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《変なイキモノだったら》二章

 夕方になると、まずルイとギィが帰ってきた。

 玄関でヤケに話が弾んでいるなと思ったら、ルイとギィの他に二人の少女が一緒だった。

 そしてリビングに顔を出したルイは、

「今日はお友達のニナちゃんと、ギィちゃんのお友達のトトアちゃんが遊びに来たんだけど、いいですか?」

 そう尋ねてきたので歓迎すると、リビングに【十二本の黒薔薇】というシンプルで洗練されたマスクを被った少女が顔を出した。

 鮮やかな刺繍と白いレースに縁どられたローブからは高貴な雰囲気が漂っている。

「はじめまして、お邪魔いたします。私はガロットさんの同級生でニナ・ストロガと申します。こっちは妹のトトア・ストロガです、この子はギベットさんと同級生なんですよ」

 ニナちゃんの丁寧な挨拶に俺は思わずソファから飛び起きると、深々と頭を下げて自己紹介をしながら、三人は他所の家にお邪魔した時にキチンと挨拶をしているのだろうかと不安になっていた。

 姉のニナちゃんに促されて、俺の前にやってきたマスク無しのトトアちゃんは頭を下げた後、じっと笑みを浮かべたまま俺を見つめている。

 まばたきは――していない。

「そのマスクとストロガって……あの、ストロガ家の?」

 その言葉にニナちゃんはマスクを外し、涼しげな微笑みで頷いた。

 長い黒髪と濡れたヘーゼルの瞳を持つ、なんともまぁ、妖艶な娘さんだった……色気は歳月とは別に育まれるのだということを知った俺がニナを見つめていると、彼女は恥ずかしそうに下唇を噛んで俯いた。

「二人は拷問官の家の娘さんなんですよ」

 やっぱり。ストロガ家はスネイル家と共に大昔からこの地にある名家の一つだった。この家から歩いて三十分、飛んで十分の場所にある大豪邸を見たことがある。庭に噴水があるのだ。あと奇妙な実がなる果樹園もあった。

「私達は部屋に居ますね。少しうるさいかもそれませんが気にしないでください」

 ルイとニナちゃんは、キャッキャと楽しそうに二階へと上がっていった。

 ……ルイってあんな感じで笑うんだな。

 しばらく部屋に漂う花の香りに呆然としていると、手に冷たいモノが触れて我に返った。

 顔を向けるとギィは自慢気に濡れた手を突き出している。

「…………ふわふわであらった」

「え? あ、おおっ、偉いじゃないか」

 常々、『家に帰ったら手を洗うように』と言っていたのだが、もう言われなくてもできるようになったのだ。嬉しくなった俺が両手でギィの頬をブニュブニュと擦ると彼女は、

「うぎゃぁ」

 と、叫んで変な顔をしながら逃げていってしまった。

 そして――

 相変わらずニコニコと俺を見つめているトトアちゃんに、「どうしたの?」と尋ねると、彼女は表情を変えずに頷いた。

「はじめまして、私はトトア・ストロガ。穴を掘るのが大好き、空が泣く日以外は、いつも家の裏に穴を掘っているのよ、毎日、昨日も、夜が埋めてくれた後には花が咲くの、綺麗な花よ、とてもキレイな、うふふ、素敵よねっ!」

 おかっぱ頭のトトアちゃんはにこやかな表情のまま、そう呟いた。

 ギィの友達というからもっと大人しい子を想像していたが、けっこう喋る。内容はよくわからないけれど。

「トトアちゃんね、よろしくね。花と砂遊びが好きなのかな? ギベットと仲良くしてあげてね、ギィも植物が好きだから」

 その言葉にギィは、

「…………仲良くしているもん」

 そうトトアちゃんの手を握った。

「そうよね、私とギベットちゃんは仲良しだもんね、つちで汚れた私の手を握ってくれるのは、とても嬉しいな、今度はお花を持って来て、ギベットちゃんに送るわ、うちの裏庭に咲く真っ赤な花で、とても繊細だけど元気な花なの、雨の日はとても喜ぶのよっ!」

「ギィ、良かったじゃないか、トトアちゃんがお花をくれるってよ」

「…………おはな?」

「そう、私が選んでつんであげる、花をつむのが好きなの、花をつんでから、石をつむのよ、そうすると陽が落ちてもなかないの、可愛いクォルも、大きな押入れも、木の馬も、部屋の硬い紐と鞠も泣かないの、面白いでしょ?」

「…………ギィ、おはな好き」

「それは知っているわ、一番のお友達だし、それに今度の参観日に一緒にやるじゃない、私はお母さまが見に来るのよ、頑張ってやりましょう、私はお姉さまと違って痛いのは苦手だから。それと、今日は新しいタクトを持ってきたのよ、お母さまに買ってもらったの、あとで見せてあげるわっ!」

 なるほど、これだけお喋りならギィとも気が合うだろう。

 トトアちゃんは、なんとも不思議な少女だった。

 可愛い笑顔を浮かべて、お淑やかで、言っていることの多くは理解不能だったが、良家の娘さんという印象を受けた。

 しばらくしてラヴィから貰った毒々しい色使いのお菓子と紅茶をもって上階へと向かうと、ルイの部屋からは悲痛な、でもどこか婀娜っぽい濡れた声が響いてくる。

「今手が放せないので、そこに置いておいて下さーい」

 ……何をしているのかは聞かないでおこう。

 リビングに戻るとギィとトトアちゃんは観葉植物のポコラを眺めていた。何が楽しいのかは分からなかったが、時々、控えめな笑い声が聞こえてくる。

 俺はキッチンの椅子に座って紅茶を飲みながら、刻一刻と情報が更新される新聞に目を通していた。

 時計が刻む午後のひととき。

 キッチンの窓からは近所の子供達が飛行訓練をしている様子が見てとれ、その傍らには、まさに魔女といった風貌の老婆が孫たちに空を飛ぶための秘訣を教えていた。

 どうやら子供達は港街の陽流れ地区に係留中の飛行船を見るために練習しているらしく、必死になって空を目指していた。この世界の子供たちにとって上層はオトナを象徴するものでもあり、そして高さと速さは憧れだった。

 再び新聞に目を落とすと『ヘンリクス行き飛行船が就航、観光業に大きな後押し』とある。人間を含む観光客の増大に伴って製造されたらしい。これの事か。俺は欠伸を噛み殺しながら記事を追った。

 そんな生ぬるく間延びした時間は退屈だったが、なかなかどうして悪くはない。俺はティーカップの熱に引かれてやってきた泥キノコを潰すと、紅茶をすすった。

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