これまでの全ては罠
しかし、この男もかなりテンパッているようだし、下手に刺激すると頭に血が上って自爆でもしかねない気がする。
ここは、穏やかに説得する方がいいだろう。
「あらかじめ言っておくが、その武器の名称も用途も確かに私は知っているが、君が思うほどの効果はないぞ。特に、この世界においてはなおさらだ。正味、一流の魔法使いなら、シールドを張ればどうということはない……まあ、発射音には驚くだろうがね」
なるべく落ち着いた表情を保ち、教えてやった。
少なくとも嘘ではない。
イスラエル製のサブマシンガンには確かに驚いたが、それでベルザーグがどうにかなるかというと、答えは完全にノーである。
男……確かテトとかいったように思うが、そいつはベルザーグの言葉に動揺するでもなく、ひたすら無言だった。
何を考えているのかわからず、不気味である。
「それに君の話を聞いていると、そもそもあまりその神とやらに優遇されているようには思えないな。どういう理由でその神に目を付けられたのか知らないが、どうせなら寝返らないか?」
ここは思い切って、持ちかけてみた。
「おそらく私の方が、マシな待遇を用意できると思うが?」
「あんたは、神なんだろう? なんでそんなに熱心なんだ?」
ようやく会話を再開したかと思えば、テトは心底、理解できないという風にベルザーグを見た。
「俺の個人的な話なんか無視して、殺せばいいだろう? あいつがしょっちゅうやってるように!」
「君、人の話を聞いてたか?」
ベルザーグはむっとして言い返した。
「私は別に、人殺しが好きなわけじゃないっ。私がためらわずに戦うのは、自分が創造した可愛い娘――と息子のためだ」
九割は娘のためだけどな! というセリフは、喉の奥に押し戻す。
一応、男だっている。熱の入れ方の方向性が違うだけだ。
「あの子達を守るために他に方法がないというのなら、いくらだって殺してやるさ。もちろん、
おまえのいう神とやらも含めてだっ」
ベルザーグがきっぱり言い切ると、テトがぶるっと震え、銃口が動いた。
頼むから注意しろといいたい。
いかに平気でも、弾が目とかに当たったら嫌だ。
「あんたなら……あいつを殺せるというのか?」
ふいに、テトが尋ねた。
「言っとくが、アレは掛け値なしの化け物だぞ?」
声が掠れていた……よほど意外だったらしい。
「お、ようやく建設的な意見が出たじゃないか?」
ベルザーグは自分で不敵と信じる笑みを浮かべ、両手を広げてやった。
「これまでに共和国とやらが送り出した敵を見ていると、負けるような気がしないが? 私が慎重でなければ、とっくに総反撃に出ているところだとも」
「違うっ」
「……なにが違う? じゃなくて、君、大丈夫か? ひどい顔色だぞ」
やたらと汗をかき始めたテトを見て、ベルザーグは眉をひそめた。
「あんたは、なにもわかっちゃいないっ。いいか、今まで楽に勝ってこられたのは、一切合切全部ひっくるめて、あいつの計算のうちなんだよっ。その証拠に、どうせあんたは自ら攻勢に出ようとしているはずだっ。敵が予想以上に弱くて与しやすいと思ってるから!」
図星をつかれ、さすがのベルザーグも黙り込んだ。
ようやくテトの話を集中して聞くになったが……逆にテトの方は大汗をかいていた。
今にも死にそうだと思ったベルザーグの印象は、あながち外れていない気がする。
「詳しく話してみたまえ」
「あいつは、多分わざとあんたを挑発しているっ」
促されたからというより、もはやテトは話すことに渾身の力を振り絞っているらしかった。
呼吸も途切れがちになってきた。
「……ゆ、油断して……反撃に出ようものなら……向こうであんたは愕然とするはずだ。奴は本当の意味での強敵なんか一度も送っちゃ――ぐううううっ」
途中から、なぜか言葉にするのがひどく苦しそうだったが、最後は顔色が土気色だった。
とうとう耐えられなくなったのか、がっくりと膝を突いてしまう。
手にしたマシンガンも、滑り落ちていた。
「おいおい、本当に大丈夫なのかっ」
駆け寄ろうとしたベルザーグに対して、「来るなっ」とテトは大声を出した。
「話しちゃいけないことを……話しているせいだ。気にするな……どうせ俺は、もう助からん」
「まだ、そうと気まったものじゃ」
「いや、それが決まってるんだよ」
テトは汗まみれの顔で言い切り、首を振った。
「あいつの配下である側近が……俺があんたに出会う未来を予感したようだ……そのせいで、俺は自分の娘をあの化け物に人質に取られ……こんな遠方へ送られた。全て、あんたのことを探るため……だ。だがあいつは……どうせ俺が言われた通りに報告しても……娘を殺すだろうと俺は思っている。だから、俺の唯一の希望は……あんただけなんだ。今から……奴について知る限りのことを教えるから……参考にしてくれ……頼むからっ」
ベルザーグはそこでふらついた男に駆け寄り、彼を支えて床に座らせてやった。
「わかった。勝手に治癒魔法を使うから、君は話を続けろ。聞いてるぞ!」
言われるまでもなく、彼は憑かれたように話し続けた。
延命行為の全てが無駄だと、もう悟っているかのように。




