第13話 まずは常連客一人からだな
「いらっしゃいませ」
教会の昼の鐘が3つ鳴ってしばらくして、チョビ髭おっさんは来店した。
ちょっと前に青髪少年も来た。
「いやー、昨日の菓子すごくよかったよ。うちの嫁さん、あれ食べたら鬼の顔が天使の顔になってな」
「それはよかったです」
うちの商品を買って笑顔になってくれる人がいる。
それだけで、お店をしている価値があるってものだ。
えっ、金目当てだろうって?
商売をする以上、それはもちろんある。
だけど、金だけというのは寂しすぎるだろう。
お客さんを笑顔にする、それが商売だと誰かが言ってたはずだ。
「しかし、昨日買った分は全部、鬼嫁に取られてしまってな。リオンちゃんの分がなくてな」
「それなら、ちやんと用意してありますよ。10個入りで大銅貨1枚です」
「おおー、10個あるのか」
「もっとありますよ」
「もっとか、じゃあ30個もらおうか」
「毎度ありー」
飴が3袋売れた。
いろいろと種類があると言ったら、選ぶのにずいぶんと時間をかけていた。
そのうち、青髪少年も参加してきて、どれがいい、これがいいと大騒ぎになった。
こういうの、楽しい時間なんだよね。
「よし、これで欲しい物は手に入った。礼を言うぞ」
「それなら、新製品も見てください」
「あー、また。変な商品、つかまされたんじゃないのか?」
「えっと。ちゃんと価値がある商品なのか、見てくださいな」
まずは、アイシャドウパレットを出した。
それも、ピンクや青といった派手な4色版のにした。
「なんだ、これ。絵具か?」
「いえいえ。絵を描く道具じゃないですよ」
「じゃあ、なんだ?」
「化粧道具です」
「?」
「これをリオンちゃんにあげたら、大喜び間違いなしです」
「本当か? あんまり店主の言うことは当てにできないからな」
まぁ、昨日は3連敗だったから疑われるのも仕方ないか。
どう使うかをデモンストレーションがいるな。
「ちょっと、少年。モデルをしてくれないか」
「モデル? なんだかわからないけど、いいよ。その代わり飴ちょうだい」
「よし、飴1個だ。こっちへ来い」
顔が髪に隠れているから、髪を整えてみる。
ブラシを使ってな……ブラシはまだ売り込まない。
顔がちゃんと露出したら、おっ、やっぱり、こいつ無駄に顔が整ってやがるな。
ちょうどいい。
「ちょっと目を閉じて。このパレットを人差し指でなぞって、こうするんです」
「おおっ、なんだ。そうか、化粧か」
髪の色に合わせて綺麗なブルー、それもラメ入りをまぶたに塗った。
化粧は素人だから、大してうまくいかない。
あ、細筆とかいるんだったか。
まぁ、いいか。
「こんな感じです」
「おー、すごいな。ガキなのに派手になったな」
「両方の瞼を塗って。もういいぞ。目を開けて」
うん、塗り方が下手という問題はあるけど、だいたいわかるかな。
派手な顔になったってことは。
「おおーー。これはいいな。こんなチビガキじゃなくてリオンちゃんならすごく綺麗になるな」
「なんだよ、せっかくモデルやってやったのにさ」
「まぁまぁ。わかってくれると嬉しいです。どうでしょう。これ買います?」
「リオンちゃんのお土産にするとしよう。ひとついくらだ」
「えっと。大銅貨3枚でどうでしょう」
「買った!」
おお、売れた。
100円が大銅貨3枚。
飴より効率がいいな。
たぶん、銅貨は100円くらいみたいだから、大銅貨は10倍だから30倍になった計算か。
「あと、もうひとつ。これもどうでしょう」
「なんだ、その筒は?」
「これは、こうするんです」
口紅の下部分を捻って口紅を出す。
青髪少年の唇に塗ってみる。
真っ赤な口紅。
日本だとどうかと思うけど、こっちでは人気がでるんじゃないかな。
派手な方が分かりやすいからな。
「おおーー、紅じゃないか」
「あ、分かります」
「それもすごく綺麗な紅だな。それも持ち運びまで考えているのか」
「そうです、そうです。便利でしょう?」
「それもリオンちゃん、喜びそうだな。いくらだ?」
「大銅貨5枚です」
ちょっと値段を上げてみた。
喰いつきがいいからね。
「買った!」
「はい、これ」
もちろん、新しいのを渡す。
アイシャドウパレットも一緒にね。
「両方で大銅貨8枚か、菓子も含めると大銅貨11枚。銀貨1枚にまけないか?」
「お客さん、交渉上手ですね。分かりました! 銀貨1枚で。よかったら、リオンちゃんのお友達にも広めてくださいね」
「おお。それもいいな。娼館で見せびらかしたら、きっとリオンちゃん喜ぶぞ」
「よろしくです」
銀貨1枚をもらった。
原価は500円、あ、税込みだと550円だな。
550円が銀貨1枚に化けた。
すごいな、100均ショップ!
「あんまり、買い物しているとさすがに小遣いがなくなってしまうから、今日はこのくらいにしておくか」
「毎度ありー。明日と明後日も、鐘3つから4つにかけて店開けていますから、来てくださいね」
「おう、また新しい商品が入るなら来るぞ」
「もちろんです。楽しみにしていてください」
チョビ髭オヤジは帰っていった。
やっと商売になったなぁ。
これから百均チートが始まる・・・かも。
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