第22話 店の改装をしてみたぞ
「どうだ? これなら、たくさん商品が並べられるだろう」
ドワーフ大工が自慢そうに出来上がった棚をみせている。
棚の大きさは巾が180㎝で高さも180㎝。
それが6×6に区切られており、奥行きは20センチほど。
「これはすごいな。うちの商品が全然足りないな」
「これと同じ物をあと2つ作る。右の壁と左の壁、そして奥に置くためにな」
あー。奥の奴は少し小さくしてもらおう。
こっちの人達には、ただの壁に見えているのだろうが、俺にとってはベッドルームにつながっているとこだからな。
そんな大きな棚を入れると通れなくなってしまうな。
「奥に置く奴は、巾120㎝にしてくれ」
「わかった。左右はこれでいいな」
「ああ」
順調に作業は進んでいる。
店は今日休みにしようと思ったが、ミッシェルがお客さんを連れてくるかもしれないのだった。
商品補充をするくらいの仕入れをして、店を開けるとするか。
もっとも、青髪少年に客引きを頼まないから、新しいお客さんは来そうもないけどな。
小路でドワーフ大工が棚づくりして俺はそれを見ている。
手際がよくて感心する。
ノミで簡単に溝を掘っているが、組み立ててみるとその溝がぴったりになる。
それを設計図も無しに作ってしまうドワーフ大工。
只者ではないな。
俺も小学生の頃、夏休みの宿題で本棚を作ったことがある。
それ以来だな、こんな感じの作業を見るのは。
「店主よ。看板はいらないのか?」
「あー、どうなんだろう。この小さいのでいいんじゃないか?」
「それだと、通る人が見ても分からないぞ」
「まぁ、そうなんだが」
看板か。
ドワーフ大工に頼めば簡単に作ってくれそうだな。
どんなのがいいか、考えてみるか。
「おい、何をやっているんだ?」
いきなり、後ろから声を掛けられてびっくりした。
声を掛けてきたのは、ひょろっとしたおっさんだ。
「はい?」
「うちの倉庫の横で何をしているんだ?」
うわっ。《ビック・アマゾーン》の入口に利用している倉庫の持ち主かっ。
やばいぞ。
「あ。これはこれは」
「ん。なんだ、このドアは? お前がやったのか?」
「あ、ちょっとお借りしています」
「私の倉庫をなんだと思っているんだ! 勝手にドアを付けるなんて信じられないな」
うわ、ヤバイ。倉庫のオーナーらしい。
勝手に店の入口を作ってしまったのは事実だから、謝るしかない。
「す、すいません。中は何もしていないが、壁を勝手に借りているのは事実だから」
「おい、ふざけるな。扉を付けたら、中も使っているってことだろう」
「あ、それは大丈夫だ。こっちから入ると店だ」
「おい、やっぱり中に入っているじゃないか。壁を付けても使っているのは事実だろう」
「そっちから入ってみればわかるよ。中は使っていないぞ」
「そんなバカな!」
倉庫オーナーは走って確認に行った。
倉庫のドアから入ればわかるよな。
「ど、どうなっているんだ?」
「あー、まぁ、そのー。魔法だ!」
「魔法だと!!」
「これは魔法のドアで、別のところにある店につながっているのだ」
うーむ。魔法って言葉は便利だな。
ややこしい説明をしなくても魔法ですんでしまうな。
「そんな魔法聞いたことはないぞ」
「これは高度な時空魔法を付加したドアだ。どこへでもドアと言う」
「すごいな。確かに別のとこの店につながっているみたいだ」
ドアをくぐって、中を確認している。
感心している様だから交渉してみるとするか。
「この壁を貸してくれないか。この一面だけでいい」
「あー、別にいいが。だけど、商売につかうんだろう。タダでは認められないな」
「もちろんだ。月銀貨1枚でどうだ?」
家を借りると金貨1枚だという。
壁だけなら、銀貨でいいんじゃないか。
「うむ。銀貨1枚か。悪くないな」
「それでは今月分だ」
契約とか面倒くさいこと言われる前に金を払ってしまおう。
これで万事解決だ。
「分かった。この壁を使うことは許可しよう」
「よかった」
「しかし、その扉は便利だな。他にもあるのか?」
この扉があれば、一等地でも壁を借りるだけで店が出せると思っているな。
残念ながら、そうもいかない。
「いや。これしかない」
「そうだよな。そんな便利な扉、そうはないか」
納得してもらってよかった。
ついでに話し相手になってもらった。