第54話 やっと準備ができたようだ
「できたって?」
「もちろんよ、みてみなよ。これだろう?」
おー、そうそう。
それこそが俺が愛してやまない太郎系ラーメンを作る上で欠かせない物だ。
この世界、小麦粉は高いけどある。
白い小麦粉は1㎏で大銅貨2枚。
白くない小麦粉は1㎏で大銅貨1枚と銅貨5枚。
要は普通の小麦粉と全粒粉だな。
麺を作るならどちらでもできるが、俺は全粒粉を選んだ。
さらに産地別に売られている全粒粉を試して、強力粉に当たる物を見つけ出した。
重曹も市場で手に入れてある。
これで麺を打つことができるのは確認済みだ。
スープはもちろんオークげんこつ骨の豚骨スープ。
醤油ではないが、似たような調味料もみつけてある。
ここまで完成させて、驚いたことがある。
もやしがないのだ。
太郎系ラーメンと言ったら、もやしとキャベツの野菜で山を作る。
これがお約束だ。
もやしを使わないラーメンは太郎系ラーメンは名乗ることはできない!
なぜ、もやしがないのか。
俺は異世界の食物店を調べまくったが、もやしという概念がないことを知った。
要はもやしのうまさを知らないということだ。
スラム街は貧しい奴らがなんとかして、安い食材を集めて毎日の食事をしている。
それなら、もやしは最高なのだと思うのだが、もやしをしらないから誰も食べていない。
これはもったいないことだと思って、もやし栽培を提案したのだ。
栽培を頼んだのは、オーク骨スープを出している食堂のおばさん。
緑豆に似た豆は市場でいくつか見つかったから、栽培を試してみることにした。
そして1週間が経ち、もやしができあがったというのだ。
暗いところで日に当てず発芽させた緑豆。
それがひょろっと育つことによってもやしができる。
それも緑豆のときに比べて10倍くらいに増えるから、すごくお得感があるな。
「やった!」
これがあれば、太郎系ラーメンができる。
あとはオーク肉を醤油とネギ、背脂で煮込んめばチャーシューもできあがる。
よし、オーク豚骨スープはあるし、作ってみるか。
☆ ☆ ☆
「できた!」
大きな木の器からそびえるチャーシューの山。
実際はもやしとキャベツが山の中に隠れているのだが、その周りをチャーシューでコーティングしてある。
その上から背脂とにんにくをたっぷりと振りかけて、完成した。
「よし、できた。食べてみろ」
青髪少年をはじめ、うちのメイドや撮影会モデルをしている女の子、客引きの子。
他にもスラムに住む人達が興味深々で俺の作った異世界太郎ラーメンを見ている。
どんな味か理解できないのだろう。
しかし、食欲をそそる匂いが充満している。
「うまそう~」
まずは青髪少年が味見役だ。
一番付き合いが長いからな。
「これは、なんだろう」
チャーシューを知らないのだから、仕方ないな。
醤油で茶色に染まったオークの肩ロースだ。
青髪少年はがぶっと一口齧ったら、下を向いてしまった。
「おい、どうなんだ! うまいの?」
「うまっ。すげー、うまい!」
感極まって、叫んでしまった。
そうだろう。このカロリーの塊のような分厚いチャーシュー。
うまくないはずはない。
「この野菜もうまい。肉と一緒だと特に」
「うまそう。私も食べたい」「お腹すいた」「俺にも食べさせろ」
いや、まだだ。
まだ、スープも麺も食べてないだろう。
異世界野郎ラーメンは、ここからが本番だ。
箸を使う文化がないのでスプーンとフォークを渡してある。
チャーシュー、もやしキャベツの山の麓をすこし食べ崩して、その下にあるスープを一口。
「うわー。濃厚!」
そうなのだ。元々濃厚なオーク骨スープにチャーシューを作ったときの醤油をたれにして、さらに背脂とにんにくをこれでもかと投入したスープ。
ただの濃厚なんていうもんじゃない。
「うまっ、うまっ」
おいおい、スープぱかり飲むなよ。
ちゃんと麺も喰えよ。
「んー、なんだこれ。長いぞ」
麺という物がないここでは、ラーメンも勿論初体験だ。
「うわっ、もちっとうまい!」
強力全粒粉で作った太麺。
めちゃくちゃコシがある逸品だ。
それが濃厚スープをまとって、うまいに決まっている。
その上、木の器がでかいから、大盛りサイズ。
野菜と麺、スープもいれて全2.5㎏という特盛だ。
「うまい! うまい!!」
いままで食べたこともない未知の味もあって、特盛サイズがガンガン減っていく。
どうして、あの小さな青髪少年の身体に、あれだけの特盛が入るのか?
不思議だが、スープの最後の一滴まで飲み干した。
「うまかった!」
ほとんど、うまいしか言わない青髪少年だが、満足そうな顔を見れば本当にうまかったのが分かる。
「よし、おばちゃん。材料があるだけ作ってくれ」
この異世界太郎ラーメンは、俺と食堂のおばちゃんが一緒に作ったもの。
おばちゃんは一度、一緒につくればあとはひとりでも作れる人だ。
「はいよ。まずは4人、誰が食べるかね」
みんな手を上げている。
もちろん、俺も上げた。
今度は食べる側で参加だ。
こうして、俺は異世界太郎ラーメンの美味さをスラムの連中に知らしめることができた。
しかし、オーク肉をふんだんに使っているこのバージョンはスラムの食堂で出すには値段的に無理がある。
やっぱり、俺の店がある市民地区あたりがいいかな。
俺はあまりにもうまくできあがった異世界太郎ラーメンを、異世界に出店することを本気で考え始めていた。