-第43話-
その後またもう一周全員ソロで歌いきった。
俺と梨花さんも恥ずかしがりながらも、周りの歓声に気分を任せて頑張った。
「あと2曲くらいかな」と残り10分を知らせるタイムキーパーの電話に応えた安芸さんがみんなへ伝えてきた。
「お兄ちゃん最後に一緒に歌わない?」
結奈がまたも安芸さんの所から俺の所へと移動してきて誘ってきた。
毎度毎度俺のところまで来ないで要件だけ言葉で伝えればいいと思うがそれは言わないでおこう。
「俺はいいけど、みんなは時間的にそろそろラストだけど歌いたかったりしないか?」
やっぱり安芸さんを幸せにするのが俺の任務だ。
早く遂行するためにもこういう関係の無いイベントの時にも幸福度を稼いでいくことが大切だろう。
「私たちは大丈夫かな、ね?」
安芸さんが挟んできている2人の取り巻きに聞く。
カラオケの途中で梨花さんも調子が乗ってきたのか安芸さんの方へと合流し女子4人と机を挟んで俺という配置になってしまい疎外感を感じざるを得なかった。
でもすっかり梨花さんも2人といつものように仲良くしているようで嬉しい。
「やった、お兄ちゃん歌おっか」
結奈が手を広げるような体勢でこちらを向いてくる。
「お兄ちゃん、この曲わかるよね?」
結奈が手をこちらに返して、持っている機械の画面を見せてくる。
そこに映し出されていたのはやはり最近はやっていた曲なのだが、少し思うところがある曲なのだ。結奈がリビングで聞く度になんとも言えない表情をしているからとても印象に残っている。
「ああ、大丈夫だ。歌うか」
俺は姫芽さんからマイクを受け取り立ち上がった。結奈もそれに合わせて隣にピタッとくっついて立ってきた。
「先私でいいかな」
この曲はパートが2つに分かれている。メインボーカルがほとんどを歌っているのだが、サビ前の少しだけほかのメンバーが歌うところがあるのだ。
イントロが始まった。
流行りの曲の中では珍しく、落ち着いたメロディに合わせて結奈が目を閉じマイクを握り直す。
1番の前半部分――つまり結奈が歌う部分は現代人なら誰でも1度は共感できるであろう社会に疲れたもっと自由になりたいというような歌詞になっている。
特に「味方なんて居ない」という歌詞が強くその心境を表していると思う。
そしてサビ前の少し俺のパートへと流れてくる。
突如現れた味方がどういう風に手を差し伸べてくれるところが描かれている。
俺は感情を込めて抑揚を付ける余裕もなく必死に音程を合わせてなんのか自分の役目を歌い終えた。
少しの沈黙の後サビが始まる。
また結奈が1人でしんみりと歌い始める。この人を信用していいんだろうか。なんでこんな自分を助けてくれるのかそれを悩んでいる情景がはっきりと浮かぶそんな歌い方だ。
サビも終わって余韻に浸る暇もなく2番が始まった。
また結奈の独唱だがそのテンションは少し高めだ。
歌詞は助けが入ったことにより周りの人からも少しずつ相手にされ、充実した生活が遅れているような様子を描いている。
そして俺のパートではこれで良かったんだと助けて満足している心情が歌われる。俺も少し結奈を意識して明るめに歌ってみた。
そしてまた少しの沈黙を開けてサビが始まる。
さっきの結奈のパートとは打って変わって彼女はトーンを落としてはっきりと歌っている。
充実した生活を送っているが何かが足りない。この心に空いたものはなんだと探しているのだ。
そしてラスサビ――俺たちは一緒に歌い始める。
曲で1番盛り上がるところのようで安芸さんたちもリズムに合わせてタンバリンを鳴らしている。




