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ただ今回は、相手が悪かっただけ


「ぬうう……なんという巨大な剣だ……あんなものを片手で」


 魔道士風の男はすっかり腰が引けていたが、まだ元気を失っていない者もいた。


「馬鹿め、おまえが相手にするのは、我らではないわっ」


 灰色の髪をした男が憎々しげに怒鳴り、魔道士を見た。


「デルグレイド殿、あの生意気な子供に早速、あいつらを――ぐっ」


 いきなり語尾がぶつ切りになり、彼が喉元を押さえてもがく。それどころか、決して小柄とはいえない身体が、暴れつつも宙に浮いていく。


「ぼ、ボリスっ」


 魔道士が叫んで足を掴もうとしたが、もう手が届かないほどの高度だった。


「ぐがっああがああっ」





「……誰が馬鹿で、誰が生意気な子供よ?」


 ローレンは人差し指でボリスを指差したまま、低い声で問うた。


「不敬で愚かな人間め、おまえは誰を相手にしているのか、全くわかっていないようね。……お兄様の情報収集に全員はいらないでしょうから、おまえは死になさい」


 言下に、くっと指を下に向ける。

 その瞬間「げぼあっ」などと声にならない悲鳴を上げ、ボリスとやらの身体は血飛沫を上げて肉体ごと弾けてしまった。

 血も肉もぐじゃぐじゃに混じり合い、他の男達の頭上に降り注いできた。


「くっ」

「うわあっ」


 二人とも大慌ててでローブや服を手で叩いたが、追いつかなかった。

 そのうち、焦ったデルグレイドとやらが声を張り上げた。


「不死の戦士達よっ、あいつを殺せえっ」


 その瞬間、一番前に出ていた二体を皮切りに、一斉に百体近い戦闘マシンが声を張り上げた。


 

『命令受諾!』

『命令受諾っ』



 光剣を振り上げつつ駆け出す様は、まるで悪夢のようである。

 しかし、ローレンは全く慌てない。

 最も至近距離に来た二体に対し、自らその間合いに飛び込む。


「まずは一人っ」


 叱声と同時に、寒気がする風切り音がして、大剣が唸りを上げた。

 防御効果の極めて高い戦闘スーツを着込んでいたのにもかかわらず、一人目が腹の辺りで輪切りになり、そしてローレンが返す剣で、次に飛び込んで来た二人目に剣撃を叩きつける。


「そして、二人目っ」


 今回は先に、ガギィンッという音がして、光剣と漆黒の剣が激突したが、なんと光剣の輝きの方が消失して、あっさり突破された。 


 そのまま宣言通り、二人目の首も飛んでしまう。

 デルグレイド達の呻き声が聞こえたが、戦闘マシン達は恐れを知らない。仲間が無残にやられようが、洪水のようにローレンの元へ押し寄せてくる。


 それは、デルグレイド達が一瞬、「数で押し切れるのではっ」とはかない希望を持ったほどの勢いがあった。





「……全員倒してもいいけど、よく考えたらお兄様がまた利用するかもしれないわ。この辺にしておかないと」


 のんびりした声音と同時に、ローレンは大剣を元に戻し、代わりに右手のてのひらを前へ突き出した。

 今度は押し寄せてくる戦闘マシンに向けて、一声だけ声を上げた。


「無礼者どもっ、止まりなさい!」


 途端に、ぴたりと彼女達の突撃が止まった。いや……一応動こうととはしているようだが、ギギギッと不気味なきしみ音がするだけで、全く前進できずにいる。


「どうした、さっさと倒さぬかっ」

「そうだ、動け!」


 デルグレイド達が喚いたが、そんな掛け声ではどうにもならなかった。





「人間じゃないから、このローレンの言葉も通じないわね。……では、最もダメージ少なく止める方法を考えましょうか」


 気楽な様子で掌を前に出したまましばらく考えていたが……あたかも何かを見通すような目つきでざっと戦闘マシン達を見渡し、一つ頷いた。


「そう……そこが駆動系ね? では、接続をカットしてあげるから、しばらく寝てなさい」


 言葉と同時に、今度は右手の人差し指を、ピッと横一文字に引く。

 すると……三桁に近い数の戦闘マシン達が、その場でバタバタと倒れていった。


「これは、ど、どういうっ」

「デルグレイド殿っ」


 怯えて騒ぐ男達に、ローレンは冷ややかな笑みを向けた。


「その子達は決して弱くないわよ。第八時代の昔から、拠点の最終防衛陣として動員されてたほどですものね。ただ今回は、相手が悪かっただけ」


 可愛らしくあくびなどした後、じろりと二人の男を見据える。


「さて、次はおまえ達だけど……よく考えたら、尋問するのは一人でいいかしらねぇ」




 残酷な笑い声が聞こえた途端、デルグレイド達は生唾を飲み下して顔を見合わせ……そして、次の瞬間、きびすを返して走り出した。

 恥も外聞もあったものではないが、アリと獅子ほどの力量差がある相手に、抵抗するだけ無駄である。

 しかし……駆け出して十秒もしない間に、彼らの「上空」から、悪戯っぽい声が聞こえた。


「お兄様のご命令だもの、逃がさないわ」


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