プロローグ
3話投稿してみます。応援してくれる人がいれば書き続けていきたいと思います。
ある日俺は、異世界に転移した。
事の顛末を端的に伝えられたらいいのだが、自分でも何が起きたか整理がついていない部分がたくさんあるため順を追って説明していくとする。
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俺は片無 空17歳の高校2年生だった。学校では特に目立つ方でもなく、みんなに慕われているリーダー格の奴と3番目くらいに仲良いポジションだったから何となく陽キャ集団の中に居た、取り柄もない普通の高校生だ。
勉強は人並み程度で満足していたし、運動神経は良かった部活動にもさそわれたが、親に学費を払わせたくなくて自分で払っていたため、バイトに勤しんだ。
ある日俺はいつも通りバイトをして家に帰った。
「ただいま」
玄関のドアを開けると、不安そうに母が出迎えている。
「また母さん、毎日出迎えなくても大丈夫だって」
母は、いつも俺の帰りをこうして玄関で待っている。
「いいのよ、好きでやってるの」
母はそう言うが、本当は心配でたまらないのだと思う。うちの家庭には父親が居ない。父は戦闘機のパイロットをしていたのだが、自分がまだ4、5歳の頃に巡回中突然機体ごと行方不明になりそれ以降未だ見つかっていないのだ。
「ところで空、今日はどんな一日だった?」
母のいつもの出迎えルーティンにこれは含まれていて、俺は必ず最高だったと答えなければならない。
幼い頃からずっと続いており、なんの意味があるのだろうと思っていたが、最近は母と自分との合言葉の様なものだという解釈をしている。
「あぁ、最高だった」
母は満足そうに頷いた。
「そうね、なら良かったわ」
その後風呂に入って夕食を済ませ、17というのに一緒に寝ることを強要してくる母41歳を何とか説き伏せ、俺はベッドに横たわった。
横になって何分か経ってそういえばスマホの充電をしていないと、普段つけているアイマスクをしたまま手探りでスマホを探し、ベッドの上をビシバシ叩くようにして探すとスマホとは明らかに違う四角い箱に手が当たった。
「あ? なんだこれ」
俺は視界を塞いでいたアイマスクをとり、部屋の明かりをつけてその箱をみた。
艶がなく光をほとんど反射しない真っ黒な立方体。よく見るとひとつの面が9つの小さな正方形に分かれており、それは、真っ黒なルービックキューブだった。
黒いルービックキューブなんてそう簡単に落ちているものでもないし、もちろん自分で買ったりした記憶はない。
「誰かの間違って持って帰ったか?」
俺の周りにいる人間はみんな恋愛かインスタ映え、もしくは楽に生きることにしか興味のない連中ばかりだ。ルービックキューブなんて頭のいい趣味を持ってるやつなんていないな。
俺はそう思いながら、おもむろにそのルービックキューブを回した。
途端。
ルービックキューブはひとりでにカシャンカシャンと音を立てて回り始めた。
「う、うぇぇぇ」
当然驚いたが、そんなことを気にもとめないかのように回転の速度が増していく。
「なんだよ、これ」
気味が悪くなって枕で壁に叩きつけようとしたが、ルービックキューブは壁に当たることなく部屋の中央へと吸い寄せられ、宙に浮きながらその回転をますます増していた。
身の危険を感じた俺は、部屋から逃げようとするがその時ルービックキューブから真っ黒な光が放出。いや、周りの全てのもの、光までもが吸収され俺自身も中に吸い込まれてしまった。
そして今に至る。
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黒いルービックキューブに吸い込まれたあと、俺はしばらく濃い黒いモヤがかかった空間をただふわふわと浮いていた。
その感覚は不思議で、体がモヤの中に浮かんでいるのか体自体がモヤとなって浮いているのか分からないなんとも言えない感覚だった。
そして何時間か、下手したら何日か経った後、急にモヤが晴れ始めて辺りが顕になった。
そこは、さっきまで居た自室ではなく広大な砂漠で、俺はそこにある巨大なクレーターの中に立っていた。
クレーターの中心部の盛り上がっている部分に乗ってみると、遠くにトラック程の大きなサソリがうっすら見えた。
サソリの大きさからして地球には間違いなく存在しない。あんなのがいたら人間なんて生き残れるわけが無い。
俺は回らない頭を無理やり働かせ、今の状況から仮説を立てた。
仮説その1、これは自分の見ている夢で、ルービックキューブは事故で破裂したかなんかで俺は意識を失っている。
仮説その2、俺は地球じゃ無いどこかに飛ばされてしまった。
仮説その3、最悪のパターンとしてそもそも違う世界に飛ばされた。さながら異世界転移と言うやつだ。
俺は辺り一面を見渡した。しかし、人間はおろかサソリ以外の生物すら見当たらない。今現在では、俺が仮説のどれにあてはまっているのかはわからない。
そして俺は自分がどこにいるのかすら分からない。
孤独や不安、そして焦りが混ざりあった得体の知れない恐怖が俺を襲った。
「だ、誰か」
呼びかけようにもクレーターの中にいるのですり鉢上の壁に邪魔をされて上手く声が届かない。
クレーターを登ろうとしても、砂が崩れるだけで進むことはできない。
俺は見知らぬ土地で死ぬのか、そう思った瞬間、先の恐怖がより鮮烈に脳に焼き付く。
が、死と同時に母のことを思い出した。
「俺が死んだら、母さんは1人だ。」
母はただでさえ心配性だ。1人になんて絶対にさせられない。
「父さんも俺も居なくなったら、きっと……。」
ん、父さんも俺も?
父は行方不明だ。だが、あくまで死んではいない。少なくとも俺と母はそう思って生きてきた。
俺はあのルービックキューブのせいでどこか分からない場所へ飛ばされてしまった。これが父さんと俺の2人に共通して起きた出来事だとすれば……。
父さんはこの世界に来たのかもしれない。
馬鹿げているかもしれない。あまりに突拍子もない飛躍しすぎた話だ。だが、その考えは自分の心を折らないための希望になるには十分だった。
「父さんを見つけ出して、必ず母さんの元へ帰る」
孤独だった俺の心に、希望に加えて目標ができたことでさっきよりも落ち着いて辺りを見ることができるようになった。
「あれ? サソリはどこに行った」
クレーターの中心からジャンプして外の様子を見る。しかし、さっきまであんなに大きく目立っていたサソリの姿は消えていた。
その代わり、クレーターが所々にあることに気付いた。もしかしてクレーターと思っていたこのすり鉢状の形は、蟻地獄じゃないだろうか。
「…………」
まさかねと思いつつゆっくり下を見ると、足がゆっくりと沈み始めていた。
「ああああああああぁぁぁ」
足が沈むより早く足を抜き差ししてすり鉢状の壁を登る。まさか運動神経がいいことがこのためにあったとは。
本気を出せば蟻地獄からでも抜け出せるんだ俺。そう思って安心しかけた矢先、さっきのサソリが中央部にできた穴から出てきた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
最後のひと踏ん張りで足を尚更早く動かすと、サソリは俺が逃げ切ると思ったのか尻尾を叩きつけてきた。
ギリギリのところで俺は蟻地獄を抜け出した。
「や、やったぞ。逃げ切ったぁぁ」
自分の何倍もあるサソリ(化け物)から逃げ切ったんだ。俺は思ったよりすごいのかもしれない、そう思っていた時期が俺にもありました。
余計な雄叫びを上げたせいで、他の巣穴にいたサソリが全てこちらを向いて走ってきている。サソリは蟻地獄を苦もなく登れるらしい。
「いやぁぁぉぉぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は走った。なりふり構わず、どこをどう走ったのかもよく分からないほど全力で。他の誰かになんて、なれやしないよ。そんなのわかってるんだ。
まさか今そこで高二17歳、ティーンエイジャーの俺にその歌詞が刺さるとは思ってもいなかった。
無我夢中に走ってしばらく。気が付くとサソリはいなくなっていた。そして村の前に立っていた。
「助かった」
俺は村の中に入っていった。