戯れたり、お茶を飲みに行ったり、音楽聞きに行ったりとかですかね......」
それぞれ聞き覚えはないがニュアンス的にはどこか馴染みのある言葉が羅列された。
「いいなー。私も安芸さんと一緒に行きたい」
「私も私も」
「やっぱ音楽ってクラッシックコンサートとか聞くんですか?」
安芸さんの周りから複数の声が同時に上がる。
このガヤガヤとした雰囲気は全校集会中とかしか味わえないと思っていたが、まさか目撃できるとは。
「いや、そういうものは......」
安芸さんが言葉を詰まらせている。
もしかして安芸さん一昨日のライブのことをそれっぽく言っていたのか......。
姫芽さんも梨花さんもよく安芸さんの社会的な立場とか外面的に見ての印象とかよく言っているし、そこを気にしての発言か......。
俺は自分が話に混じる訳でもないし、安芸さんの日常の一コマ一コマに空気として存在するつもりもないので、少しの間止めていた足をまた屋上へと向かって進めた。
結局俺にとって姫芽さんも安芸さんも普段は俺の真正面にいるのではなく、端にいるのに俺が意識して認識してる程度の付き合いなのだなと実感した。
でも安芸さんの友達たちと話している時に見せている笑顔はいつも見せてくれるものとは違うなとも思えた。
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