第4話 真っ白い部屋
「ん? ここはどこだ?」
「ここは、狭間の世界だよ」
「えっ」
声が聞こえた。
驚いて周りを見渡した。
何も見えない…見えるのは自分が寝ていたベッドだけ。
シングルベッドらしく、それほど大きくない真っ白なシーツで覆われたベッド。
毛布も何もなく、そのベッドに横たわっていた。
今は上半身だけ起き上がっている。
「誰かいるの?」
「誰か? うーん。居るけど、誰かと言われると困るな」
「ん? しゃべっている君は誰?」
どこにも姿は見えないけど、声だけは聞こえてくる。
周りは真っ白い壁と天井、床も真っ白。
「私は狭間の世界の管理人」
「管理人?」
「そう、管理人。ここに来てくれた人の疑問に答えるのが仕事」
「えっと、ここというのはこの部屋ってことかな」
何もかも真っ白いこの部屋は正方形のようで、広さは6畳間くらいかな。
もっと広いかもしれないな…何もないから広さが分かりづらい。
「この部屋というか、この世界」
「この世界というと、この部屋を出るともっと広い世界があるってこと?」
「ううん。この世界は今はこの部屋だけ」
うーん、なんだろう。
このシチュエーション。
どっかで聞いたのと似ている気が……おおい! これって異世界転生じゃないか。
真っ白な部屋に美しい女神がいて、チート能力をもらって異世界に旅立つ!
おいおい、じゃあ俺は死んでしまったってことかな?
「もしかして、俺は死んだのか? ダンプにひかれた記憶なんてないけど」
「別に死んでないよ。単にこの部屋に遊びに来ただけ」
「そういえば、寝る前にやたら酒を飲んで俺の部屋に帰ったとこまでは覚えているけど」
「うん。帰ったんじゃなくて、来たんだよ。君の部屋じゃなくて私の世界に」
よくわからない。
だいたい女神さんはどうした?
声だけって手抜きじゃないのか……いや、死んだ訳ではなくて? いかん混乱してきた。
「えっと女神さん。それで異世界にはいけるんでしょうか?」
混乱してつい聞いてしまった。
異世界、剣と魔法の世界……いけるなら、いきたいじゃない、やっぱり。
「女神じゃないけど、この世界の管理人ね。異世界行きたいんだ」
「もちろん、行けるなら…おっと! 行ったら帰れないんだからチート能力をもらわなきゃ」
やばかった。
いきなり異世界に飛ばされてチートもないひ弱な日本人が生きていけないっていう罠かも。
ちゃんとチート能力をもらわなきゃ。
「私は狭間の世界の管理人だから、能力付与はできないよ。異世界に行くなら扉を作るよ」
「おっと! トラエモンのどこにでもドアみたいなの、出せるのかっ」
「どこにでもいけるなんて無理だよ。異世界だけさ。作ろうか?」
本当に異世界に行けるらしいけど、チート無しか。
無理ゲーになりそうだな。
やっぱりよしておくか。
「えっと。元の世界に戻る扉はどうなのかな?」
「それもできるよ」
おおっと。
ちゃんと帰れるのか、異世界に行かなきゃいけないって訳じゃないらしい。
しかし、異世界と現代日本か。
「うーむ。どっちを選ぶべきか……迷うな」
「両方もできるよ」
「えっ」
「扉は両方付けられるよ」
「だけど、出れるのはどっちかだよな」
「そりゃそうだよ。両方に行くって身体がふたつ必要じゃない」
そうだよな……それだと扉ふたつあっても仕方ないよな。
結局どっちに行くか選ぶってことだよな。
「ここは一度、扉から出たらもう戻れないんだよな」
「そんなことないよ。一度来たあなたは、この世界のマスターになったんだから、いつでも戻れるよ」
「なんと! もしかして、異世界にも元世界にも行ったり来たりできるってことか?」
「うん。扉をふたつ付けたらね。つける?」
「お願いします!」
すごいぞ。
異世界と元世界、どっちにもいけるパスポートを手に入れたようだ。
「できたよ」
「それじゃ、異世界行ってみよう」
「あ、ちょっと待って」
「なんだよ。せっかく異世界行く気になったのに」
「戻るときの話、聞いておかなくていいのかな?」
「ヤバ。そうだった。どうやって戻るの?」
「ここに戻りたいと強く意識したら戻れるよ」
「おー、すげー簡単じゃないか」
「そう。だけど、制約があってね。ここから出たときに持って行った物を誰かに売ったら戻れなくなっちゃうんだ」
ん?
すると、今、もっている持ち物は持って帰らないといけないってことか。
気をつけないとな。
「もしかして、異世界で手に入れた物も、持ち帰れないとか?」
「そんなことはないよ。外からここへは何でも持ち込めるよ」
「おおー。じゃあ、心配ない。行ってみようかー」
「いってらっしゃい~」
俺はその声に送られて、異世界へと旅立ったのだ。
やっと、異世界に来た。
ここから本編ねっ。