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《灰色の砂》一章

 運命はよく河の流れに例えられる。

 絶えず一方へ進むその力は、小さな石の意思の介在を許さぬ程の濁流であり、力なきモノはただゆっくりと下流へと流されていくだけだ。抗おうとも全てが徒労に終わる。

 そして気が付く。不透明な憎悪の萌芽は手を繋いだ時の温かさだとか、愛らしい人の寝息だとか、そういう幸せと正反対の性質を持っている。つまり生臭い厄災の果実は目に見えぬところで生まれ、ある日突然、弾けるのだと。

 ガヴリロ・プリンツィプが薄暗い納屋で家族の死を嘆いた瞬間、第一次大戦の歯車が動き出したように、ヘンリクスで過去最大級の伝動石が見つかり、クラーメルが『人間的利用』を思いついた瞬間、この流れは決まっていた。

 莫大な魔力を用いたランチェスター戦略、急襲からの短期決戦。

 目標はシンテイの首都であるコトの奪取。

 この日、三隻の随伴船と共にヘンリクスを発った大鴉には一二九名の乗客の他に直径五メートル、重さ六〇トンにもなる巨大な伝動石が秘密裏に船積みされていた。

 数か月前に採掘され、『魔女への鉄槌』と名付けられた伝動石にはヘンリクスの地上市場で集められた三九人の術者が《秘めた対話》を使って魔力を注入していた。

 螺鈿のように妖しい輝きを放ち、複合魔術である《望まれぬ揺り篭》を、その膨大な魔力によって生み出す、悪魔の子宮である。


 ノバインを発ったのは正午を回った頃だった。

 オクルさんの制止も聞かず、俺の後を追って牛頭の大塔へとやってきたガロと共に十六名のカルディナック隊に引かれながらコトを目指していた。

 俺のホウキにマスク無しのガロが跨がり、伝動石の力を借りて加速する。春の柔らかい日差しを受ける彼女の薄い身体に手を回しながら、今までの経緯を離すと彼女は無言のままそれを聞いていた。

 ただ、しばらく経ってから彼女は、

「アタシ達が他の人に話すワケ無いじゃない。信用してよね」

 そう呟いた……。

 コトへは一時間半程で到着、以前、ラヴィと共にコトへと言った際と比べると、その半分の時間だった。

 コトの陽流れ地区にある停留所には二隻の飛行船が停泊していたが、そのどちらも大鴉では無く、初期型の小さい機体だった。

「今すぐに中の乗客を降ろして調べろ。乗員が抵抗するようなら殺しても構わん」

 冷酷なカルディナックの指示を受け一五名の部下立ちが船内へと入っていった。

 更にカルディナックはコトに駐留している他の空軍部隊も呼び寄せると、その数は五〇名近くにまで膨れ上がった。

 そんな物々しい雰囲気に誘われて多くの野次馬が周囲に集まり始め、その群衆の中からガロを呼ぶ声が聞こえた。

「お姉ちゃん?」

 その聞き慣れた声に振り返るとルイが居た。

「やっぱりっ! 二人とも、どうしたんですか?」

「ルイこそ……なんでここに?」

「え? だってギィちゃんを迎えに来たんですよ? オガルトからノバインへは行かず、コトに寄ったんです」

 ……ああ、そうだったか。

 そう俺が納得した瞬間、激しい爆音が鳴り響いた。

 激しい衝撃波と圧縮された空気が周囲に広がると野次馬からは驚嘆の声があがった。

 音の方に視線を向けると飛行船の一部には大きな穴が空き、そこから数人の乗員が飛び出してきていた。そして幾つもの攻撃魔術が尾を引き始めると、辺りは騒然となった。

「何があったっ!? 報告せよっ!」

 カルディナックの元へ駆け寄ってきた魔女は全身から血を流している。

「ひ、飛行記録を確認しようとしたらいきなり攻撃を受けましたっ! ハルカロとアトが消失、グッチが重症っ! 転変系の魔術だと思われます」

 その報告を受けてカルディナックはコマバラの根を握りしめた。

「指揮系統は独立を維持したまま陸軍に支援要請っ! 防御系の術者の帯同を怠るなと伝えろ。ガミンチュ隊とグロンチュ隊は灰海上空で大型飛行船の捜索、アーノは陸軍の目となれ、行けっ!」

 そしてカルディナックは俺に「これ以上は関わらない方がいい」と、言い残して飛んで行った。

「……ねぇ、何があったの? ギベットちゃんは? 飛行船に乗っているんでしょ?」

 ルイが震える手でマスクを脱ぐと、その表情は俺と同様に青ざめていた。

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