第21話 この街の常識を教えてもらった
「ワシがいつも来ている酒場はここだ! いいとこだろう」
店を閉めてから、青髪少年に大工の親方を連れてくるように頼んだ。
そして来たのは、ドワーフだった。
身長が140㎝くらいしかないのに、肩幅がすごい。
筋肉質で腕の筋肉はもりもりだ。
もちろん、立派な髭をしていている。
どこから見てもドワーフだ。
「あれ? ドワーフって鍛冶屋じゃないのか?」
「お前、何を言っている? 大工もドワーフの得意分野だ。うちの家系はずっと大工をしているぞ」
「そうなのか。しかし、その筋肉だったら、重たい木材も余裕だな」
「ああ、任せてもらおう。どんなのだって作るぞ」
「あのー。とりあえず乾杯しましょうよー」
いきなり仕事の話が始まりそうなのを見て、青髪少年が割って入ってきた。
「それはそうだな。まずは乾杯としよう」
ドワーフ大工の連れてきてくれた酒場は、店の中ではなく外で飲むところだった。
フードコートの様に店で頼んで、外に置いてある樽のテーブルと椅子代わりの丸太の輪切りで飲む。
「どんな酒があるのかな」
「基本はエールだが、火酒もいいぞ」
「あー、それはやめておこう。俺はエールで」
「ワシは火酒だ。あと、肉!」
「あ、注文は僕がしてくるね。だいたいわかるので、適当に」
「よし、少年、任せたぞ」
まだ時間が早いのかな。
あまり客はいない。
そろそろ陽が沈むから、たいまつの準備している。
たいまつもそんなに多くないから、薄暗くなりそうだ。
「それで店の棚、いつできそうかな」
「まずは明日だな。朝から仕事をすれは夕方までには完成するぞ」
「おー、それは頼もしい。材料はすぐ用意できるってことだな」
「もちろんさ。棚くらいだったら、いつでも材料ぐらい用意できるな」
店内のサイズは、さっき計っていたから任せて大丈夫だろう。
あとはいい仕事をしてもらうために飲ませるか。
「はーい。お待たせ」
「おー、きたきた!」
青髪少年は普通のコップサイズの木で出来たジョッキと大きめの木のジョッキを持っている。
ん? 火酒がでかいサイズなのか?
「はい。店主はこっち。僕達はこっち」
おいおい、お前。エールじゃなくて火酒なのか?
ドワーフ大工がニコニコしているから、少年でも火酒を飲むのは珍しくないらしい。
「火酒は久しぶりだな。好きなんだが、うちの嫁に止められていてな」
「えっ、そうなんか! まさか暴れたりしないよな」
「止められているのは、飲みすぎるからだ。調子よく飲むと1日の稼ぎ全部飲んでしまうからな」
「それならば、思う存分飲んでくれ。明日の仕事に影響しないなら歓迎だ」
「酒くらいで、そんなバカなことおきやしないぞ」
最初に確認したら、この店で思い切り飲んでも一人銀貨1枚だと言っていた。
まぁ、3人で飲んでも知れているだろうしな。
昨日、今日と売り上げがずいぶんあったから、そのくらいは余裕だ。
乾杯を繰り返して、うまい肉をガンガン喰っていたらいい感じに盛り上がってきたぞ。
客も増えてきたしな。
そろそろ本題を切り出そう。
「大工の日当は銀貨1枚だよな」
「ああ。別にぼってはいないぞ」
「そうではなくて。一般的な話だ」
「それなら、そうだ」
まず、知りたいことは物価についてだ。
まだ、異世界に来て数日しか経っていないから、物価がどのくらいなのかよくわかっていない。
それなのに、よく商売しているなと言われるとその通りなんだが。
もう少し、物価や街の状況を知って商売に役立てたい。
「街の人達はだいたい日当銀貨1枚くらいなのか?」
「はぁ? 大工の話か?」
「大工に限らず、普通の人の日当のことだ?」
「そんなのピンキリだろう。どのあたりの地区のことを言っているんだ?」
地区?
もしかして、住んでいる地区によって給料が違うというのか。
東京だと六本木とかがある港区と足立区の違いのような物か。
「なら、店がある地区はどうなんだ」
「3区だな。それなら、ワシらと同じくらいの市民が住んでいるぞ。日当は銀貨1枚あれば普通に暮らせるくらいだな」
「高級娼館がある2区はもっとお金持ちが住んでいるよー」
「ああ、2区は主に上級市民が住んでいるぞ。医者や大きな商人ばかりだな」
日本だと年収1千万円超えの世界かもな。
こっちだとどうなんだ?
「2区の人達は日当はいくらなのか?」
「あー。あいつらは、日当ではないとは思うが。ざっくりいえば、10倍くらいだろう」
「10倍! 1日金貨1枚ってことか!」
「ああ。それだけあれば、すげー生活ができるんだがな。火酒くらい毎日たらふく飲めるのにな」
「店主は売り上げなら、そのくらいあるよね」
「ああ。だけど、仕入れというものがあってな」
「そうだぞ、坊主。店をやるにはいろいろと金がかかるんだぞ」
いやー。仕入れといっても、百均だからな。
実はそんなに掛かっていない。
今日なんか銀貨18枚だから、利益だけでも金貨1枚あるかもな。
「貴族になると、もっとすごいぞ。普通の貴族だって100倍にあるぞ。この街の領主は何千倍あるかわかないな」
「すごいな。上を見ると、きりがないな」
「そういうが。ワシらだって、そんな下の方ではないぞ。こいつらのいるところじゃ、日当銀貨1枚は夢のようだろう」
青髪少年の肩をぽんと叩く。
青髪少年はニコニコ笑っている。
「たとえば、洗濯や掃除を手伝う仕事だと日当銅貨1枚くらいだな。特別なスキルがなければな」
「ええっ、日当が銅貨1枚。それじゃ、飯も食えなくないか」
「あー、そういう場合は最低の寝る場所と1日2回の最低の食事はついているからな」
生きていく最低の支給はされているのか。
だけど、日当銅貨1枚はひどいな。
「ワシが棚を作って、商品が増えてきたら店員を雇えばいいさ。その場合は、日当大銅貨1枚くらいは払ってやれば、それなりにいい奴がいたりするぞ」
青髪少年はニコニコして聞いている。
今日の彼の日当は銀貨1枚と大銅貨4枚だ。
それも、半日くらいだし、仕事の後の酒もついている。
もしかしたら、すげー待遇がいいのかもしれないな。
「明日は棚づくりをしてもらうから、仕事は無しだぞ」
「うん。なにか、することないかな」
「お前は街ガイドの仕事をしていればいいだろう」
「街ガイドは儲からないんだよなー。銅貨1枚のガイド料を得るのも大変でさ」
「この男は気前がいいな。いくらでも火酒飲んでいいなんて、そんな依頼主初めてだ」
まぁ、その源泉は元世界と異世界のギャップだな。
日本で100円の商品が銀貨1枚で売れてしまう。
異世界では日当が銅貨1枚のお手伝いさんがいる。
何も使わずに100日働いて、やっと銀貨1枚だ。
このギャップはなんだろう。
「この街で広めの家を借りたら、1カ月いくらくらいするんだ?」
「あー。もちろん、地区によってまちまちだが、ワシらが住んでいるところなら、月金貨1枚あれば、そこそこいい家が借りられるぞ」
1日の売り上げで家が借りられるのか。
もう少ししたら、借りてもいいかもな。
お手伝いさんを雇っても、月銀貨1枚あればいいだろうし。
その夜は、街のことをドワーフ大工に聞きまくって、こっちの常識を大分増やせたぞ。