第19話 あの人が買い物に来てくれたよ
「さぁー、今日もがんばるぞー」
《ビック・アマゾーン》のプレイトを付けたら、ちょうど青髪少年がやってきた。
うわっ、扉がいきなり出来るとこ、見られてしまったかも。
「それ、やっぱり魔法なんだ」
「そ、そうだ。このプレートが扉が出てくる魔法のプレートなのさ」
「へぇ」
ふう。魔法というのは便利だな。
日本だったら、絶対おかしいと質問攻めになるところを魔法の一言で済んでしまう。
「ほら、魔法の扉に入ってごらん」
「うん、あっ。展示用の箱を用意したんだね」
「そうさ。商品も増えてきたし、床置きだとカッコ悪いからね」
だいたい大銅貨数枚と言えば、超高級品とはいわないがそこそこ高級な品。
露天商みたいな床置きは安っぽく見えてしま
うよな。
「もし必要なら、大工さんも知っているよ」
「あ、その手があったか!」
棚とか用意するにあたって、日本から買ってくることばかり考えてた。
こっちの世界の人に作ってもらえばいいんじゃないか。
「大工さんって頼むとどのくらいするのかな」
「だいたい1日銀貨1枚くらいだよ。ちゃんとした仕事のできる親方でね」
「棚作ってもらったら、何日掛かるかな」
「1日もあればできるって。あと材料代は別だよ」
そうか。
材料代プラス銀貨1枚で棚ができるのか。
昨日の売り上げがまだ残っているし、今日もきっと売れるし。
作ってもらうことを考えよう。
「じゃあ、材料代も含めてお店の棚を作ってもらうといくらになるかな」
「それは親方に見てもらわないと分からない。連れてこようか?」
「じゃあ、店が終わる頃に連れてきてくれるかな。酒をおごるからさ」
「それは喜んでくるよ。僕も酒飲みたいな」
「子供はダメだろう」
「えっ、なんで?」
「えっ、いいの?」
異世界は子供が酒を飲んではいけないってルールはないようだ。
もっとも、お金がないから飲めないというのはありそうだ。
「じゃあ。お前も来るか。おごってやるぞ」
「やったー」
うん、大工の親方の行きつけの店に連れていってもらおう。
うまい酒が飲めそうだな。
「それじゃ、今日も娼館のお姉さんを連れてきて欲しいな」
「うん。もう知り合いはいないけど、これがあれば大丈夫」
そういえば、昨日、綺麗にお化粧してもらったままになっている。
顔洗わなかったのかな。
まー、1日くらい洗わなくても死にはしないか。
「あ。昨日のお姉さんに会ったら、新商品入りましたって言っといて」
「うん、わかった!」
よしよし。
青髪少年は働き物だな。
まだ10歳なのに……日本でこんなことさせていたら、児童労働の法律に引っ掛かりそうだな。
異世界だと、そんなことはなさそうだけどな。
「こんにちは」
「あ、ミッシェルさん。来てくれたんですか」
「うふふ。どんなお店やっているのか、知りたくなっちゃって」
「どうぞ、どうぞ」
昨日、エッチした相手がお店に来てくれた。
嬉しいような、恥ずかしいような。
「あっ、鏡がある!」
「そうなんですよ。これ、今日からの新商品です」
「欲しいなー。いくらなの?」
「これはですね。銀貨1枚です」
ちょっとボッテみた。
と言ってもさ、値引きしちゃうんだけどね。
「安い! でも、この大きいのはもっとするんでしょう?」
うわ、銀貨1枚でも安いのか。
鏡って、もしかしたら異世界では高い物なのかな。
「えっと、鏡は新発売記念として、全部銀貨1枚です」
「うわっ、どれ買おう。この大きいのと手鏡と、あと、これも鏡なの?」
「そうですよ。持ち運び用です」
「うーん、それはいらないかな。じゃ、大きいのと手かがみください」
「ふたつなら、割引しましょう。銀貨1枚と大銅貨5枚です」
「嬉しいっ」
抱き着かれてしまった。
娼館で抱き着かれるのと、外で抱き着かれるの、なんか違うな。
すっごくドキドキするな。
「他にも化粧品とかもあるんです。ミッシェルさんなら、これ似合いそうですね」
ピンク中心の4色アイシャドウパレットを勧めてみた。
本当にピンクが似合う人だし。
今のミッシェルさん、お化粧していないのかな。
昨日はしっかりとしていたのにね。
化粧していない方が若く見えるな。
僕より年下なのかな。
「うわっ、綺麗。でも、これ何に使うの?」
「アイシャドウと言いまして…」
あ、青髪少年がいない。
しょうがないから、自分でやってみせるか。
「こんな風にするんです」
手鏡を使って、自分の瞼にぬりぬりする。
こんな感じかな。
「どうでしょう?」
右目の上だけ塗ったから違いが分かりやすいね。
「うふふ。綺麗よ」
褒められてしまったぞ。
いかん、変な道に入ってしまう気がする。
「私はお勧めのピンクのがいいわ。特にこのピンクが綺麗」
うん、俺もそう思うぞ。薄紅色っていうのか桜色っていうのか。
淡い感じがミッシェルさんにぴったりだ。
「これはいくらですか?」
「大銅貨5枚です」
「じゃ、合わせて銀貨2枚ね。買います」
「毎度ありー」
うん、なんかミッシェルさん嬉しそう。
お客さんに喜んでもらえるのはすごくいいな。
「えっ、これ…」
「あ、これも新製品なんですよ」
「これってガラスよね」
「ええ、ガラスのグラスです。ビール飲むときにいいと思うんですが」
「すごいわ。なんて薄いの」
「でしょ。そこが売りなんです」
「それにこっちのカップ。真っ白」
「ええ。白いですね」
えっと。
ミッシェルさんの表情見ていて思った。
もしかして、薄いグラスや真っ白いカップって、すごい物なのかな。
こっちでは。
「グラス、触ってもいい? 持ったら割れない?」
「大丈夫ですよ。落とさなきゃ割れません」
「本当? うわっ、軽い。まるで持っていないみたい」
それは言い過ぎですよ。
それなりに重さあるしね……だけど、分厚いガラスのグラスに慣れているとそう感じるのかな。
「これって高級品よね。私には買えそうもないけど。取り置きしてもらえないかしら」
「えっと……高級品です、はい」
どうも、高級品に見えるらしい。
と、なると、そういうことにした方がいいかも。
「お客さんに大商人の方がいるんですよ。その方に見せてあげたいの」
「えっと。取り置きですか」
「無理なら仕方ないんだけど。売れちゃったら、もう仕入れができないでしょう?」
「えっと」
まだ、同じのがいっぱいあったな、百均に。
どうしよう……本当のこと言うのはまずそうな気がする。
「値段が金貨1枚ですから、そう簡単に売れませんよ」
「そんなにするのね。やっぱり私じゃ買えないわ。どうしよう」
ここは、ミッシェルさんにいいとこ見せておこうか。
「こっちのグラスと、こっちの丸いのと。どっちがいいですか?」
「丸いほう。赤ワイン入れたら綺麗ね」
「じゃあ、こっちの丸いのは売約済みってしておきますね」
「えっ、大商人のお客さんがなんていうか分からないし」
「見てもらって気に入ったら買ってもらえばいいですよ。1週間のうちにその方、これますか?」
「ええ。たぶん、今日、館に来るはずだから。明日か、明後日一緒に来るわ」
もしかして。本当に金貨1枚で売れるのかな。
100円が金貨1枚になるなんて。
金貨が10万円だとすると、1000倍だそ。
すげーな百均ショップ!
「じゃあ、こうしておきますね」
ノートをカッターで小さく切って、鉛筆でデカく、「売約済み」と書いた。
それをグラスに張ろうと思ったら、ノリがないか。
まぁ、折って掛けておけばいいな。
「うわ。ありがとう。必ず、明日か明後日、一緒に来るわね」
「無理だったら、言ってくださいね」
「はーい」
そんな話をしてたら、青髪少年が返ってきた。
娼館のお姉さんを3人連れて。
ちよっとサボってしまった。ちゃんと更新していかなきゃっ。