《石守の魔女》四章
その後、暴走する偽ガロットや偽ルイゼットに引っ張られるように酒を飲み始め、一時間が経つ頃には重力が暴走を始めていた。もともと酒には強くなかった俺だが、光の消えた瞳と影を背負う戦争孤児の薄幸トークの前には飲むしかないじゃないか。
真綿に包まれたようなゆるい閉塞感と安心感が、思考を鈍らせている。
「私はねっ! ただ、すぃあわすぇ、が欲しかったっ!」
偽ガロットの瞳に涙が浮かぶと、酒で多情多感になっている俺は心が苦しくなった。
「わかるっ! 俺も三人のすぃあわすぇを願っているっ!」
目の前の少女はガロットではない。それはわかっている。
だが容姿がガロだったし、ケンカをした後だったので、彼女の口から発せられる悲哀が全てガロの気持ちの様に錯覚してしまった俺は、思わず涙ぐんでいた。ぬるま湯に漬けられた思考、鼻の奥が微かに痺れている。それと同時に一番常識のあるルイゼットもいつか、こんな派手なローブを着る日が来るのではという不安と、ちんちくりんなギィがこんなにも成長してしまう時が来るのだろうな、光陰矢の如し、が示す現実を疑似体験した俺はセンチメンタルになっていた。そりゃあ最初は、ただの美味しい仕事だと思っていたよ? ガキの面倒をみるだけでそれなりの報酬を貰えるんだし、自由に使える時間もある。だけど、最近じゃ仕事っていう感じは無くなってきていた。
何が変わったんだろうな……。
俺の膝の上で学校から借りてきた底気味悪い絵本を呼んでいるギベットや、大きめのエプロンを着けて夕食の手伝いをしてくれるルイゼット、学校から帰ってくるなり「ねぇ、聞いてよっ!?」と、愚痴をこぼすガロット。その全ては俺の人生において異質なものだったが奇妙な温かさを包含していた。血の繋がっていない妹の様な曖昧な感覚。三人にとって俺は何なのだろう。そして俺にとって三人は――。
「でもポンコちゃん、幸せは奪わなくても自然と生まれてくるものなんだ。例えば、手を繋いだ時の温かさだとか、愛らしい人の寝息だとか、そういう所から生まれてくる場合もあるんだよ、俺はそう思うっ!」
そう俺は鼻声で力説しつつ、ポケットを弄った。
そして――
「私も慎吾さんみたいなお父さんが欲しかったな」
店内の喧騒の上にぽっかりと浮いたその言葉を聞いた時、俺は暗闇へと誘われた。
――目を覚ますと、頭骨宮都のベッドの上だった。
薄汚れた天井には二匹の泥キノコが貼り付いていて、しばらくの間それをずっと眺めていた。泥キノコは互いにくっついたり離れたり、静かに遊んでいる。楽しそうだ。
「おはよう」
その声に視線を向けるとラヴィが起きたところで、その直後、昨夜の光景が蘇った。断片的な記憶を紡ぎ合わせ、一通りの流れを組むと俺はとっさにポケットを探った。
……ああ、やっぱりあげちゃっていたか。
同情か、はたまた気の迷いか。泥酔した俺は、どうやら今回の任務の報酬としてもらっていた最高級伝動石をポンコにあげてしまっていた。
「どうしたの?」
そう尋ねてきたラヴィに首を振ると、俺はシャワールームへと向かった。
微かな頭の痛み。茶色いヌルヌルした水を頭から浴びている俺の脳裏に、伝動石を手にした彼女の表情だけが残っていた。




