第46話 冒険者の買い物
今日は時計を買っていった冒険者達がやってくる予定の日だ。
この日のために、冒険者達が喜びそうな品を百均で買ってきた。
結果はどうか、ドキドキだな。
「おう、また来たぞ」
「いらっしゃいませ」
来た来た。
今回も前回と一緒で男2人、女1人だな。
きっとパーティを組んでいるのかも。
「何か新しい商品があるのか?」
「もちろんです。まずはこれです」
この商品はヘッドライト。
小さなLEDが4つ入っていてなかなか明るい。
ベルトで頭につけられるようになっている。
この商品のすごさは、なんと太陽電池なのだ。
12時間充電すると3時間点灯できる。
これだけの商品でありながら、100円とは最近の百均はすごいな。
「なんだ、これは?」
「まずは、頭につけます。はい、そうです。で、このスイッチを押すと」
「おおーー、明るくなった」
「ライトの魔法が組み込まれているのか?」
「魔道具みたいね」
あ、似たような商品があるのか。
魔道具があるということは、ライターみたいに魔法があるからいらないってことはなさそうだ。
「これはいくらだ」
「銀貨1枚です」
「すいぶんと安いんだな。魔石は別か?」
「これは魔石は必要ありません」
「なんだと!」
魔道具はどうも魔石が必要なのが常識みたいだな。
元世界だと電池みたいなものだろう。
だけど、これは太陽電気を装備した品。
電池交換不要だ。
「すると、この部分を陽に当てるだけでいいのか?」
「その通りです。夜や洞窟では役に立つものかと」
「よし、買った! そうだな2つくれ」
「あ、転売は……」
「分かっている。俺たちが使う分だ」
うん、ヘッドライトは冒険者に役立つ商品として認識してもらったようだ。
次はどうだろうか。
「これはどうでしょう?」
「なんだこれは」
これは俺も驚いた裁縫7点セット。
手のひらに載ってしまうほど小さなものだが、バカっと開けると中には裁縫道具が入っている。
針、糸、ハサミ、とげ抜き、糸通し、ボタン、ホック。
針は全部で7本、糸は5色もついている。
「なんと、こんな小さなところに裁縫セットが入っているとは」
「すごーい。持ち運び用なのね」
「そうです。冒険者をしていたら、服が破ることも多いでしょうから」
「あー。そうだけどな。裁縫ができないと意味がいない」
「……できませんか?」
「できんな」
しまった。冒険者が裁縫なんてめんどうなことしないってことを見落としていた。
女性もいるから、できるものだと思っていた。
「だが。いつも服の補修を頼んでいる娘にプレゼントしたら喜びそうだ」
「あ、それはいいですね」
「こんな裁縫セット、みたことないだろうからな」
うん、よかった、1つは売れた。
だけど、冒険者商品としては失格だな。
「あとは、これ。ロープと袋です」
「ん。なんだ、これ」
荷造り用のビニール紐とビニール袋。
「こっちがロープで長さが200mあります」
「本当か? こんなに小さくて200mか」
「強度がそれほどでもないので、何本か重ねると使えるかと」
「これはいいな」
ビニール紐を引っ張りだして、強さを確認している。
うん、重さの割に強さがあることが分かったらしい。
まぁ、こっちにあるロープは藁製が基本だからな。
それに比べれば軽くて強いな。
「2つもらおう」
大銅貨5枚がふたつで銀貨1枚だな。
うん、冒険者に必要な商品もだんだんと分かってきた。
今回用意した冒険者向け商品は以上だ。
それを告げると、他にも使える物はないか。
商品棚を確認しはじめた。
「なんで、これがあるの!」
あ、いけない。
それは預かり物だった。
10冊作った中級魔法の本が1冊余っていた。
本来それを昨日買いに来る予定だった魔法使いの弟子が街から出かけていて明日帰ってくるはずだ。
取り置き扱いだな。
「それは売約済みだ。すまんな」
「中級魔法の本じゃない。いくらで売っているの?」
「あー。預かり商品で値段は金貨1枚だ」
「ええーー。欲しい!」
まぁ、そうなるわな。
なんと言っても魔法使いギルドで買うと金貨10枚だと聞いている。
だけど、売り先はもう決まってしまっている。
「無理だ。明日、取りに来る客がいるんでな」
「じゃあ、もっと仕入れられない?」
それはありだな。
ルモンドの許可をもらえばできるな。
スキャンしたデータはあるからプリントするだけだしな。
「分かった。仕入れ先に聞いてみるよ」
「助かる~。これがあれば私の魔法がすごく強化できるのよ」
冒険者をやっている魔法使いは、魔法使いギルドには所属していない。
初級魔法は冒険者仲間の魔法使いから教わることができるが、中級となると難しいらしい。
そのため、多くの冒険者の魔法使いは自己流で中級以上の魔法を覚えていく。
自己流だと効率が悪くなるらしい。
「もし、この本を仕入れられたら欲しがる冒険者は何人くらいいると思うか?」
「えっ。冒険者ギルドに登録している中堅魔法使いだけでも最低20人はいるわ。金貨1枚なら皆欲しがるはずよ」
「おー、そんなか」
いい話を聞いた。
冒険者ギルドで宣伝してくれることを条件に中級魔法の本を仕入れることを約束した。
「約束よ。3日後に来るから」
思いもかけず、冒険者向け商品がみつかった。
これで魔法使い限定だけど、冒険者の人気商品になるな。




