-第21話-好み
駅から線路沿いに5分ほど歩いたところに目的地であるペットショップはあった。
周りには少しお洒落なバーやレストランが並ぶ中、そのお店だけはポップな印象を持たせるような外装だった。
表には大大的にポスターが貼られているのではなく、紫色に塗られた壁にガラス窓がいくつかついており、あくまでそこからケージに入れられた犬や猫が見えるようになっているだけ。
何も知らない一般人であればここでペットがレンタルできるなんて気づかないであろう風貌をしていた。
もっと宣伝すればこのビジネスは儲かりそうなものだと思うのだが。
「いらっしゃいませー。お買い求めですか?レンタルですか?それともわたし?」
ドアを押し開けると、いかにもペットショップの店員をやってそうなエプロンを着けたお姉さんが迎え入れてくれた。
今は店内に他に客は居ないが、ガラス窓のケージの方はところどころ空いていたので客は来ているようだ。
「レンタルで」
「はーい。しっかりしてるね。さすがは女の子3人連れてるだけあるね」
「はあ。安芸さんたちどのくらいの時間にする?」
「うーん、とりあえず1時間でいいかな。延長とかって大丈夫ですか?」
「もちろんできますよ。ただ割高になるけどね」
「そこは大丈夫なので、まずは1時間でお願いします」
安芸さんは鞄の中から財布を取り出し、俺に何も言わずに会計へと向かった。
せめて割り勘にしようと言っても、前回と同じように自分に付き合わせてしまっているのだからお金は出すと言ってくれるのだろう。
ここで安芸さんに反抗しても押し切られて払わされてしまうのであとで返済するのが吉かな。
「はい。お支払いありがとうございます。では、今日連れていくワンちゃんを選んでください」
安芸さんが財布をしまったと同時に店員さんから選ぶように言われた。
恐らくここから選ぶのであろう、向かって右側のガラス窓が付いていなく、ある程度解放されたケージを見てみるとそこには様々な色や大きさの犬がおよそ15匹いた。
例えば栗のような薄い茶色で小さく愛くるしい見た目をしているトイプードル。
白い長い毛に覆われた小型のポメラニアン。
あとは白黒の短い毛で体が大きく迫力のあるシェパードなんかが目についた。
安芸さん達は犬を順々に見ていき選定している。
「うーん、どの子も可愛いけどやっぱり私はこの子かな」
安芸さんが指さしているのは先程俺も気になったトイプードル。
いかにも愛玩動物といった見た目をしているため人気も高いんだろう。
パフェを食べている時のような可愛らしい笑顔を浮かべている時の安芸さんにはとてもマッチしている。
「お嬢様のも可愛いですが、私はこの子がいいです」
そう言って梨花さんの目線を辿ってみると、先には柴犬がいた。
柴犬は人懐っこくて頭が良く王道の犬って感じだよな。
いつもはクールで甘いものも好きではない彼女でも犬は好きだと言っていたが、こんな可愛い犬種を選ぶんだな。
てっきりもっと渋い犬が好きなんだと思ってた。
「姫芽はやっぱりこの子かな」
姫芽さんはブルドッグを見つめていた......。
姫芽さんのいつもの感じだとチワワだとか安芸さんが希望しているトイプードルだとかそういう可愛い感じのが好きなんだと思ってた。
確かにブルドッグも潰れた鼻や素直な性格は可愛いと思うが、他2人が挙げたものよりはマイナーだ。
これが最近流行りのブサカワってやつなのかな......。
俺は姫芽さんはますます人物像が掴めなくなっていた。
「これは私が幸せになるって山口くんにお願いしたのの1部なんだから、私に決めさせてよ」
「いくらお嬢様でも譲れません!」
「そうだよ。こういう時くらい姫芽に選ばせてよ」
3人はまるで初めて買ったソフトで御三家を決めるかのようにかれこれ10分以上揉めていた。
かといって3匹とも借りるという選択肢はないらしくどんどんとヒートアップしていく。
「山口くんはどれがいいとかある?私たちで決めようとしても揉めちゃうから希望があるなら決めて欲しいなって」
「俺か......俺はみんなの好きなやつがいいんだけどな。前回来てない梨花さんの選んだ犬とかでいいんじゃないかな......」
安芸さんが俺に決めるように促してくる。俺は犬なら全部可愛いと思うし、彼女たち自身で決めた方が後悔が残らないと思うから、決めることはできない。
「それはそれ、これはこれなの。絶対にそんな方法では決めたくないな。」
「あ、じゃあ妹が可愛いって言ってたポテまるくんでどう?店員さん!ポテまるってどの子ですか?」
「はい!この子ですね!」
店員さんから手渡されたのは姫芽さんが熱望していたブルドッグだった。
結奈よ......。お前もそっち側の人間だったのか......。
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