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《なれの果て》四章

 灰海の動乱によってクラーメルの思惑は外れた。

 ヘンリクス上層部は今回の一件について、『クラーメル一派が独断で行った暴挙である』として彼の側近十二名を即日処刑、再び穏健派が台頭する事となった。

 その迅速な対応はシンテイとワニグ両国の武力介入を危惧したからだと推測されていた。現に動乱の直後、コトでは「ヘンリクスに進駐すべし」との主張が陸軍を中心に湧き上がっていたからだ。いや、軍部だけではないコトの市民もその主張に同調を示した。

 しかし、なれの果ての討伐に多くの戦力を割いていた為、ヘンリクス進駐はツアルト・ナイゼンによって退けられた。

 また早期に「シンテイはヘンリクスに進駐の意思は無い」と広域表明した為、カズラ・イング率いるワニグは静観の構えを崩さず、八年ぶりの東西大戦は免れた。

 ただヘンリクスは両国と『今後、如何なる武力も有してはならない』という内容の『ナイゼン・イング条約』を結ばざるを得ず、事実上、自治権を放棄した形となった。

 しかし動乱から条約の締結まで非常に素早く事が運んだ為、以前からツアルト・ナイゼンはクラーメルの動きを察知しており、ワニグの最高指導者であるカズラ・イングとの間に何らかの密約が交わされていたのではという噂も真しやかに存在していたが、真相は闇の中だ。

 クラーメルに通じていたシンテイの代表ニ名は拘束され、後に両国へと強制送還となった。二人は現在、コトの薄暗い部屋でスゥ婦人の妹であるザルガ叔母様との楽しい面談の日々を送っているという。

 逃走したクラーメルには多額の賞金が掛けられたが一ヶ月経った今でも彼の消息は掴めていなかった。

 ヘンリクスに潜っているヴィオレットから、採掘会社である鉄蝸牛によって保護されているとの情報が上がってきていたらしいが大陸最大の企業故に、おいそれと手を出すわけにもいかず、半年も経つ頃には話題には上がらなくなっていた。


 そして俺は一躍、時の人となった。

 『人間の奇跡の閃きが市街戦を回避』

 『一人の娘と多くの市民を救ったのはまさかの人間?』

 『愛する娘を守るため、ニンジャの父がシンテイを救う』

 ……あ、もう忍者って事になってんだ、俺、すっかり忘れてたわ。

 ヘンリクスの企みを阻止したのが魔術の使えない人間という事が珍しかったのだろう、新聞の見出しには熱賛の文言が踊り、俺は名門であるスネイル家の娘とシンテイを守った英雄として人々の賞賛を浴びたのだった。

 そんなワケだから港街へ夕食の買い物に行くと、俺の周りに人だかりが出来るようになっていた。

 ガキンチョ共から飛行の秘訣を聞かれて困惑したり、しわくちゃの老魔女に至ってはコトに住んでいる息子夫婦と孫との思い出を延々と語りながら、俺の手を取って目に涙を浮かべるのだ。ノバインの市民はコトよりも保守的な考えらしく、それはアデリアの影響だった。

 また、ガロやルイも学生でありながら妹を救う為に勇敢に立ち向かったとして空軍から感謝状を頂いていた。

 ガロはよほど嬉しかったのか「空軍に絶っっっっ対入るからっ!」なんて息巻いているし、話題に目をつけた魔具店からスネイル家に拷問具の発注が相次いだ。

 ルイは目の下にクマを作りながら夜遅くまで新作の開発に勤しんでおり、相も変わらずニナちゃんの濡れた悲鳴が部屋から響いてきている。

 ……どうやらスネを責めているようだ。

 とまぁ、こんな感じで平穏な日常が戻ってくると思っていたが、どうやらそれは儚い夢のようだった。

 今回の一件、裏を返せば俺のせいでヘンリクス独立の芽は潰されたワケで、シンテイが俺の功績を称えれば称えるほど、シンテイの最高指導者であるツアルト・ナイゼン大魔導様から感謝のお言葉を頂けば頂くほどヘンリクスの独立を願っていた人々からは恨まれた。

 結果、一介のしがない人間だった俺が憎悪と怨恨が浸透している世界の表舞台に引っ張りだされてしまい、その渦に飲まれる事となる。

 その事実に気がついたのはしばらく経ち、腐砂の魔女である空軍の士官、カルディナック・クリナが自身の怨恨を引っさげて俺の前に現れた時だった。

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