第43話 ライバル店ができたようだ
「店主、大変だぁ」
今日も百均で仕入れてきた品を並べていると、青髪少年が店に走り込んできて騒ぐ。
「なんだ?」
「いつの間にか、雑貨店ができたみたいなんだよ」
「はぁ」
まだ、店の外に出ていないから気づかなかったが、壁を借りている倉庫が雑貨店になっていた。
それも、大量の花が飾られていて、大々的に開店セールをしている。
青髪少年と一緒に店を出て確認してみる。
ずいぶんと客が入っていて、にぎやかになっている。
「おや、これは。敵情視察ですか?」
にこやかに話しかけてくるのは、金髪美中年。
簡単につぶせると捨て台詞を残して言った男だ。
「また、なんでこんなところに店を出すんだ?」
「どこに店を出そうと私どもの勝手ですな」
そうか。コブラ一家が後ろ盾になっていることが分かって、そっち方面では手出しができそうもないと分かったようだ。
商人らしく、商売で対抗すると決めたようだ。
「リップが安い店ってここ?」
どうみても娼館のお姉さんらしき女性が金髪美中年に声を掛けている。
俺に対する慇懃無礼な態度と全く違ういかにも商人って笑顔で金髪美中年が答える。
「いらっしゃいませ。ただいまオープン記念でリップは大銅貨1枚です」
「安いわっ。それ頂戴」
「それでは中でお選びください」
娼婦のお姉さんは混雑している店の中に入っていった。
「ずいぶんと人気のようで」
「そちらはさっぱりの様ですな」
何言ってやがるんだ。
リップはうちが大銅貨2枚の値段だと調査済みらしい。
うちのメインのお客、娼館のお姉さんに受ける商品をうちより相当安く売っている。
分かりやすいな。
「まだ、今日は店を開けていないからな」
「開けても同じだと思いますよ」
「うーむ」
なんかむかつくな。
確かに、これだけ派手に安売りされちゃ、うちの方に客がこないだろうな。
「今日の我が店の売上は大変な金額になりますな。そちらはどうでしょうね」
「あー、確かにな。ゼロかもしれないな」
「それは大変ですな」
薄ら笑いの金髪美中年。
むかつくな。
「あっ」
なんどかうちで買ってくれた娼館のお姉さんが来た。
今日の初客だ。
「あっ」
彼女も気づいたようだ。
だけど、こそこそと隣の店に入っていく。
「どの店を選ぶかはお客さんの自由ですからな」
「それはそうだな」
あー、むかつく。
きっと利益度外視の赤字販売していやがるな。
俺の店をつぶす目的だけじゃないか。
「紙を売っているというのは、この店か?」
「紙ですか? ありますが」
「見せてくれ」
「いいですよ」
俺にドヤ顔をしている。
なんで紙でそんな顔をするのか?
紙を欲しがっているのは細身の男だな。
研究者か何かか?
「これになります」
「あー」
早速、持ってきた1枚の紙を細身男に手渡している。
なんか、薄茶色の紙だな…わら半紙か?
「どうです、良い紙でしょう」
「もっと白くてな。薄いのはないのか?」
「はて。紙というのは羊皮紙と言って、羊の皮から作っていましてな」
「そうじゃない。白くて薄い紙があると聞いてきたんだが」
「はぁ? それは知りませんな。しかし、うちの紙は安いですよ」
「いくらだ」
「1枚たったの大銅貨1枚」
「「高い!」」
あ、細身男と被った。
薄茶色の紙は大きさがA4用紙の半分くらいしかない。
それが1枚大銅貨1枚もするのか。
「紙というのは高い物なんですよ」
あいかわらずのドヤ顔だな。
そういう物だと信じているようだ。
「いや、もっと白くて薄くて安い紙がありますよ」
「ほう、いくらだ?」
「この紙の倍でこれくらいのサイズなんですが」
「それがいくらだ?」
「1枚なら銅貨3枚です。100枚以上なら銅貨2枚に値引きしますよ」
「ふざけるな!」
あ、金髪美中年の隣店長が怒った。
うふふ。これは面白いな。
「その紙だ。それが欲しい」
「ちょっと、待っていてくださいね」
コピー用紙を取りに店に戻るときに、隣店長にこそっと言ってみた。
「どの店を選ぶかはお客さんの自由ですな」
おお、怒ってる、怒ってる、面白いな。
500枚入りのコピー用紙の包みから3枚ほど取り出す。
急いでお客さんのとこに戻る。
「うちの紙はこれです」
「おー、これだ、これ。ある商会からこの紙の手紙が来てな。その商会で聞いたら教えてくれたのだ」
手渡した紙を裏返したり、日に透かしてみたりしている。
そうか、ここでは紙と言うと羊皮紙なんだろう。
白い紙というのは、それだけで珍しい物らしい。
「それを見せてもらってもいいか?」
「はて。それはお客として、ですか?」
「はぁ。そんなはずはないだろう」
「なら、お断りだ」
客でもない同業者にわざわざ商品を見せることもなかろう。
そんな商人同士のやりとりを無視して細身男はすごくテンションがあがっている。
「これを折ってみてもいいかな?」
「あー。それは商品でして」
「わかった。買おう。3枚だからこれで足りるな」
「まいどありっ。では、店内に」
「ここでいいぞ」
「店の外では売らない方針でして。いやなら、売れません」
店の中に一緒に入る。しぶしぶだけど。
そして、大銅貨1枚を手渡された。
3枚だと単価が銅貨3枚だから、大銅貨だと銅貨1枚のおつりだ。
「確かに。おつりは…」
「いらん」
あ、そうなの?
まぁ、すげー集中しているから、邪魔するのはやめよう。
「その紙は何から作られているのか?」
「あー。別に答える必要はなかろう」
本当のことを言うと、よく知らないだけだ。
羊皮ではなく木か草か、そんなところだろうけどよくは知らん。
「この紙は大量に買うことはできるのか?」
「今は1000枚ほどしかないですが」
「1000枚!」
隣店長が反応しているな。
1000枚の紙というのは普通の店にはおいてない物なのだろう。
「1000枚か。もっと手に入りはしないか」
「明日なら用意できますが」
「どのくらいだ?」
「あー。10000枚でも可能ですが」
「10000枚!」
面白いな、この隣店長。
枚数を聞くたびには目を白黒させている。
「これで2ページか。すると160ページだと80枚ということか」
何やら本を作ることを考えているようだ。
だけど、計算違いしているようだな。
「半分に折ると4ページですよね。裏表に書くとして」
「なんだと! 裏表に書けるのか?」
「書けますよ。やってみますか? 1枚貸してくれれば」
「頼む」
半分に折った物を1枚差し出してきた。
えっと、何を書こう…難しいな。
「1、2、3、4、と」
書くものが決まらないから、ページの下にページ番号だけ書いてみた。
裏に写らないということだけ見せればいいかなと。
「「な、なんだ、それは?」」
「えっ、ページ番号ですが?」
ふたりに突っ込まれてドキマギした。
もしかして、数字はこう書かないのか?
「そうじゃない。その筆記具はなんだ?」
あ、ボールペンのことね……この異世界にボールペンは……ないだろうな。
「これは魔法ペンです。インクのいらない羽ペンみたいなものでして」
うん、魔法は便利だな、なんでも魔法でごまかせる。
そういえば、ボールペンも高く売れそうだな。
「すごいな。インクがいらない羽根ペンとは。それはいくらだ?」
えっと。これは10本入り100円のボールペンだな。
10円だから、それを50倍にすると500円で銅貨5枚ってとこか。
だけど、この驚き方だと安すぎる気がするな。
ぼったくってもいいかもね。
「銀貨1枚です」
「「安い!」」
うわっ、まだ安かったのか?
金貨1枚とか言った方がよかったかも。
「それも5本、欲しい。写本に便利そうだからな」
「あ。やっぱり本を作るんですね」
「そうだ。この紙と魔法のペンだったら、効率がよさそうだ」
そういう話なら、こんな道端ではなく店の中でしないといけないな。
「こんなとこではなんですから、こちらにどうぞ」
「おお、すまんな」
呆然としている隣店長を置いて、俺たちは店の中に入った。
うわっ、日付が変わる直前になってしまった。
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