邂逅
村は小さいが、周囲を物騒な棘が付いた巨大なまきびしが覆っており、唯一それがない入口も槍を持った男が守っていた。
訪ねて行って問答無用で刺されたりとかしないだろうか。北セン〇ネル島とかは、漂流してきた人ですら刺し殺したなんて物騒な話聞いたしな。
「あの〜、宿を借りたいんですけど……」
って、家から急に飛ばされたから無一文なんで借りる金なんてないんだけどね……。どうしよう。
「お? 坊主、こんなとこで何してたんだ? 魔物がいっぱい居んだ、なんの装備もなしにうろついてちゃ危ないだろう。早く入りな」
門番の男は二カッと笑いながらすぐさま村に引き入れてくれた。てか、魔物?
「見たところ坊主はここら辺の奴じゃなさそうだな。どっから来たんだ?」
門番の男は不思議そうにそう聞いた。しかし、正直自分でもここがどこか分からないし、どこから来たといえばいいのか分からなかった。
「……分からない。もしかしたらすごく遠いところかもしれないです」
こんなテキトーな答えしか出来ないな。さすがに追い返されるか……?
「なんだ、そうなのか。坊主若ぇのに苦労してんだな。まぁここは大したもんもねぇけど人は温けぇ奴ばっかだから、ゆっくり休んでけよ」
「……ありがとう」
まさか労いの言葉までかけられると思わず驚いた。
「不審に思わないんですか?」
自分でも怪しいと思っているのに、他人ならましてそう思うだろう。むしろ、思わないなら思わないそっちが怪しいぞ。
「なんだ、疑って欲しいのか坊主? ここら辺はこの村以外人が住んでねぇからな。たまに旅人が訪ねてくんだよ。」
「そうなんですか、ご親切にありがとうございます」
「親切ついでに言っとくがな、敬語使うと身分がバレちまうから使わなくてもいい場面では使わん方がいいぞ」
この地域には貴族制度があるのか? ますますどこか分からなくなるな。
「忠告ありがとうござ、……ありがとう」
その後、面倒見のいい門番の男は、この村のことについて丁寧に教えてくれた。厳つい見た目をしていたから勝手に横柄だろうと決めつけていた。人は見かけじゃ判断できないな。
説明してくれた内容によると、ここは四季大陸の日ノ本皇国というところの夏地方に当たるらしい。
この村は、大陸の端にある巨大な砂浜の外れに位置しているらしく、時折やってくるサソリなどの魔物を撃退しながら自給自足の暮らしをしているので、門番の男のような屈強な男が多いのが特徴らしい。
見た感じ、女の人はムキムキだったりはしない。さすがに室伏と吉田沙保里だらけの村だったら逃げ出すよ? 俺。
それはそうと、日本のような別の国や、知らない地形、それに魔物。ここはほんとにどこか地球とは違うところなのだと実感させられる。仮説その2はあっていたのかもしれない。
「そうだ坊主、村長のとこ挨拶行くぞ。この村の流儀なんだ。付き合ってくれよ」
地球に思いを馳せていると、門番の男はそういった。得体の知れない男をいきなり村の長の元へ連れていくのは大丈夫なのかとも思ったが、今まで訪ねてきた人達にもこうしているのだろう。
それに門番が屈強な男だ。村長は覚醒した亀仙人みたいな人なんだろう。
「わかった、案内を頼む」
そういって連れられたのは、他の高床式の家よりも一際大きな高床式の家だった。
「よく来られた、旅の者よ」
家の中に出迎えたのは村長だった。しかし、先の予想とは大きく違って覚醒した亀仙人ではなく、ノーマルな方の亀仙人だった。サングラスはかけていないが……。
俺の目線から意図を汲み取ったのか、村長は微笑して自己紹介をした。
「儂はグレイルア村の村長をしておる、アールグレイじゃ。アールと呼んでおくれ。村長である儂がこの体躯じゃからこの村を頼りなく思うかも知らぬが、素朴でいい村じゃ。ぜひゆっくりしていっておくれ」
「いえいえとんでもない。わざわざ家にまで迎え入れてもらいありがたく思う。俺は片無空だ」
そんなに分かりやすい顔をしていたのか俺は……。てか、アールグレイ? 亀仙人なんだからどうせならウーロンとかプーアルだろ。というか、亀仙人って名前なんて言うんだろ、本名明かされてないよなあれ。
「ところで1つお願いというかなんと言うか、たまに旅人が訪ねてくると言っても村は基本誰かが尋ねてくることなぞ滅多にないからのぅ。この村には宿というものがないのじゃ。滞在中は儂の家で寝泊まりしておくれ」
普通そこら辺の馬小屋とかに寝かせると思うんだが。本当にこの村の人は心が暖かいというかなんと言うか、不用心とも言えるなこれは。
厚意は喜んで受け取ろう。実際今他に宛もないし。
「ありがとう。本当に助かる」
その後アールに何故砂漠を彷徨いていたのか聞かれた。どうせ話したところで眉唾物だろうと思ってしんじないだろうから、かえって話してもいいか人も良さそうだし。
そう考えて経緯を話すと、ものすごく驚かれたが疑われることはなかった。なんなら、この世界のことについて教えてくれることになった。後にわかったことだがこれまで何人かそういった異世界から来たとされる人間がいたという伝承があるらしい。
アールは、普段会議に使っているという少し広めの2階に俺を招いた。
「さて、本題に入ろうかの。恐らくじゃが、お主が元いた場所からみてここは異世界で間違いないじゃろう」
アールはこれまで見せてきた朗らかな表情とは打って変わって真面目な顔になった。
「なんでそう思うんだ?」
俺の疑問にアールは、古い絵本をもちだした。
「これは古い物語での、子供への童話にもなっておるんじゃ」
その後アールは絵本の内容を読み始めた。
「遥か昔、ただ原初の混沌だけが渦巻いていた時代。その混沌が大いなる意思によって3つの法へと姿を変えた。ひとつはこの世界に生死を与え、ふたつはこの世界に多様性を与え、そして三つはこの世界に理を与えた。そうしてこの世は豊かな自然多種多様な生物が住むになった」
この世の成り立ちか、日本神話みたいな感じだな。
アールは先を進める。
「それからまた永遠にも似た時間が流れ、世界に人族、獣人族、亜人族が生まれた。それらの種族は初めは争いなどを起こすことは無かった。だが、次第に力も魔力も大きな亜人族を危険視した勢力が現れ、排斥しようとした。」
どこの世界でも争いは始まるんだな。人は醜い生き物だな。俺もだが。
「その後、ある時突然世界に魔王が顕現した。魔王は差別を受け民が虐殺されたことを憎み、亜人族と共に領土を得ようと侵略した」
この世界には魔王がいたんだな。
「時を同じくして獣人族の中に、幻獣種を持つ者が現れ始めた。彼らは単体では魔王に劣るものの、連携すると魔王同等の力を持ち、3種族の中で劣等種とされたのは一番最初に差別を始めた人族だった」
因果応報と言うやつだな。
「人族が抵抗できないことをいい事に、獣人族と亜人族による人族の領地の奪い合いが始まった。このままでは人族は滅亡してしまう、そう考えた人族の王達は、召喚魔術という秘技を生み出した。そして彼らは、ほかの世界から勇者を召喚した。」
勇者もいんのかこの世界は。まぁ、魔王がいるのなら当然か。
「初代勇者は、鉄の玉を飛ばす武器に魔力をのせた技を用いて絶大な力を誇り、魔王や幻獣種とも渡り合った。ここにおいて、世界では人獣魔大戦が起こった」
遥か昔でも戦争をしていたのかと半信半疑できいていたが、村長の顔は至って真剣でそこには不思議と信憑性があった。
「その戦争は酷いもので、星を平らに伸ばしたような巨大な大陸のほとんどを破壊し荒れ果てたものにしてしまった」
星を平らにした大陸ってどれだけでかいんだよ。超大陸の理論まで同じ世界なのか?
「そんな世界の有様を見た大いなる意思は、自らの作り上げた世界を荒らされることを嘆き、ひとつだった大地を6つに分け大いなる力をもって大陸を元の状態に戻した。だが、魔王は生きており、幻獣種は生まれ、勇者はそれに呼応するかのように世界に召喚される。争いの種は未だ消えてはいない」
最後不安の残る終わり方だな。
「とまぁ、こんな感じじゃ。子供に聞かせるには少し重たい話じゃと思わんかね」
「争いをなくそうという気持ちにはなるんじゃないか?」
「確かにそうとも言えるのぉ。空よ、儂がお主を異世界から来たのだと言う理由はこの話じゃが、何かわかったかの?」
ありがとよ亀仙人。恐らくあんたの考えは当たってるよ。
「いやぁ、結局お主がどこから来たのか肝心な情報はさすがに知らんの。申し訳ないのぅ」
「いや、そうでも無い」
俺はそう言って口をつりあげた。
勇者が鉄の玉を飛ばす武器を持っていた? そんな武器は現代にしか存在しない。勇者は銃を使っていたんだ。それだけで地球から来たと言ってもほぼ過言ではない。あるとしたら地球と似た世界か。
とにかく、地球と限りなく似ているところから人が来たことには変わりない。今は、それで十分だ。
「長く話し過ぎて疲れたろう。今日は飯を食べて、ゆっくり休むといい」
アールはそういって、俺たちが話している最中ずっと後ろで奥さんなのか使用人なのかよくわからない人が作っていた食事を頂いた。
「うっまッッッッッッッ」
驚いた。恐らくこの村には砂糖や胡椒などといった調味料は無いはずだ。それなのにこのスープときたら、豚か牛かわからない動物のモツがゴロゴロ入ったただそれだけのシンプルな料理なのに、こうも舌を魅了する。
「お主この味がわかるんじゃな。さてはなかなかに食通じゃな?」
自分のことを食通だと思ったことは無いが、母さんの料理が美味かったから舌が肥えているというのはあるな。ドジだが料理は美味いうちの母、恋しいかな。
「そう言えば紹介しとらんかったのぅ、うちの妻じゃ」
紹介されたお婆さんはやはりさっき話していた時に一生懸命料理をしていたお婆さんだった。
「私はブルマ・ランチと言います。村にいる間何時でも気安くブルマと声をかけてくださいな」
ブルマとランチか、亀仙人は両方を選んだんだなこの欲張りめ。
「ブルマはなんで苗字かあるんだ?」
アールはアールグレイ。下の名前しかない。
「ブルマは昔ここの領の当主の娘での、儂はその時新進気鋭の武闘派魔術師として一緒に冒険者をしとったんじゃ」
やっぱり貴族は苗字が付くんだな。俺も隠した方がいいかもな。
「アールが魔術師ということも気になるが、貴族とそう簡単に結婚出来るもんなのか?」
貴族って血統とかうるさいイメージあるからな。
「そりゃ簡単じゃなかったがの、ブルマが8番目の娘じゃったことと、領内で長年悩みの種になっておったここら辺のサソリを定期的に駆逐することを条件に許してくれたんじゃ」
「そうか、それでこの村に住み着いたんだな」
「いや、そもそもこの村は儂らが1から作ったんじゃ。当時のギルドのメンバーを連れての」
てことは、初代村長か。初代○○にはなんでもかっこいいと感じる俺の厨二心は未だ健在。
「というか、アールはその歳でサソリ倒せるのか?」
村の男たちが倒してるのだろうか。
「ふぉふぉ、村の男が倒しているとでも思っとるじゃろ。まぁ、見ときんしゃい。そろそろじゃ」
そう言うとアールは着いてこいとジェスチャーし、村の唯一の入口に向かった。
そして、入口に着いたのとほぼ同時に村入口左右に取り付けられた見張り台から警鐘が鳴らされた。
「空、お前さん相当逃げるの上手いのう。もう少し早くサソリが来ると思ったんじゃがのう。」
村の外の砂漠、のそのさらに奥から恐らく俺が逃げてきたサソリが5匹ほどこちらへ向かっていた。
「さて、怯えるなよ空よ。儂の実力を見せちゃろう」
もうろくに目が見えているのかも分からないような歳のアールグレイは、たった1人で5匹のサソリが来るのを待ち構えた。




