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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第九章 空中都市ハイランダー、出撃
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信徒ファニール、ベルザーグを心底焦らせる


 ベルザーグの方はと言えば、もちろんファニールとようやく対面できて、喜んでいた。


 今日ここへ来たのは、だいたいいつも来ている龍族の女の子、エステル・グランベールに遠征の同行を打診するためだったのだが……あいにく肝心の彼女は、今日はまだ顔を見せていないらしい。

 しかし、ファニールと会えたのは、それはそれで望外の喜びである。

 なにしろ、何度か行き違いになって会えなかったのだから。


(まあ、顔を見た途端に、以前あの子の家で見た裸がちらつくのが我ながらアレだが、なに、俺だって自分の娘に――しかもまだ十三歳の娘に手を出すほど落ちぶれてないさ。それにしても彼女、今にも倒れそうだが、大丈夫か?)


 しかも、今や口元に両手をやって、いきなり嗚咽を洩らしはじめた。

 お、俺のせいか!? とベルザーグが焦るほど、滂沱ぼうだの涙である。

 あと、どうでもいいがリンゴが脇に転がった……この子は未だに、日々をリンゴだけを頼りに食い繋いでいるのではないだろうなと、余計な心配までしてしまう。


 まあ、さすがに過度な小食はエレナが止めると思うが。





「ど、どうした、ファニール? なにか具合でも悪いのか?」


 駆け寄ろうとしたが、彼女は激しく首を振り、そろそろと歩み寄ってきた。

 幸い今のハイランダー内には、従業員のメイドさん達とアリオンしかいないが、これで見知らぬ冒険者達でもいようものなら、何事かと思うだろう。


 他人の目を気にするベルザーグと違い、ファニールは脇目も振らずにそばまで来ると、その場にうやうやしく両膝をついた。


 きらめく長い銀髪が、さらさらと背中を流れて左右に広がり、床にわだかまる。

 彼女がさらに、ぐっと上半身を倒したせいだ。……いわゆる、彼女的拝礼の姿勢である。


「わたしの愛する創造主様……ようこそご光臨を!」


「……むっ」

 今この子、愛するって言ったかぁああああと、ベルザーグ――というより、一郎の脳裏でその言葉が、実際の音量より三倍増しで鳴り響いた。


 まあ、信仰上の「愛する」だろうけれど、あまり……というか、ほぼ全然言われたことがない言葉なので、めちゃくちゃ動揺しそうになっていた。

 そばでニヤける(微笑む)アリオンと、観客のように動きを止めて見守るメイド達の目がなければ、奇声を発していたはずだ。


 かろうじて頷いた自分を、褒めてやりたいくらいである。

 相手が恐ろしいまでに真剣なので、あまり気安く「堅苦しいのは抜きにしようぜぇ、なあ!」とか言える雰囲気ではなかった。


 だいたい、床に広がった見事な銀髪が汚れるような気がして、非常に落ち着かない。


 過剰な挨拶もだが、そっちの方がより気になる。

 立たせてあげようと思った矢先、呆れたことにファニールは拝礼の姿勢のまま、さらに頭をぐっと下げ、ベルザーグの靴に唇をつけようとした。




「いやいや、そんなことしなくていいっ。汚いじゃないか!」


 間一髪、靴をどけるのが間に合った。

 一応、履いている革靴も新品ではあるが、そういう問題ではない。

 これはもういかん! と思い、急いで手を差し伸べる。


「そんなところで跪かないで、立ちなさい。今は私も、この通り生身の姿だしな」

「……はい」


 ファニールが差し伸べた手を両手で握ったので、「は、なんで両手?」とベルザーグは思ったが、次の瞬間、手の甲に恭しくキスされた。


 今この子、キスしたぁああああ、とまたもや呼吸が止まるベルザーグである。


 背筋に電流が走ったような気分だったし、いちいち人の意表をつくファニールに、汗をかきそうな思いである。


「立場的に、アリオンやメイド達の前で、みっともないところは見せられん!」


 という見栄がなければ、とうにその辺に座り込んでいたに違いない。


「う、うんうん……声だけではなく、ようやく実際に会えたのだ。お互い、嬉しいことだな」


 半分くらい棒読み口調だったが、なんとか創造神らしい言葉をかけ、今度こそファニールを引き起こしてあげた。

 しかし……さすがにリンゴダイエット(違うが)の実践者である。

 ベルザーグの予想より遥かにこの子は軽く、引き起こす力が入りすぎて、ファニールがよろめき、こちらのふところに飛び込んできてしまった。


「……あっ」

「――っ! ああっ」


 しかもこの子、ベルザーグ自身も動揺しているというのに、ぎくんと身体が強張り、ぶるぶる震え出すではないか。

 正真正銘、心の底から、「この方はわたしの創造主様!」と思っていなければ、ここまでの反応はないだろう。


 いや、別に他の子も全員そう信じているのだが、とにかくファニールの反応が一番過激だったのは確かだ。

 お陰で、かえってベルザーグの方が落ち着いてしまった。


「は……はは。ちょうどよかった。どうせ抱き締めてあげようと思っていたところだからな」


 普段は嫌っている、少女漫画に出てくるイケメンリア充のような口を利き、ベルザーグはそっとファニールを抱き締めてあげた。


 さすがにそのうち……落ち着くはずだ。

 


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