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スペCV  作者: 帝釈天
1章
3/4

喜劇

書いてると自分の意思に関係なく勝手に話が進んじゃって困ります笑笑。なんでこんな展開にと思うことが多々。

 地平線の先から俺を襲ったであろうサソリの1匹が村へ目掛けて向かってきている。


「空、お主がまだ見た事のないじゃろう魔術じゃ。目ぇかっぽじってよく見るんじゃよ」


 村まであともう少しという距離にいるサソリに右拳を向けた。何するんだ? 雰囲気ちょっとかっこいい。


「我が母よ、被虐の民を憂う我が母よ。嚇怒を拳に、拳を彼奴らへ」


 アールが詩のような言葉を紡ぐと、それに呼応するかのように伸ばした右手の拳に得体の知れない何かが集まってゆく。


 遠心力のように、感じるのに実体のない不思議な力。1度感じ取れるようになると、自分の体の周りを巡っていることさえも分かるようになった。


「どうじゃ空よ。感じるじゃろ、これが魔力じゃ。一瞬じゃからよく見ておくことじゃよ」


 アールは限界まで魔力を貯めた右手を俺に指し示し、サソリに視線を向け直して宣言した。


巨嚇怒(ムーターツウルト)


 アールがそう唱えた途端集まっていた魔力は消え、サソリたちの頭上にサソリの3倍程の岩でできた大きな拳骨が出現した。


 地面と巨岩の衝突に、大気がビリビリと震える。


 巨大な質量がサソリに衝突する様は、俺に自然の力とそれを扱う人に対しての畏怖の感情を芽生えさせた。


 硬い表皮を持っていたサソリは、まるで大地の怒りをその身に受けたかのようにその身を屈して押しつぶされてしまった。


「…………これが魔術」


 なんて力だ。人一人が持てる力なのかこれは。魔術、もしかしたら俺も使えるのか?


「どうじゃ、使ってみたくなってきたじゃろ。魔術は人に元々備わる力じゃ。程度の差はあれ、誰でも使えるもんじゃ。儂のあれもまだ全力じゃないしの、儂も広く見ればそう強い魔術師では無いんじゃよ」


 マジかよ、あの魔術を超える人間がいるのか? 異世界レベル高ぇな。


 というか、俺も使えんの? これ。闇の炎に抱かれて死ねとか言いたいよな。男子はいつまでも少年の心を忘れられないものだ。


「ほれ、さっき魔力を感じたじゃろ? あれはこの世界に生きてりゃ誰でも体内に宿しているものじゃ。それと同時に、魔術が誰にでも使える事の証明でもあるのじゃ」


「じゃあ、俺もあの技が出来るのか?」


 なんだっけ、『巨嚇怒(ムーターツウルト)』? 

あれ使えたら俺も異世界デビューできるな。


「いや、わからんが今は無理じゃろうな。魔術は誰でも使えるが、使えると言っても生活魔法程度が一般的じゃ。薪に火をつけたりコップ一杯分の水を作ったりは誰でも出来るんじゃが、火の玉を投げたり水に溺れさせたりと攻撃に使うには適性と鍛錬がいるんじゃよ」


 そうか、まぁ誰でもあの程度できるなら領が悩むほどの事態にはならないよな。


「どうやったら適性は分かるんだ?」


「適性を判別するには特別な魔術が必要じゃ」


 特別な魔術。これに惹かれない男子はいない。


「特別な魔術って…………?」


「鑑定魔法の事じゃ。この世界には、稀にギフトと言って能力(スキル)をその身に宿す者がおってのぉ、彼らの中にたまに固有属性を持っておる者がいるんじゃ」


「固有属性ってなんだ?」


 「そうじゃ、まず属性の話からするべきじゃったのぅ。この世界の魔術において基本属性というのは火、水、土、風、光、闇の6つじゃ。じゃが能力(スキル)で固有属性を持つものは、それら以外に時間や空間などの固有属性を持つものがおる」


 なるほど、俺にも能力(スキル)がある可能性はあるな。異世界人特典でチートとかあると嬉しいな。


「ふっふっふ、アールよ。俺は異世界から来たんだ。能力(スキル)持ちかもしれないぞ」


「ふぉっふぉ、そうかもしれんのう。じゃが、能力(スキル)自体は誰でも持っておるぞ。ただその中で有用なものが少ないのじゃ。」


「アールも持ってるのか?」


 スキル亀仙人とかじゃないだろうな。かめはめ波も有り得る。


「儂のスキルは、魔力増加極小だけじゃ」


「…………」


「微妙な顔をするのをやめぃ。これでも100人に1人のスキルじゃぞ。例えるなら、10の魔力が30になるんじゃからの」


 なんだ、結構増えるじゃん。てか、俺転移してきたんだぜ。もしかするとステータス表示とかできたりすんじゃないのか?


 物は試しだ、行くぜッ。


「『ステータス』」


 そう唱えると、ブンッと音を立てて俺の目の前にスクリーンが出た。


---------------------------------------------------

ステータス


固有名 片無 空


称号 無し


固有スキル 特異点(最上位禁呪封印)


---------------------------------------------------



「うぉ、マジで出た」


「なんじゃ、どうかしたかの空?」


 アールはなんの事か分からない様子でこちらを見ている。これもしかして、俺にしか見えてないのか?


「いや、アールこれ見えないのか?」


 スクリーンを指差すがアールはピンと来ていない様子。俺は今自分に起こった内容をアールに説明した。


「……なるほど。自分の称号に能力(スキル)が確認出来るのか。そして、お主の持つ能力(スキル)は『特異点』というのじゃな」


 これはチートスキル来たんじゃないか? あれ、俺勝ち組っすか?


「じゃが、名前を呼んでも起動されないということは現状はただステータスを表示させるだけという鑑定にも劣る微妙な能力(スキル)じゃのう」


 なんだ、神様はそう簡単に楽な道を与えてくれないのか。そりゃそうだな、ドラクエ最初からLv100は面白くないもんな。わかってるな神様、そういうことにしておこう。


「そう落ち込まんでもいいぞ。王級のスキルには発動条件があるものがあるからのう。まだ発動してないだけかもしれんじゃろ?」


「あっ、なんか最上級禁呪封印とか書いてたな」


「何じゃその物騒なのは。お主まじで勇者なんじゃなかろうな」


 アールは茶化してそういうが、あながちそうかもしれないな。


「まぁ何にせよ、生きてればいつかは使えるようになるじゃろう」


「そうだな。そう思うことにしよう」


 切り替えは大事だ。

 

「よし、じゃあ話を戻すがの、お主の魔術の適性が知りたければ鑑定してもらいに教会に行く事じゃ。教会には必ず1人鑑定魔法の使い手がおって能力(スキル)や称号について詳しく教えてくれるから、お主のその能力(スキル)が何か分かるかもしれんぞ。」


 そうなのか。でも俺ここ来てまだ1日も経ってないし、金も持ってない。もちろんこの世界の地理なんてほぼ知らないも等しい。


「まぁ、でも今日や明日に移動するのはきついじゃろうな。1週間くらいここに居て、この世界についてある程度理解してから行くと良いじゃろう。もう日も暮れてきたし、今日は寝なされ」


 言われて周りを見ると日が砂漠の遠い向こうに沈みかけていた。


「ありがとう、そうさせてもらうよ」


 そうして俺の異世界一日目は終わった。








 朝になった。この村の人々は基本早起きだ。体感で朝の4時ぐらいに起きて井戸から水を汲んだり、羊に餌をやったりと働いている。


 俺は4時に起こされて、村長にこの世界についての細かな授業のようなものを受けた。気持ちはありがたいが、何もこんなに早く起きなくてもという気持ちがない訳でもない。絶対口には出さないが。


「いいか空、一日は24時間らしい。首都の学者たちが考えたらしいんじゃが、冒険者の儂には分からなんだ。それに、六大陸についても話とかないかんのぅ。あれは遠い昔……」


 こんな話が昼まで続いた。正直退屈だったが老婆心的なやつなのかと思えばむしろありがたかった。


 それに実際この世界の地理や、貨幣制度など生き抜くために必要なことは質問すればなんでも教えてくれた。年寄りの知恵には感謝だ。


 昼からは、アールには何をしていてもいいと言われたのでステータスでも表示してみようと思ったが、特に変わった点もなかったので、そっと閉じた。


 もちろん『特異点』がどんなスキルなのかも分からないままだ。何か条件でもあるのだろうか。


 考えていたのは実際15分程度でそのあとはすぐに暇となったので、村の手伝いをしようと思い立ってそこら辺をうろちょろすることにした。


 ここに来て2日目だが俺のことが目新しいからか、皆すぐに名前と顔を覚えてくれて嬉しかった。


 2日目は、小麦の精製から赤子の世話役まで雑用をこなした。みんな喜んでくれた。2日前までこんな感じでバイトしてたなと思うと泣けてくる。


 3日目、ここから俺の人生は大きく変わることとなってしまった。


 俺は最初に出会った門番の男(名前をニックというらしい)に誘われて、一緒に村の見張りをすることになった。


 見張りと言っても所詮よそ者の俺ができるほど簡単なものでただ地平線を見張っとけばいい仕事だったのだが、普段は1ヶ月に三体とかそこらのサソリが15匹まとめてやってきた。


「サソリが15匹、作業を全てやめて男どもは武器を持ってこい。女子供は奥にすっこんでろッ」


 ニックが声をはりあげてそういった。


 俺は戦えるはずがないので本来女子供と一緒に奥に隠れているのが良かったのだろうが、見ず知らずの俺を信用しようとしてくれる村の人達に少しでもなにかしてあげたくて近くの木の槍を貸してもらった。


 キシっキシっと外皮を擦り合わせながらサソリは目の前へやってきた。しかし、サソリの体は15匹共に傷がついており様子もおかしくなにかから逃げてきたような感じだった。


「今だ、戦え!」


 遅れてきたアールが声を張り上げた。


「うぉぉぉぉぉぉぉっっ」


 男たちは凄まじい怒号をあげて向かっていく。しかし、本来サソリに対して村長のアールを除けば1人で戦えるものは居ない。


 それに、村に男は20人いるがサソリ相手に5人はいないと勝てない。


 絶望的だと思える状況の中、アールの活躍もあってかサソリの数はみるみる減っていった。


「空、お前はこの村の奴じゃねぇんだ。無理してここにいるこたァねぇぞ」


 ニックが戦いの最中、息を切らしながら声をかけてくれた。だが俺はいざ目の前にすると戦うことも逃げることも出来ず、ただそこに突っ立っとくことしか出来なかった。


「あとサソリは6体。勝てるぞッ」


 村の男の誰かがそう言った。だが、そうはならなかった。突然頭上を大きな火の玉が横切ったのだ。


 驚いて目を向けると女子供が隠れていた方の建物が全て燃えていた。


 「あれは魔術。一体誰がこんなことを……」


 憎々しげにアールがつぶやく。


 みな助けに行きたそうな顔をして建物の方を見たが、ただでさえ絶望的な状況。ただ1人を除いて助けに行くことが出来る者はいなかった。


「空、頼む。俺らの家族を助けてきてくれ」

「儂からも頼む。急いでくれ」


 サソリの処理で手一杯な男たちはみな空に託した。


「わ、わかった」


 炎が怖い。魔物が怖い。逃げ出したい。俺は関係ない。


 たった2日だが暖かく接してくれる人達に報いたいという気持ちよりも正直早く逃げ出したいという気持ちの方が強かった。


 一瞬、足が動かなかった。


 それでも足を動かし、助けに向かったのはそのことの恐怖よりも村の人達にお前に親切にしてやったのにと非難されることの方が怖かったからだ。


 全力で走って燃えているところに向かうと、ちょうど女子供がいた建物が崩れ落ちた。


 悲鳴が聞こえた。


 吐き気がした。


 肉が焼ける音になんとも言えない不快な匂いが胃を締め付けたからだ。


 もう助からないだろう。


 あともう少し早く走れば、頼まれた時に躊躇わなければ助かった命があったのかもしれない。


 炎を見ながら、情けなさに涙も出ない自分をどこか遠くから眺めた。続いていた悲鳴が徐々に絶えてきた。


 戻れない。助けられませんでした、1歩遅かったです。あなたがたの守りたかった家族はみんな俺の判断の遅さのせいで死にました、なんて言えない。


 俺は呆然と座っていた。何も聞こえないし何も話さない。この際何もかもどうでもいい気がしてきた。このまま帰れなくてもなんなら死んでしまっても。


 己が弱く非情な人間だと知ってしまった今、なにか考えることさえも嫌になった。


 俺は意識を手放した。











 どのくらいたったのだろう。


 俺は馬車に乗っていた。辺りを見渡そうと思って体を起こそうとするがなかなか上手くいかない。


 ふと手を見ると、手錠がかけられていた。


「なっ、なんで」


 外そうとしたが、鉄でできており不可能だった。


「ふはは、ようやく目覚めたか犯罪者」


 意識が朦朧としていたのか、男が座っていたのが今の今まで分からなかった。


「俺がなにか……」


 燃える炎。悲鳴。村の男たち。サソリ。


「うぉぉぇぇぇ」


 フラッシュバックしてきた記憶に吐き気がした。吐くものもなくなって胃液だけが口からこぼれた。


「これだから下賎な民は嫌いなのだ。こんなっ、風に、地べたを、這いつくばって、生きるしかない分際で、偉そうに、土地を保有しやがって」


 そう言いつつ男は何度も俺を蹴った。


「ウェイスト様、馬車が壊れてしまいますっ」


 馬車を操っている御者が前から声をかけた。男の名はウェイストというらしい。


「黙れっ。お前もこうなりたいのか?」


「いえっ、結構でございます」


 御者の男はすぐさま前を向いてその後意見することは無かった。


「おいゴミ」


 ウェイストが俺をゴミ呼ばわりする。


「お前のことだぞ、ゴミ。可哀想だったなぁ、村の者たちはサソリに食われ、女子供は俺の火魔法で村丸ごと全滅」


 サソリ?俺の魔法?


 アール達が死ぬように仕向けたのは全部こいつだったのか。


 ふつふつと怒りが込み上げてくる。自分が弱いせいで助けられなかったことは変わらない。そこまでをこの男のせいにするつもりは無い。俺が命をかけて守ってくれた人達の命よりも大切なものを救おうとしなかったのは事実だ。


 ただ、こいつさえ居なければそもそも村のみんなは死なずにすんだ。こいつさえ居なければ俺は弱さなんか知らなくて良かった。


「なんだ、怒っているのか?ゴミの分際で」


「黙れッ」


 俺は手錠の着いた両手を壁に打ち付けた。


「おぉ、おぉ、こわいものだ。」


 ウェイストは茶化すように手をひらひらと振った。


「ちなみにもうひとつ教えてあげよう。お前は俺の代わりに罪を被ってサソリを仕向けて村を襲い、女子供を焼き殺した大罪人になるのだ」


 俺は自分の耳を疑った。


 

 


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