waste
「ちなみにもうひとつ教えてあげよう。お前は俺の代わりに罪を被ってサソリを仕向けて村を襲い、女子供を焼き殺した大罪人になるのだ」
俺の代わり……?
「ふざけるなッ、なんで俺が、」
くそ、俺があの時一瞬迷ったのがそんなに罪だって言うのか。目の前の男はそれ以上の罪を犯しておいて何故罰を受けない。
「ゴミがうるさいな、もう決まったことだ。俺のような優れたスキルを持っている訳でもないお前がこの現状を覆すことは出来ない」
「……何が目的なんだよ、俺がなにかしたって言うのかッ」
「勘違いするなよ、貴様はたまたま身代わりになっただけだ」
「教えて欲しいか?」
ウェイストはバカにしたようにそう言いつつ、大仰な身振り手振りでまるで俺を煽り散らすように説明した。
その話の内容ははっきり言って自己中としか言いようのないものだった。
砂漠だと思ってた砂の土地は実は巨大な砂浜で、ウェイストが塩の生産地として大いに価値があると踏んだらしい。
この世界において、塩を生成する時に化学製法を使う知識などはもちろんあるはずがなく、未だに海からの天日干しで需要を賄っているそうだ。
しかし、砂浜にはサソリが住んでおりそれぞれの巣が輸送を妨げる。そのため、領は今まで大事な資金源を放置していたに等しかったのだった。
だが現領主との盟約によりサソリを退治することになったアールの長年の成果のおかげで、サソリは次第に数を減らし護衛をつけての輸送で何とか通れるようになったらしい。
アールの行動は本来領に報酬を貰ってもいいほどの行動だった。だがウェイストはそれを、「凡人の悪あがき」と言った。
ウェイストは自らの力を持ってすれば残りのサソリを一掃できると考えて、アールの村辺りに塩の生産をメインとした新たな都市を作ろうと画策していた。
そういう訳で、アール達が住んでいた村周辺の土地が欲しかったらしく、その目的にはあの村があることが目障りだったらしい。
「どうだ? 素晴らしい計画だろう。長年かけても処理しきれないサソリを私が全滅させ、領のさらなる発展、ひいては私の地位の向上を狙える。アールは本当にいいカモだった。」
クハハハと顔を歪ませて笑うウェイストを見て、俺は生まれて初めて『悪』というものを意識した。
こいつは悪だ、生かしてはいけない存在だ。
俺は、ウェイストを睨んだ。
ウェイストはこちらを見て、一瞬だけ目を逸らした。がまたすぐ元の顔に戻った。
「何だその目は。俺が殺したいか? 殺してみろよ、無理だろうな。お前は黙って俺の身代わりになってればいいのだ」
そう言ってまた俺を殴った。痛みよりも悔しさが、怖さよりも怒りが俺の中に渦巻いて、自分の心に黒いシミのようなものができた気がした。
が、何故か直ぐに優しかった父の顔が思い浮かび黒い気持ちは消え去った。
【祝福を受けました】
【祝福による最上位禁呪封印への干渉及び、緩和を確認】
【被封印スキルの解凍を開始】
【17%……41%……76%……99%】
【解凍を確認。復旧完了】
【最上位禁呪封印は丙級上位禁呪封印へ変化。なお『大✲¦●意юФ』によりこの作業は秘匿条件下により行われました】
ん? アナウンスみたいな声が聞こえた。直ぐにウェイストの方を見たがウェイストには聞こえてないらしい。
「……どうした、」
俺の表情が変わったことを不審に思ったウェイストが殴る手を止める。
とそこで、馬車が急に止まった。
「ウェイスト様、到着致しました」
どうやら領都に着いたようだ。村からどのくらい遠いんだろうか。俺が気絶していた正確な時間が分からないが、長くて2、3日くらいだろうか。そこから半日ほどだから、かなりの距離を移動したことになる。
「ちっ、もう着いたのか。もう少し支度が必要だろうに。御者よ、こいつを牢に運び込め」
そういうと、まばらにいる検問の人だかりを無許可で入っていった。領主の跡取りだったからか。
俺は、検問所の少し外れの小さな扉から入ることになった。そこからは目隠しをされどこをどう歩いたのかは分からない。気がついたら、金属で出来た重厚な扉の前に立たされていた。
「入れ」
低い声で看守と思われる人に命令される。有無を言わさぬ表情に仕方なく入る。
ガチャンという音ともに、俺と世界との繋がりは絶たれた。こんなところで一生を終える、もしくは死刑だなんてことは有り得ない。俺には成すべきことがある。
と言っても逃げ出すのは無理があるな。
辺りを見渡してみたところ、隙間のない石壁で扉以外の四方を覆われている。唯一ある窓は、隣の部屋と繋がってはいるが誰もいない。
その奥の部屋をみたところ窓が壁の両側に付いていることから俺の部屋は角部屋らしい。
こんな時どうすんだろうなぁ。ラノベでこういう場面とかあったっけ。あんま詳しくないから覚えてない、もしくは知らない。
鉄格子を尿で溶かすとかよく見るけど、そもそも鉄格子ねぇし。なんなら食事の受け取りができるところも見当たらない。
もしかしてここって、もうすぐ死刑になるやつの部屋とか? こういう時の勘は嫌という程当たるんだよな俺。
そんなことを考えていると、コツコツと外を誰かが歩く音が聞こえてきた。しかも複数人だ。
誰かが挑発するような口調で話しているのが聞こえる。それを咎めるような看守と思われる人の声も。
やがてガチャンと扉の閉じる音が聞こえ、その声も途絶えた。そりゃそうだろう。どれだけ強がっていてもこんな牢獄に、それももうすぐ死刑の部屋に押し込まれたら冗談など言えた気分じゃない。
沈黙が流れる。
……………………
…………
……
「ばぁッ」
「うわぁぁぁぁ」
隣の部屋にぶち込まれたヤツが大きな声で俺を脅かした。
マジでビビるって、ふざけんなよコノヤロウ。
「誰だよお前」
どんな場所でも、隣人って大事だよな。変な人が隣の部屋だったら落ち着いて寝ることも出来ない。まぁ、もっともここ牢屋なんですけど。
ひょこっと、窮屈そうに窓から顔を出したその顔を見た途端、頭の奥底がチリッと疼いた気がした。
「よォ、会いたかったぜぇ空」
男は、俺の名前を知っていた。
「なんで俺の名前を知ってんだ?」
こいつ見るからに怪しいんだが。服は黒いボロボロの布だし、俺よりでかいし、俺185あんだけど。
「そんなに警戒すんなよ。ステータス見ただろう?お前も」
ステータスを知ってる!? あれ俺だけのチートスキルになる予定だったんですけど……。
「驚いた顔だな、お前見てないのかまさか」
呆れた顔をしてその男はステータスを開いた。ステータスは持っている人には見えて、持っていない人には見えないものなのか。
とりあえず自分もステータスを開く。
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ステータス
固有名 片無 空
称号 無し
固有スキル 『特異点(丙式上位禁呪封印)』
『太陽』 ―
『彗球』 ――
『明球』 ――
『地球』 ――
『熒球』 ――
『歳球』 ――
『環球』 ――
『天球』 ――
『冥球』 ――
称号スキル 『***位#**体』
通常スキル 『鑑定』
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「何か増えてる……」
えらい物騒な何とか封印やら文字化けしてるスキルやらあるな。そういや、さっきウェイストに殴られてる時に変なアナウンスがあったな。あれのせいなのか?
「開き方は知ってる見てぇだな」
「たまたま知ったんだ」
地球でそういう漫画が流行っててとか言っても、地球も漫画も知らない奴に伝わるはずがないよな。
「そういやなんでお前は俺の名前を知ってるんだ?」
ステータスに気を取られて忘れそうになっていたがこいつは俺を会う前から知っていた。
「……は? お前なんのためにステータス開いたんだ。鑑定あるじゃねぇか」
言われて見返すと、確かに通常スキルの『鑑定』が、新たに増えていたのに気付いた。
「まさか、気付いて無かったとかねぇよなぁ」
「…………」
「呆れた、この様子じゃあスキルの使い方すら知らねぇ可能性もあるなァ」
「……知らねぇ」
仕方ないじゃんかよ。俺まだこの世界に来て1週間程しかたってないんだぞ。右も左も分かるかい。
俺が開き直っていると、男はやれやれと言った感じで首を横に振った。
「テキトーな物に『鑑定』と唱えてみろ。スキルが使えるはずだ」
この男、見た目によらず親切だぞ。
「勘違いしてんじゃねェ。話が進まないからこうしてやってるだけだ」
はいはい、いるよなこういう天邪鬼なやつ。
「じゃあ気を取り直して、『鑑定』」
俺は、牢屋の壁に向かって鑑定をかけた。
【牢屋の壁】
そりゃ当たり前だろうがよ。もっとまともな情報まで教えろよ使えねぇな。
1人憤ってたのが表情から伝わったのか、男は面白そうに笑った。
「馬鹿なのかァお前。スキルは使う事に熟練度が増すんだ。初めてでそこらの壁を調べたところで大して何もわかりゃしねぇよ」
「じゃあなんで『鑑定』を使わせようとするんだ?」
お陰様でスキルの使い方はわかったが、この男のことについては何も分かっていない。
「よく聞けよ、『鑑定』は物だけに使えるもんじゃねェ。スキルなんかにも通用すんだよ。お前のスキルにも読めねぇやつがあるだろォ? それ鑑定してみろ」
言われるがままやってみる。
【スキル『***位#**体』】
【『***位#**体』は、魂の特別な繋がりを持つ者同士が互いに所有するスキル。お互いの生死や位置などを把握出来る】
【ただし、現在の使用可能領域は66%である。原因は秘匿】
「なんか、魂の繋がりとか意味が分からないことばっか書いてあったんだけど」
これ繋がってる同士のプライバシーとかない感じのやつ?
「おう、それだ。頭の中でそのスキル意識してみろ。そしたら何となく情報が入ってくるからよォ」
頭の中でスキルを意識……。こんなもんか?
【ナキの現在地は、四季大陸夏地方領都「彼岸」の都立刑務所です。】
おぉ、出た。そうか、こうして俺の名前を知ったって言うわけか。
「ナキの現在地がなんちゃらって……。お前ナキって言うのか」
「そうだ、俺たちはなんでか分かんねぇが魂の繋がりがある見てェだ。よろしく頼むぜ、カカカッ」
見るからにガラの悪いこいつと特別な繋がりか。嫌な気もするが、少し話しただけだが、気が合いそうな気もする。
「まぁ、よろしく。っても、牢屋の中だけどな」
獄中生活の友達って意味での特別な繋がりだとか? そうだとしたら、皮肉がすぎるぞこのスキル。
「そうそう、言うの忘れてたぜェ。俺はお前を脱獄させるためにここに入ってきたんだ」
は?
「何言ってんの?お前」
前言撤回。こいつやっぱりただのヤバいやつなんじゃ? そいつと繋がりのある俺も同類?
「この読めねぇスキルは生まれてからつい最近まで使えねぇゴミスキルだったんだ。だが、つい最近反応するようになり始めた」
つい最近?……。俺が転移してきたくらいの時期か。
「で、気にかけて何度も見てたらお前が刑務所に収容されてんのを見てよォ、面白そうなことに巻き込まれてそうだっから脱獄させに来たって訳だァ」
……動機が希薄すぎて逆に信頼出来る。
「ちなみに、お前あと7日で死刑だ」
しけい? シケイ? 死刑!
「ええええええええええええッ」
「なんだァ、知らなかったのか。来る途中にテキトーに看守を煽ってたらよォ、色んな話してくれて、空が村滅ぼしたんだろォ? それで死刑だ。まぁ、ほんとにお前がやったんならの話だがなぁ」
俺が死刑? あのクソ跡取りが。真相を知るものを消そうって魂胆だな。てか、悪い予想当たったじゃんやっぱり。
「なんでナキは、俺がやったことを疑ってるんだ?」
ほんとにお前がやったなら、まるで俺が犯人ではないことを知ってるくちぶりだ。
「簡単な話だ。お前のスキル構成を見ても、焼き尽くしたりできるようなスキルは無かった。それに、現場に残されていた、魔力の残滓が今のお前からは見られない。そして、第一幾ら油断していたとしても、屈強な男たちでそこそこ名の知れてる村だぞあそこは。お前1人対処することが出来ないとは思えねぇんだよ」
ナキは現地に行ってたんだ。魔力に関しては俺は全く分からないが、少なくとも村で事件が起こった時点で俺でないことを疑ってる行動だな。
「何か裏を知ってそうな感じだな」
「お、意外と鋭でェじゃねぇか。」
ナキは嬉しそうにククッと喉を鳴らした。
「じゃあ教えてやるよ。ある魔物についての話だ」




