-第41話-デュエット
「私もカラオケとか全然来たことないから期待しないでね」
安芸さんは恥ずかしそうに体半分こちらに向けていった。
安芸さんがどんな曲を選ぶかは比重に気になるところである。
彼女がポップなはやりの曲を聴いているところは想像つかないし、今まで想像していたような硬派なクラシック曲も最近かわいいものが好きということが分かったことで最近では違うなと思ってきている。
そもそもクラシックは歌えないが。
音楽というと人間の娯楽の大たる部分のうちの一つなわけだから、ここで好みを把握出来たら後々アドバンテージとして働くだろう。
「これでよしと」
安芸さんは入力を終えたのか、姫芽さんからマイクを受け取り立ち上がった。
画面に曲名が映った。
何の曲だろうと目線の先を安芸さん本人からモニターへと移すと、そこには俺らの親世代の曲名が表示されていた。
この曲は世代ではない俺でさえ知っているように、相当なヒットを記録した作品だ。
安芸さんは結奈や姫芽さんに負けないようなかわいくきれいな声で歌っている。
小学校のみんなの前で先生の伴奏付きで歌わされた音楽の授業のテストのように正確に音程を取って歌っている。
これが完璧な天使様の力量というところか。
「安芸さんなんでこんな昔の曲を?」
俺は彼女が歌いきったところで聞いた。
非常に聞き入ってしまうような美声かつ感情もこもっていて姫芽さんの時とは違う意味ですごかった。
「私普段音楽とか聞かないんだけど、これは親が聞いてたからなんとなくメロディーとかわかるからね」
大方予想通りといったところか。
だが普段音楽を聴かないというのは悲しい事実だった。
俺はまた安芸さんを幸せにするというミッションから遠ざかってしまった。
「次はまだ歌ってない梨花か山口君が歌う番だと思うけど、どっちがいく?」
「姫芽無理強いしちゃダメだよ。二人とも歌いたくないなら歌わなくてもいいからね」
安芸さんが優しく横からフォローを入れてくれるが、姫芽さんの目からは歌えという意思がひしひしと伝わってくる。
でも俺も梨花さんもあまりカラオケなんて来ないため、やっぱりためらってしまう。
「ねえ、山口君。私と一緒に歌いませんか?」
俺が考え込んでいると予想外の方向から言葉が飛んできた。
俺と同じように歌っていなく、あまり気分ではないのだろうと思っていた梨花さんから誘われたのだ。
一緒に歌うというのはいわゆるデュエットというやつなのだろうか。
「ああ、そうしてもらえるとたすかる」
「よかったです。曲は二つに分かれているやつを適当に探しておくので、わからなかったら教えてください」
梨花さんはそう言って機械に視線を落とした。
「この曲とかどうですか?」
「ああ、おれは大丈夫だ」
梨花さんから提示されたのは3年ほど前に流行った映画の主題歌で、男女で交互に歌っていくのが特徴な曲のようだ。
あの歌は俺もテレビなんかで結奈と一緒に聞いたことがあるが、聞くと少し切なく寂しい気持ちになってしまうそんな歌だ。
俺は手を伸ばしモニターの下にある新品のマイクからビニール袋を外してから、それを持って梨花さんの隣へ移動した。
「お兄ちゃん......」
「どうしたんだ結奈」
「ううん、なんでもない。なんか二人でデュエットなんてカップルみたいだなって思って」
梨花さんのパートの間俺が自分の番を待っていると、結奈が服の裾をつついてきた。
俺は思わずその場で吹き出してしまった。
歌うのもなんか億劫だしと誘いに乗っただけのつもりだったのだが、まさか結奈からそんなことを言われるとは思ってもいなかった。
姫芽さんとかならいいそうだが、結奈に言われたということと、そもそもこんなこと言われるなんて全く予期していなかったのでなおさら驚いた。




