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恥ずかしすぎる、コマンドワード


 ヴァレリー達との話し合いは滞りなく済み、ベルザーグはそれぞれ彼らへの褒美を渡した後、西部地方を後にした。


 わざわざ褒美を持参したのは、どう考えてもあの三名は、功績を讃えられて当然だと思っていたからだ。

 三人とも喜ぶやら恐縮するやらだったが、ベルザーグが驚いたのは、ヴァレリーが本気で涙ぐんでいたことである。


 あの少女が、時に乙女のような反応を見せることがあるのは、さすがに鈍いベルザーグも気付いていたが――。


 まさか、これまでは縁が無かった各種豪華ドレスを、それほど喜んでもらえるとは思わなかった。

 なぜドレスかというと、前にバトルスーツを贈ってから、そればかり着用に及んでいる気がしたので、華麗なゴシックドレスを中心に、十着ばかり新たに贈ったのである。

 無論、あの子についてはスリーサイズまで設定済みなので、試着するまでもなく、ぴったりのはずだ。


 実は、贈る服を選んでいる時に、鼻歌交じりで色とりどりの豪華下着セットまでチョイスしようとして、危ういところでそれは却下した。

 いわば娘も同然の子に、パンティーやらブラを贈ってどうする!? と寸前で気付いたためだ。気付いて幸運だったと言えるだろう。


(とはいえ、まさかファニール同様、ドレスも飾って拝んだりしないだろうな……)


 ベルザーグは、「次にあの子の関係者に会った時には、密かに訊いてみよう」と決意した。

おそらく、あのホームベースみたいな顔の、パンパンではち切れそうなスーツを着用した男……確か、バーンズだったか?

 あいつなら詳しいだろう。


 だが、今は気持を切り替える時である。

 北方の海岸地帯に密かに作られたという、クレアデス共和国軍とやらの拠点を、一掃せねばならない。

 ヴァレリー達の助力を拒んで大見得切った以上、ベルザーグがすぐにも実行すべきことだった。


「――ただし、心強いバックアップを連れてな!」


 誰も聞く者がいないので堂々と声に出し、ベルザーグは飛行途中で転移した。

 目指すは……ベルザーグが大陸中に多数持つ拠点の一つ、北方の地下大空洞である。





 話はさかのぼるが、自分に近しい種族である「神族」を創造する時、ベルザーグはこう考えた。

 どうせ神族を創造するなら、自分に近い血筋の者を一人は設定しようと。

 そして、その案を採用するなら、当然ながら「ザ・妹」である。

 中の人の相馬一郎は、リアルワールドでは兄弟仲が最悪だし、必要なければ会いもしないような関係なので、男の兄弟はお腹一杯だったのだ。


 さらに言えば、ゲームを始めとして各種オタクコンテンツに首まで浸かるうちに、一郎がいつしか、「妹はいいよなあ、妹は!」と憧れ始めていたのも否定できない。

 実際に妹がいる者に言わせれば、「現実はあんな甘い関係じゃない」ということになるそうだが、それでも経験してみないとわからないではないか!

 とこのような事情……正確には、このような一郎の願望を背景に、ベルザーグの妹である「ローレン」は創造された。


 年齢設定は今のファニールと同じだが、現在の第九時代が始まってから、ずっと眠りに就いていた。

 この年――ヴィルゲリア帝国歴400年の春、ベルザーグの出迎えを受けて目覚めるというのがシナリオ上の設定である。




「さて、一応は予定通りのはずだが」


 妹ローレンのため「だけ」に作った地下大空洞のダンジョンを歩きつつ、ベルザーグは一番奥の「静謐せいひつの間」へと向かう。


 彼女は、第八時代に鬼神のごとき戦いの末に重傷を負い、邪神に堕ちた神々や邪教集団の信徒達の呪いを何重にも受けてしまった。

 そのことごとくを解除し、地上に光臨した生身の肉体を癒やし、さらに本人の希望で以前を上回る大幅な能力強化も成し遂げる――この全てをクリアするのに、四百年の年月がかかったのである。


 静謐の間へ至るダンジョンを抜けると、視界がいきなり開け、広大な空間が出現する。

 円形の周囲に備えられた魔法の明かりが一斉に点灯し、ベルザーグを迎えてくれた。ただし、ここはまだ、家で言えば玄関先にしか過ぎない。

 目指すは、重さ数トンはあろうかという、巨大な金属の扉だ。ベルザーグの身長の五倍は高さがある上に、表面にはベルザーグの紋章、すなわち太陽を示す黄金の意匠がある。これはもちろん、中で眠るローレンが、間違いなくベルザーグの身内であることを示している。


 この両開きのドアを開けないと、問題の静謐の間へは入れない。


 ベルザーグはダークスーツの襟元を直し、念のために深呼吸までしてから、中へ入るための唯一のコマンドワードを口にした。




「あ、愛するっ」


 いかん、照れて口ごもっちまったぞっ。

 そもそもこのコマンドワードは、是が非でも考え直すべきだった……今更遅いが。

 咳払いして、言い直すことにする。誰も聞いてないのだから、恥ずかしがる必要はないっ。


「愛するしもべにして、我が妹ローレンよ。おまえの最愛の男が迎えに来たぞぉおおおおっ」


 明らかに、最後はヤケクソだった。

 それに覚悟はしていたが、口にした途端に、脱力して膝をつきそうになった。

 ちなみに、「ローレンのキャラからして、ここに眠る前にこのくらいのコマンドワードは考えて、兄に設定させるだろう」と想像し、ゲーム内の回想シーンで実際にそう設定したのは、ベルザーグ――というか、開発中の一郎である。

 考えた当時は、「うむ、兄妹愛が強く漂うな!」と自己満足していたが、今はひたすら恥ずかしい。


 次にコマンドワードを設定する時には、もっと穏当なものにしたい……ベルザーグはしみじみとそう決心した。




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