化け物の敵は化け物のみ
「は、失礼します!」
入室した兵士は、その場で気をつけの姿勢を取り、発声練習でもするかのように声を出した。
「たった今、見張っていた魔道士部隊からマジックボイスで連絡が入りました。囮の施設前に、空から男女が降り立ったとのことです!」
「男女!? 軍勢ではなく、男女二人ということかっ」
「その通りであります、デルグレイド様っ」
また四人で顔を見合わせたが、今度ばかりはデルグレイドの決断も早かった。
「わかった。待機中の――」
少し迷ったが、それを振り払うように命じる。
「例の人形達を、一体残らず起動状態にして、転移魔法陣の部屋に集結させておけ。我らもすぐに行く!」
「あの人形を全て、でありますかっ」
茶色の制服を着た情報士官は、驚いたようにデルグレイドを見た。
「そうだ! 何度も言わせるなっ。急げ!!」
「は、はいっ」
叱声を受け、彼は尻を蹴飛ばされたように部屋を出て行った。
「……デルグレイド殿、そこまで謎の男女を警戒されますか?」
「全てとなると、立派に対軍勢用の攻撃力だと思いますが」
ボリスとトールが次々に声を上げたが、一人、最年長のテトだけは、「しかし、必要な措置かもしれない」とぼそりと述べた。
その声がどういうわけか、何かを期待する切実な響きを帯びているように聞こえ、デルグレイドを始めとした三名が一斉にテトを見る。
「どうした、なにか思いついたことでもあるのかな?」
デルグレイドがせかせか声をかけると、テトは顔を上げ、これまでにないほど随分と熱心に彼を見つめた。
「実はデルグレイド殿、私は――」
そこまで言いかけ、大きく息を吸い込む。
デルグレイドと朋輩達二人を眺め、ゆっくりと首を振った。
「いえ、こちらの話です。お騒がせしてすいません」
一瞬、四人の間に沈黙が広がったが、デルグレイドが代表してため息をついた。
「敵の青年が光臨した神かもしれないというおまえの危惧は、心に留めておく。今はとにかく、現場へ急ごう。敵が向こうから来たというのなら、逃がすわけにはいかぬ!」
「わかっております……」
「よし、では転移の部屋へ急ぐぞっ」
『はっ』
テト以外の二人の声が重なり、四人はドアを開けて、転移用の魔法陣が描かれた部屋へと急ぎ足で向かう。
……四人の最後尾から後に続きつつ、テトは密かに思っていた。
(いや、逆ですよ、デルグレイド殿。私はむしろ、罠にかかった相手が、ぜひともこの地を支配する神の化身であってほしいのです。なぜなら――)
そこで否応なく、テトの喉が鳴った。
そもそもなぜあいつは、王宮魔法使いのデルグレイド殿ではなく、この私になど目をつけたのだろうか?
私など、評議会支配下の、単なるアサシンに過ぎないのに。
もしも……そう、もしも本国のあの化け物を倒せるとしたら……それはもう、同じ化け物しか考えられない。
……何も知らぬ無垢な人々が「神様」と呼ぶ、化け物の同族のみが匹敵しえるだろう。




