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《なれの果て》一章

 俺がギィをホウキに乗せて飛び立とうとした瞬間、透き通るような甲高い音が響いた。

 音叉を弾いた時のような粘っこい、耳に残る音。

 それは複合魔術である《望まれぬ揺り篭》が放つ緩やかな一線で、後に『なれの果て』と呼ばれた腐蝕ゴーレムの誕生を示していた。

 なれの果ては優に二百メートルを超す殺戮の赤子であり、剥き出しになった神経に風が吹き付けると狂声をあげながら無差別に拳を叩きつけた。

 生まれてきた事への憎悪と悔恨がその凶暴性を増幅させており、二ヶ月後に山岳地帯であるコズトロから呼び寄せた破砕部隊によって討伐されるまでの間、実に三百六十二名もの命を喰らった過去最悪の霊獣だった。

 もしコトの上空で生まれていたら……。

 なれの果ての誕生によって船体は大きく傾き、巨躯が船底を突き破ると大鴉は海原に舞う木の葉のように翻弄され、そして瓦解した。

 あと三秒、いや、一秒早く飛び立っていたら巻き込まれずに済んだのだろう。

 ――だが遅かった。

 なれの果ての咆哮が大気を揺らし、床が沈み込むと俺達は大きくバランスを崩した。

 ひどくゆっくりと流れる時間の中で、択一を迫られたが俺は悩むことはなかった。ギィの小さな手を握るとそのまま抱きかかえるように腕の中へと。

 ホウキは重力に引かれて多くの残骸と共に地上へ落ちていった。俺は腕に力を込めると、全身を硬直させる。

 天井か床か、とにかく重力を遮ろうとする壁に頭を強く打ち付けると、口の中には薬品臭い匂いと血の味が広がり、奇妙な陶酔感が全身を包んでいる。

 目眩、鈍痛、視野の狭窄、そして世界から音が消えた。

 次に色が消えた。

 手の平に伝わるギィの小さな温もりと鼓動だけが、確かな時間の流れを示している。目の前には綺麗な黒髪があった。髪に指を通すと、心地良い冷たさが伝わってくる。

 そんな究極に引き伸ばされた時間の中で一つの解を探っていた俺は腕の中で気を失っているちんちくりんな愛娘を強く抱きしめた後、諦念の溜息を吐いた。

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