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《石守の魔女》五章

 コトの北西に位置する黒林はその名が示す通り深く、暗い原生林だった。眼下に広がる霧の海からは獣の鳴き声と、樹木が割れる甲高い破裂音が響いてくる。

「なんだか、不気味なところだな……」

「本当なら黒林は通りたくないんだけれど、近道だからね」

 ラヴィが注意深く黒森を見渡しているのには理由があった。

 大昔から天然の要害として地上からの侵攻を防いできた黒林だったが、後天的に付与された『戦争の残滓が集まる場所』としての側面も持ち合わせていたからだ。

 そして、その呪いが俺達の前に現れたのは黒林に入って一時間が過ぎようとしていた時だった。

 代わり映えのしない景色。木、樹、生ぬるい眠気が襲ってきた俺の耳に、獣の――

 いや、女性の啜り泣く声が聞こえてきた。

「ラヴィ、あれって……」

 霧を揺らす、心を締め付けるような嘆きに鼻の奥がジンと痺れ始める。

 引っ張られまいとしたが、駄目だった。俺はいつしか大粒の涙を流していた。

「あれが石守の魔女の泣き声だ。高度をとろう」

 俺達が上昇し始めた時、樹々の隙間から何十匹という飛龍が飛び立った。

 硬い鱗と鋭い牙を持ち、渦巻く炎を吐くドラゴンはハイ・ファンタジーを連想させたが、それもそのはず、あの多種多様の腐った龍はこの世界の在来種ではなかった。

 制御と錬成の複合である《望まれぬ揺り籠》という上級魔術と、人々の想像力によって召喚された『霊獣』で、幾度の戦争が残した呪われた遺物でもあった。

 その《望まれぬ揺り篭》は《貫く致命の羽》や《頭骨拾い》等と同じく戦争でよく使われる魔術であったが、こうして戦争が終わった後も、その地域を汚壊する性質も持ち合わせていた。

「もう少しだけスピードをあげた方がいいだろう。親知らずは気性が荒いから」

『親知らず』とは主人を持たない霊獣の事を指していた。霊獣は主人が死ぬと命令が更新されないまま永遠に彷徨う事となる。その身が朽ちようとも。

 そんな親知らずを束ねているのが『石守の魔女』と呼ばれている魔女だった。どんな魔術を使って、何故親知らずを集めているのか、彼女に関しては何も伝えられていない。ただ呪いを纏う嗚咽だけが広大な森に響いている。

「あの木々の下にも、想像上のイキモノがわんさかいるらしい。ゴーレムやケルベロス、人間界の幻獣からヒントを得て造られた霊獣も多いらしい。戦争が終わった後もずっと憎むべき対象を探しているんだ」

 ラヴィの言葉に俺は何故か溢れてくる涙を拭いつつ、スピードを上げた。

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