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《つかの間の平和》八章

 随分と雑な体勢で牛頭の大塔の前に着陸すると、入り口の警備兵に走り寄った。

「オクルさんを、オクルさんを呼んで下さいっ!」

 それからしばらくして、彼が姿を現した。

「どうしたんですか?」

「大鴉の貨物の中に伝動石って積まれていましたか?」

 切羽詰まった俺に何かを察したのか、彼は周囲を見回した後、

「……詳しくは私の部屋の部屋で聞きます」

 そう部屋へと向かった。

 ドアが閉まったことを確認すると、オクルさんは喋りだした。

「確かに伝動石が積まれていましたが……」

 ――少しずつ。

「その伝動石の数量って調べました?」

「いえ、総重量だけ報告が上がってきていますね。確か、ここに……」

 オクルさんが触媒である月蜘蛛の牙を振ると机の上に報告書が姿を現した。

「何か奇妙な点はありましたか?」

「いや、特には見当たらなかったと思います。そもそも、ヘンリクスは伝導石の産地ですから特に変な事でもないんですよ」

 ――少しずつ。

「数か月前にヘンリクスが伝導石の産出量を粉飾していた事があったじゃないですか?」

「ええ、それによって二国から制裁措置がとられた件ですね」

「その時の詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

 眉間にシワを寄せたオクルさんがもう一度、触媒を振ると、その時の報告書が本棚から飛び出してきた。

 目の前に飛び出してきた粉飾事件に関する報告書に目を通していると、その中に『影』と呼ばれる単語が複数回に渡って登場している事に気が付いた。

「この……影っていうのは?」

「ああ、それはヘンリクスが所有する帳簿には載らない資金の事ですね。ヘンリクスが軍事力を持たないよう、資金の流れは両国によって厳しく監視されているんですが、それをすり抜けた裏金の事です。今回、厳しい経済制裁が行われた背景にはヘンリクスの軍事力増大に繋がる影を警戒するといった側面もあるんです」

 ――少しずつ。

「もしかして、その時に誤魔化していた重量って、今回、大鴉に積載されている伝動石と似た重さじゃないでしょうか?」

 僅かな沈黙の後、オクルさんは大鴉と粉飾事件の両報告書に目を落とした。

「同じ重量……ですが……どうして?」

 ――少しずつ。

「最後に、もう一つ。伝動石って軍事利用しないんですか?」

「軍事利用……ですか。考えたことはなかったですね。あまり利点が無いというか、伝動石に貯めておける魔力にも上限はありますので……」

「では大きな伝動石ならそれだけ大量の魔力を蓄えられるんですよね?」

「そうですね。ただ、変換効率が良くないんです。溜めておけば環境を考慮せずに使えるといった特性があるだけで、伝動石を介して魔術を使うならそのまま魔術を放ったほうが威力は高くなるんです」

 やはり物事は小さなカケラによって形作られている。それが組み合わさった時に真実が姿を現すのだ。

 俺は小さく頷くと、ゆっくりと尋ねた。

「……もし大鴉に積まれている伝動石が無数の小さな伝動石ではなく、数か月前に掘りだされた一つの大きな伝動石だったらどうなりますか?」

 その言葉に、オクルさんが口に手を当てて俯いた。

「俺がラヴィと共にヘンリクスに行った時、地上市場で制御系の術者を集めていたんです。伝動石に魔力を注入する《秘めた対話》が得意な制御系の術者を――」

 そして俺は一つの推測を導き出した。



 ――膨大な魔力を蓄えた巨大な伝動石を大鴉で運んでいるとしたら?



「ヘンリクスは甘んじて制裁を受けたんだと思います。そして本命は影ではなく、巨大な伝導石……そのものだったとは考えられないですか?」

 しばらく無言だったオクルさんが微かに震える手で触媒を振った直後、牛頭の大塔にスクランブルを知らせる大きな鐘の音が響いた。

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