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《空を飛べたら》五章

 学校の地上入口でシェイドにお礼を言って別れると、玄関へと向かった。

 上空からもその大きさを確認できていたが、こうして地を這っていると更に際立つ。学校の屋上は牛頭の大塔に負けず劣らず高く、上層の一部は雲に覆われていた。

 花壇には不気味に笑う花が咲いていて、《飼育小屋》と札が掛かっている檻には屈強そうな四足の霊獣が大きな口を開けていた。

 ……怖ぇ。

 濁音だけで構成された鐘の音が響くと各棟から一斉に生徒達が飛び立った。その様子はまるでねぐらに帰る蝙蝠の様だ。どうやらこの学校には三千人近い生徒が通っているらしい。

 玄関に置かれている歴代の校長だったモノに話しかけて受付を済ませると、指定された教室へ続く不気味な廊下を進んだ。

 この世界では黒が忠誠と吉兆の証の色と考えられているせいで、そこも退廃的な色合いとなっていた。銀髪のガロも常々髪を黒く染めたいと嘆いている位だった。

 天井までの高さは優に二十メートル位あるだろうか、壁や天井にはダークブラウンのタイルがはめ込まれている。歩いているのは俺と低学年の生徒だけで、多くは談笑を交えながら優雅に飛んでいた。

 ちなみにギィの教室は二十階にあるらしく、最寄りのエレベーターらしき箱に入ったのだが操作方法が分からなかったので、結局、大階段を登る羽目になった。

 そんな階段の踊り場には階層毎に展示スペースがあり、薄気味悪い抽象絵画や何に使うのか分からない工作物がいくつも飾られていた。

 ……生徒の作品って事か。

 そんな中、十二階の踊り場に拷問器具が並べられていて、ひとつのシンプルな椅子の前に『ルイゼット・スネイル』と名前が記されている。

 しかも『血まみれコンクール』で優秀賞を取っているではないかっ!

 そんな『四本の針』と題された木製の椅子の前にはルイの文字で、

『何気ない日常に寄り添う、非日常的刺傷を表現しました』と、書かれていた。

 相変わらず意味が分からないが、ルイってそんなに凄かったのか……。

 嬉しくなった俺は膝に溜まる疲れを忘れて階段を登っていった。

 ……というか、なんだよ血まみれコンクールって。


 指定された『ウサギさん』の教室に入ると、最初に嬉しそうなギィの表情が目に入った。

 前から三番目の席に座っていた彼女は俺を確認するとすぐに前を向いてしまったが、その耳は真っ赤になっていた。

「ギベットちゃん、来ましたよ? よかったですね」

 そう隣の席のトトアちゃんが話しかけている。

 教室を見渡すと生徒の数は三十五人で、男女比は半々、みんな緊張した面持ちで教室の入口を気にしていた。どうやら保護者としては俺が最初に到着したらしい。

 教室の後ろに置かれた椅子へと腰を掛け、中途半端な懐かしさを感じていると、他の保護者も教室へとやってきた。

 そのほとんどが女性で豪華なドレスに身を包み、多種多様のマスクを着けていた。

 蜘蛛、幼虫、カタツムリ等の生物を模したマスクから始まり、時計や椅子などの雑貨を使ったマスク、更には何かの皮を何枚も継ぎ合わせたものやカラスの羽を張り合わせたものまで、こうもグロテスクなマスクが集うと学び舎も陰陰滅滅に染まってしまう。

 化粧か、はたまた香水か。魔女たちの匂いが教室に充満した頃、灰色のローブを纏った先生であろう魔女が姿を現した。

 そのマスクは【単眼兎と皮剥刀】で、頭を貫いている刃物と明後日の方角を向いている充血した一つ目がキモチワルイ。

「はい、それでは授業を始めます。今日は参観日ということですが、皆さん、いつも通りでいいですよ?」

 先生がそう言うと、一番前に座っていた男の子が手を上げた。

「はい、カリバくん、どうしましたか?」

「いつも通りと言いますがぁ、先生はぁ、どおしてぇ、お洒落をしているのですかぁ?」

 そんなやり取りに教室は笑いに包まれた。

 ……居たよな、あんなガキ。

 授業は先生が幾つかの問題を石版に刻み、それを生徒が答えていくという形式で、理解できない問題ばかりだったが真剣な表情のギィを見ているだけで満足だった。

 だが二十分経った頃――

「それでは次の問題に移ります」

 先生が魔術で石版に文字を書いていくと、ようやく俺が答えられる問題が出された。

「肺の苦しみの灰賊ドブネズミがその衣服を着替えている間、隠れている子供は何人ですか? またそれは子供と言えるのでしょうか? 大衆に躊躇しない時間帯に一時的にコマバラの性質を追加すると何が起こるでしょうか? それが霧であり、また最下層の空気ならばどうなりますか?」

 ……この問題、宿題でやったヤツだっ!

 先生、センセイッ! ティーチャーッ! ギィに当ててくれっ! ギィはちゃんと答えていたんだ、ギィに当てろ、ギィを選べぇっ! 俺は拳を握りながら念じた。

「そ、それでは……そうですね、ギベットさんに答えてもらいましょう」

 俺の念が通じたか、はたまた実際に声に出してしまっていたかは定かではないが、先生はギィを指名した。

 キターッ! ギベット、キタッ! いける、お前なら答えられるっ!

 死ぬ、だ、死ぬっ! 死ぬっ! 死ぬっ! 死ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!

 膝と顎をガクガクさせながら必死の声援を送るもギィは、

「…………死にそう」

 と、答えていた。

 だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ちがーう、それ五歳児の回答っ! 引っ掛け問題っ! 何を引っ掛けているのか俺にはサッパリだが引っ掛け問題っ! ちゃんと問題を見てっ!

「ギベットさん、ちゃんと問題を読んでみましょう」

 あー、もう、先生、ギベットはね、宿題のプリントでちゃんと答えていたんですよ。今日は緊張しちゃって間違えたけれど、本当は理解できているんですよっ!

 そして、しばらく考えていたギィは、

「…………死ぬ?」

 小さな声で答えた。

 正解っ! 凄いっ! 俺は盛大に拍手を送った。

「そうです、ちゃんと落ち着いて問題を見れば、答えがわかるでしょ?」

 そうなんですよ、やれば出来る子なんですよっ!

 ギィが席に着くと、胸を撫で下ろしつつ授業参観ってこんなに体力を消費するものだっけなと思いながら呼吸を整えた。

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