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よし、敵は一人だっ(←フラグ)

 ベルザーグとローレンが丘陵地帯を目前にした海岸へ降り立った時には、既に星空が広がる深夜だった。

 そろそろ春も半ばを過ぎていて、時刻が時刻だけに、吹き抜ける風はかなり冷たい。


「ローレン、寒くないかな?」


 胸に抱いていた妹を下ろすと、彼女はにこやかに首を振った。


「ずっと抱き締めて飛んでくださり、嬉しかったですわ、お兄様。お兄様の愛を感じられましたもの」


 別にそこまで大層なものではっ。

 ベルザーグは内心で冷や汗をかいた。冗談に聞こえないのが怖い。


「い、いやいやっ。長らく眠っていた妹へのサービスさ」


 減らず口を叩きつつも、元来が用心深いベルザーグは、素早く周囲を見渡している。

 今立っている場所は北部の海岸だが、南側の少し先に、三十メートルはある崖がそびえている。剥き出しの岩盤層を晒しているので、そこから先はもう地層が違うらしい。

 道理で、この辺の砂浜は面積が狭いはずである。


 その崖を登った先には丘陵地帯になっていて、どうも針葉樹の森が広がっているらしい。

 朝方にベルザーグが捕虜とした、三名のスパイ達から聞き出した情報通りである。

 連中に教えられた場所を、魔力探知で見れば明らかだが……眼前の崖の中腹には、どうやら擬態魔法がかかった場所があるようだ。


「……かけられた擬態は、かなり広範囲にわたっているようだ。洞窟の入り口にしても、相当な大きさだな」

「目的地はそことしても、ローレンとお兄様を見張っている者達は外にいますわね?」


 ローレンが早速、優秀なところを見せた。


「うん、崖の上だな」


 ベルザーグも小さく頷く。

 そこは、聞かされた情報とは微妙に食い違う部分だった。


 三名のスパイ達の話では、外に見張りなどいないと、揃って断言していたのだ。

 あいにくクレヤボヤンスで見れば明らかだが、針葉樹の森の中から、こちらをこっそり見ている連中がいるらしい。 

 気配を完全に殺すのは連中の技量では無理なのか、あるいは見張っている自分達の存在に気付かれても、気にしないかだ。


「どちらにしても、見張りがいる以上、最初から奇襲は望めないわけだ。それに、先んじて見張りがついているというのが気に入らないな」


 ベルザーグはあからさまに顔をしかめた。

 橋頭堡だか拠点だか知らないが、崖の中腹にある入り口が本命にしても、聞き出した情報にない見張りがいるとなると、どうもこれは罠臭い。


(だいたい、単なるスパイが重要な情報を持っているのがおかしいしな)


 慎重なベルザーグは少し考え、結論を出した。





「ローレン、私がまず一人で洞窟の中に入ってみる。おまえはおまえで、崖の上でコソコソしている連中を押さえてくれ。出来れば尋問して情報を得たい」

「……見張りを押さえるのはいいですが、なにもお兄様がお一人で対処されなくても」


 心配そうなローレンに対し、ベルザーグは笑顔で華奢な肩を叩いた。


「おまえはいざという時の保険だよ、ローレン。私と分かれて二十分経ってもなんの連絡もなければ、おまえも後から突入してくれ。万一を考えた、二段構えの作戦だ」


 ローレンは何か言いたそうに考え込んでいたが、しかしやがてゆっくりと微笑した。


「比類なき力をお持ちのお兄様のことを、あまり過剰に心配しすぎるのは失礼ですね……では、ローレンは周囲の雑魚達を押さえます」

「よろしく頼む。……では、行くか」


 ベルザーグとローレンは頷き合い、その場でスキルのレビテーションを使い、すうっと浮上した。ぐんぐん上っていき、ベルザーグは崖の中腹で止まる。


 さらに上昇していくローレンに、下から手を振ってやった。


「おまえも、危なくなったら私を呼ぶんだよ!」

「……はい。お兄様も、お気をつけて」


 名残惜しそうなローレンは、そのまま崖の頂上まで上がり、姿を消した。

 まあ、謎の見張りはあの子に任せておけば大丈夫だろう。






(ていうか、見栄を張って本命のこっちを担当したのは、早計だったかな……しかし、目覚めたばかりの妹を、いきなり実戦投入するのも可哀想だ)


 責任者は責任とるためにいる……なんてセリフが、某アニメで出てきたな。

 つまらないことを思い出しながら、ベルザーグは浮かんだままゆっくりと、崖の壁面ににじり寄る。


 先に調べた通り、本来なら剥き出しの岩盤層に手が触れるはずが、そのまま手が中へ入っていく。そのまま前進して、擬態魔法でごまかされた部分を抜けた。


 抜けた先は……金属で覆われた通路のような場所だった。

 明かりはあるが、魔法の明かりではなく、天井に等間隔である謎の光源である。


(なぜか、いきなり近未来風だな……まさかここは、先史時代の遺跡なのか?)


 だいたい、共和国とやらから来た連中の拠点にしては、もっと古くからあるような気がする。ひょっとして、連中は偶然にここを見つけただけなのかもしれない。

 早速、探知魔法で先を探りつつ、歩き出す。

 ……しかし、十メートルもいかないうちに、ベルザーグは眉をひそめた。


「なんだ? 意外と先は短いのか……しかも、奥にいるのはたった一人のようだが」


 そこまでわかっても、ベルザーグは安堵したりはしなかった。

 逆に言えば、待ち構えているのが一人というのは、ひどく不気味である。

 よほどの自信でもなければ、たった一人というのは有り得ない。

 そういうのは「この戦闘が終わったら結婚式だ!」とかいう、超有名フラグ以上に、ヤバい気がする。


(元の世界のニュースでよく見た、自爆テロみたいなアレだけは、どうか勘弁してください。そういうの、俺は苦手なので)


 爆弾が得意という者もなかなかいないだろうが、それでも自分の立場を忘れ、祈らずにはいられない気分である。

 

 中の人である一郎は、この時点で既に、猛烈に嫌な予感がした。



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