第78話 対オーク戦がはじまった
「来た! オークが二体」
「いよいよ、だな」
俺たちライセンスDの冒険者パーティにとってオーク戦は大きな壁だ。
ゴブリンやコボルトなら余裕で倒せるライセンスDパーティでもオークは別格だ。
2mに達する体格、盛り上がった筋肉。
知性もありながら、恐れを知らない奴ら。
それがオークだ。
俺たちもさんざんオークに損害を受けてきた。
一度は全滅一歩手前まで追い込まれたこともある。
そんな俺たちが、オークの巣近辺でオークを待ち伏せする。
そこまで来たという高揚感と、また損害を受けるかもという恐怖心。
武者震いが起きるというのも、当然だろう。
「いけっ」
まずは魔法使いによる攻撃だ。
《ファイヤージャベリン》
頭上に発生した炎の渦が敵に向かって伸び始める。
長さは約3m。
炎の槍が気づいて声を上げようとしている右側のオークに突進する。
命中! オークは炎に包まれながらも威嚇の声を上げる。
「突撃するぞ!」
俺はロングソードを構えて炎に包まれていない方のオークに向かう。
もうひとりの剣士と並んで走る。
《ファイヤーバレット》
魔法使いが援護射撃を始める。
小石大の火の弾が、オークに向かって放たれる。
よし、気がそれたぞ。
いけーーー。
俺の剣はオークの右肩に当たり、ぐさっと深い傷を与えた。
いける!
過去の経験では、オークの分厚い皮で俺の剣ははじかれてきた。
皮の薄いところを突き刺す以外、ダメージを与えられずにいた。
鉄の剣と鋼鉄の剣の違いをまざまざと感じたぞ。
剣と炎弾で左ひざをついたオーク。
俺は続いて首を狙って二斬目を放った。
ガシッ。
首に食い込む俺の剣、たしかに手ごたえ。
オークは目を剥いたまま仰向けに倒れた。
俺はすかさず、心臓の上に剣を突き入れる。
「大丈夫か?」
「おう。こっちも終わったぞ」
黒焦げになって倒れているもう一体のオーク。
周りを警戒するが、新たな敵が現れる兆候はない。
「終わったな」
「驚いたわ。余裕じゃない」
「いやいや、まだまだだ」
結果は俺たちの勝ちで終わった。
しかし、今回は俺たちが不意打ちに成功した側だ。
逆に不意打ちを受けたら、どうなるか分からない。
「何にしろ、初オーク討伐ね」
「そうだ」
オークに勝つことができるのか。
それがライセンスCに上がれるかどうかの境目。
俺たちはやっと、その堺を越えたってことだな。
「これでライセンスCが見えてきたってことだ」
「私の火魔法とあなた達の鋼鉄剣。これが決め手になったわね」
「なによ。ルナの回復魔法だってあるのよ」
確かに回復魔法があるのは心強い。
ポーションはあるが、それを使うと下手したら赤字になる。
どうしても、躊躇する。
その点、回数に限りがあるとは言え回復魔法は金がかからない。
怪我を負ったら早目の回復ができる。
「回復魔法を使うまでもなかったということだな。しかし、回復魔法があるというのは大胆な作戦が組める理由だ」
「そうですね。私が剣を持って飛び込めたのも、回復魔法の存在が大きいですね」
鋼鉄剣に、火魔法、回復魔法。
「まさに、あの偽物ショップのおかげね」
「まぁな。あそこなら、ちょっと無理すれば1ステージ上の剣と魔法が手に入るからな」
俺は持ってきた大きな台車を組み立てながら、オーク2体の買い取りのことを考えていた。
このサイズならきっと1体で金貨1枚は越えるはずだ。
俺たちもいよいよ、裕福な冒険者パーティになれるということか。
特に今は、オークの買い取り値段があがっている。
なんでも、オーク肉を買い込んでいる者がいるらしい。
「もっと多くのオークを」
そんな声が市場からあがっていると言う。
おかげでオーク討伐ができる冒険者の懐が潤うってことだ。
「よし、買い取りをしてもらって飲みに行くぞ」
「「「おーーー」」」
明るい声が響き渡った。




