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神々すら滅ぼした少女の目覚め


 しかし、とにかく恥ずかしい思いをしただけの効果はあった。

 ベルザーグの眼前で重たい金属扉が、見かけより遥かに静かに開いていったからだ。


 その向こうに見えるのも天井の高い空洞だが、中央に祭壇のような黒いピラミッド状の階段があり、その一番上部の平たい部分に、ローレンが眠るカプセルが置かれている。

 それと、この空洞に足を踏み入れると明らかに空気が変わったのを感じるが、それにはちゃんと理由がある。


 この辺りは昔から、地下の鉱脈にマジックストーンが多く含まれていて、ベルザーグが最後にかけた癒やしの魔法を、中央の祭壇に常時送り込んでいるのだ。

 膨大な量のマジックストーンの鉱脈をマナの元としているので、四百年程度では術が途切れることがない。


 祭壇の下まで歩み寄ると、ベルザーグはゆっくりと段を上り、一番上に到達する。

 実はフルダイブのテストプレイでも、まだこの中に入ったことはなく、妹の眠る姿を初めてみる。

 どちらかというと、近未来の宇宙船内で使われていそうな、流線型をした透明カプセルの中に、ローレンが静かに眠っていた。


 妹設定なので髪は同じく黒で、背中の半ばまで伸びている。

 前髪は眉の上で揃えたオールフロントであり、ファニールの向こうを張るようなほっそりした肢体もあって、初々しい中学生のように見えた。

 瞳を閉じている上に、後頭部を大きな純白リボンで飾っているので、なおさらだ。




「……ローレン、迎えに来たぞ」


 カプセルの透明なカバーに手を置いて声をかけると、いきなり部屋中に淡い光が満ちた。あたかも、ローレンの覚醒を促すように。

 実際、光は全て彼女に集中していて、やがて華奢な肩がぴくりと動く。

 同時に、カプセルの上部がゆっくり開き、完全に開放されていく。

 ベルザーグが緊張して見守る間に、瞼がそっと持ち上がり、これもベルザーグと同じ黒い瞳が彼を捉えた。


 ただし、ローレンが目覚める前の「初々しい中学生のよう」だと思った先入観は、あいにく目を開いた時点で覆る。

 なぜなら、アーモンド型をした目は、明らかに可愛らしさよりも英知と鋭さを湛えているし、

あのヴァレリーをも上回る凍り付くような気配は、ローレンが歴戦の戦士であることを物語っている。


 設定上は神族とはいえ、元より天上界で安穏としていた子ではない。

 第八時代を通じて、ベルザーグの代理として天地の別なく、常に戦ってきたのだ。

 創造主に背いたあらゆる種族、あらゆる神々に鉄槌を下してきた彼女の威圧感は、おそらくどんな鈍い人間でさえ、そうと気付く類いのものである。


 しかし、自分を起こしたのがベルザーグだと認めた途端、ローレンの殺気と威圧感は拭ったように消えてしまう。

 見上げるローレンの瞳は、優しく潤み、四百年ぶりに薄桃色の唇が甘い言葉を紡ぐ。


「愛するお兄様……またお会いできて、嬉しいですわ」

「おまえもすっかり元気に――うわっ」


 いきなり素早く首っ玉を両腕で抱えられ、ベルザーグは思わず声を上げた。




 そして、目覚めたばかりとは思えない素早さでローレンが身を起こし、口付けをした。

 まさかしょっぱなからそんなことされるとは思っていなかったので、ベルザーグは目を白黒させてしばらく石になっていたほどだ。

 お陰で、妹の気が済むまで熱い口付けを交わす羽目になってしまった。


「いきなりは困るっ」


 ようやく身を離すと、逆に文句を言われてしまった。


「お兄様が悪いのですわ……キスで目覚めさせて下さらなかったから」

「スリーピングビューティー(眠れる美女)への礼儀として?」

「いいえ、お兄様を愛する妹への礼儀として、です」

「真っ正面から言われると、照れるものだな」


 ベルザーグは言葉通り照れてしまい、急いでローレンを抱き上げた。祭壇の一番下までそのまま運び、そっと一段目に座らせてあげた。


「それで、具合はどうかな? もう完全に問題ない?」

「ございません!」


 晴れやかな声でローレンが頷く。


「忌々しい呪いも呪術も、全て解消され、ローレンの肉体は完全に復活しました。それに、お兄様はローレンのお願い通り、強化魔法をかけてくださいましたね?」

「もちろん。私としては、おまえは今のままでも十分強いと思うが、それがおまえの望みだったからな」

「……より強い方が、お兄様のために戦えますわ」


 年齢十三歳とは思えないような艶然とした笑みを見せ、ローレンは目を細める。

 自分の身体が動くのを確かめるように、手や肩をしきりに動かしていた。


「かけてくださった強化魔法がゆっくりと作用し、負担を掛けることなく、肉体の強化に成功したようです。これで、以前にも増して戦えることでしょうっ」

「おまえは過去に十分戦ったのだから、目覚めた途端に張り切らずとも――と言いたいところだが」


 ベルザーグはそっとため息をついた。


「今はそうもいかないようだ。まだ詳細はわからないが、またしてもこの世界は危機に陥っているかもしれない」


 愚痴のつもりで吐き出すと、ローレンの目が心なしかぎらっと光った。


「お兄様、このローレンにお任せを! お兄様に逆らう愚か者達は、全てローレンが代わりに滅ぼしてご覧に入れますっ」


 宣言と同時に、溢れんばかりの殺気を感じ取り、ベルザーグは再び内心で唸った。

 ……こ、この子を起こして、本当によかったのだろうか。


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