第72話 副ギルマスが届けた品は破壊力抜群だった
「それでなぜこれを副ギルマスが届けてくれるんでしょう?」
「私に聞かれても困ります」
発売初日で10冊作った回復魔法の本が完売した。
あ、副ギルマスがいうところの偽本だが。
合計売上が金貨10枚でそのうち金貨4枚が副ギルマスの取り分だ。
「これは冒険者ギルドへの寄付ということだな」
偽本利益の配分という訳にはいかず、勝手に寄付と解釈された。
まぁ、なんでも受け取ってくれるならいいのだが。
そして、次の日、仲介役の冒険者が持ってきたのは、ロングソード。
鋼鉄製ということで、高級品扱いの品。
ギルドでの販売価格はなんと金貨20枚だという。
とても普通の冒険者には買えない高値の華だ。
「これを届けたということは、偽ロングソードを用意しろってことか?」
「あー、そうかもしれません」
魔法の本なら簡単に偽を作るおまえでも、ロングソードは無理だろう。
そんな謎かけみたいなことをしてきた、ということか。
「要はケンカを売ってきたと判断してよろしいですか?」
「えっ、そんなつもりは……」
「あなたが、ではありません。副ギルマスが、です」
「えっ、あー。そういうことなんでしょうか?」
うむ、売られたケンカは買わないといけないな。
もっとも、残念ながら鋼鉄ロングソードをコピーするプリンタは持っていないけどな。
「このロングソード、どこで作られた物か分かりますか?」
「それはもちろん。ちゃんと銘が入ってするから」
銘を確認するとアトリエ・シュミットと入っている。
街の職人地区にある小さな工房らしい。
「たぶん、このロングソードは副ギルマスが手に入れた鋼鉄インゴットを使い、アトリエ・シュミットが鍛造した逸品だと思われます」
「なるほどな」
さすがに日本でロングソードを製造させると銃刀法違反になりそうだ。
作るには、アトリエ・シュミットの力を借りる必要がありそうだ。
「このくらい剣をアトリエ・シュミットで造ってもらうと、いくらくらいなんでしょうか」
「えっと。手間代と燃料代、そして材料代がかかりますから…」
「いや。材料はこっちで用意するが」
「それなら、だいたいわかります。工賃はあのクラスだと1日銀貨3枚ほどだから、4日かかるとして燃料代を含めて金貨4枚くらいです」
うーむ。アトリエから出る値段は金貨30枚の半分、金貨15枚と言ったところか。
すると、鋼鉄インゴットが金貨9枚もの価値があるのか。
「鋼鉄インゴットはどうやって手に入れる物なのでしょう?」
「鉱山ダンジョンですね。強い魔物を倒すとごくたまにドロップすると聞いています」
おー、そんなゲームみたいなことが現実に起きるのか。
レア・ドロップ品だから、高いのか。
「あ、鋼鉄インゴットは市中には出回っていないと思いますよ」
「そうなんですか」
「鋼鉄インゴッドを得た冒険者は大抵、自分の剣を鍛冶屋に作ってもらうか、換金するならギルドに買い取りに出しますから」
冒険者にとって、剣というは命がかかった物のようだな。
だから、できるだけ良い物を手に入れようとする。
「だけど、キレイな物だな」
ゲームとかに出てくる鋼鉄のロングソード。
イメージはもっと太い物だと思っていた。
副ギルマスが届けたロングソードは。
刃の部分が1mほどで持ちての部分も含めると1m30㎝ほど。
巾がだいたい3㎝で厚さは2mm。
重さが1㎏ちょっとだ。
たしかにこれほど薄くて細い剣じゃなかったら、1㎏ちょっとで収まるはずはないな。
ゲームのビジュアルに騙されていたということか。
「こんな細いと折れたりしないんですかね」
「そうなんですよ。無理をすると折れます。だから、こそ硬い素材の鋼鉄が必要になるんです」
普通の鉄剣になると、こんなに薄く細い物は作れないらしい。
カンタンに曲がったり、折れたりしてしまうからだそうだ。
「鉄剣だと倍以上の重さがありますね」
「それは振り回すのが大変そうですな」
軽くて振り回しやすいのに硬くて折れない。
鋼鉄ロングソードが人気なのは当然だろう。
「よし、決めた。偽ロングソードを作るぞ」
「やってくれますか!」
なんか、副ギルマスにのせられている気がするんだが、気のせいだよな。