-閑話-妹の独白
私──山口結奈は焦っていた。
今まで彼女はおろか、友達すらいなかった兄によく出かける女の「知り合い」ができたのだそうだ。
兄は「知り合い」と誤魔化していたものの、相手が兄に対して恋愛的なものが今はなくても好意を持っているのは明らかだ。
今は確かに恋愛感情は無くてもいずれ兄のことを好きになるだろうし、彼のことを深く知ればその感情が芽生えるのは必然と言っていいだろう。
兄もその女の子にいつ好意を抱くようになるかは分からない。
私はそうなると困ってしまうのだ。なんでかって?そんなの決まっている。
私が兄のことを大好きだからだ。
※※ ※※
私の兄──山口親鸞はどこにでもいるような男の子だった。
ただ少し努力が嫌いだから勉強と運動は苦手。やっていないだけだから苦手という言葉で括るのはおかしいのかもしれないが。
でも兄は確かな優しさを持っていた。
私たち兄妹は年子ということもあって一緒にいる機会が多かった。
例えば休みの日、例えば学校の他学年と遊ぶ時間、他にも私は数え切れないくらい彼と一緒に遊び、感じ、学んでいた。
まだ小学生という完成しきっていない時期だったのにも関わらず兄の優先順位はいつも自分より私に向いていた。
私の好きなお菓子は残しておいてくれたし、何か遊ぶ時も私の嫌がることは決してしない。
そんな些細な優しさだったが私は格別に嬉しかった。
そんな彼に私が更に惹かれるようになったのは助けてくれたからだ。
私はいじめられていた。
ずっといじめられていたわけではなく、典型的な女子のいじめという感じで1、2週間ハブられていたというだけのものだったが、当時の私にとってはとても耐えられないものだった。
今までのように話しかけも無視される毎日。
幸い物を捨てられたり、身体に危害を加えられることはなかったが、小学生という心身共に弱かった私はとても辛かった。
兄は私が困っている素振りを見せていないのに声をかけてきてくれた。
「最近、大丈夫?」と私に直接的に聞かないように気遣っていて彼にとっては何気ない一言だったのかもしれないが、私が崩れるのにはこと足りた。
私は今まで溜め込んできていた心持ちを全て泣きながら兄に話してしまった。
兄はその時は何も言わずに去っていったが、翌日から毎日のように私を自分の友達と遊びに連れて行ってくれたり、学校でも声をかけてくれるようになった。
これこそが彼の優しさなんだと私はひしひしと感じた。
それから当時の私の心の支柱は運動も勉強もイマイチな兄だけになった。
彼が毎日話を聞いてくれて、私に構ってくれて何とか耐えられていたのだ。
程なくして私に対するいじめは終わったが、私は兄に対しての気持ちは変わらなかった。
それから5年、6年と経ち当時小学生だった私も晴れて高校生となったが、今でも彼に感謝しているし彼のことが妹として、一人の女のとして大好きだ。
次回は1話だけ妹sideに行きます。




