ヤケクソで、目安箱的アイデアを思いつく
ホムンクルス達は人間に比べて感情が希薄なはずなのに、こいつらの無垢な笑顔はどうか!
とてもではないが、ベルザーグが「あ、今忙しいからっ」とか言って去れる雰囲気ではない。
……しかし、この騒ぎならそのうちローランドが駆けつけてくれるのではないか?
微かに脳裏に光が差したが――でもよく見るとローランドはおろか、ヴァレリーまで既に駆けつけているではないか。
なのに、彼らまで集団の一番後ろで同じく拝礼していて、ベルザーグを愕然とさせてくれた。
来てたなら、「こいつ(ベルザーグ)はいま忙しいから、解放してあげてっ」くらいは言ってくれよ!
駄目だ……連中は頼りにならないっ。
やむなく、ベルザーグは表情を調整して、自分でそういう方向に持っていくことにした。
「さあみんな、立ちなさい。こんな冷たい床で拝礼などするものではない」
笑顔で告げると、そろそろした動作で全員が立ち上がった。
しかしこの百名近くいる者達の「きっと、今から創造主様が素晴らしいことを述べてくださるっ」と言わんばかりのきらきらした目つきはどうか。
男はまだしも、女の子達の星が散るような輝く瞳で見られると、かなり気後れする。
ホムンクルス少女達だけならまだしも、ヴァレリーも周囲と全く同じ期待の目つきで見ているので、もはや救いようがない。
おまえ、普段は触れれば切れるような底冷えのする目つきなのに、俺を見る時の目は、普通の女の子なのな……ベルザーグは今更のように気付いてしまったほどだ。
「壮健そうでなによりだな……どうだ、なにか困ったことや相談がある者はいるかな」
用心して全員に尋ねる形で声をかけ、ぐるっと見渡す。
幸いにして、「おうおう、言いたいことが山積みじゃっ」などとイチャモンをつける奴はいない。
みんな笑顔で「お陰様で元気ですっ」とか「楽しくやらせてもらってます!」とかそれぞれ声を上げていた。
ただ、ベルザーグは聖徳太子ではないので、一度に言われても判別できないのである。
どうも彼女達は、「ベルザーグ様は全て聞き取っておられる」と勘違いしているようだが。
中の人である一郎は、人間が神の役割を果たす難しさについて、しみじみと悟った。
普通に「一人ずつねっ」とでも頼めばいいのだが、いらぬ見栄を張って「おう、全部聞いてるぞ!」というように、無駄に笑顔で頷く自分が憎い。
せめて、少しでも何かしてあげられることはないかと考え、ヤケクソで今思いついたばかりのアイデアを口にした。
「後で、おまえ達専用のノートを作ってあげよう。ローランドに頼んで、それをみんなが書き込めるような場所へ設置するから、私がいない時になにかあれば、そこへ書きなさい」
わああっというような、嬉しそうな声が一斉に上がった。「ノートですって!」「うんうん、困ってなくても感謝の気持ちを書こうねっ」などと、笑顔で囁き合っている。
生まれたばかりのホムンクルスは、みんな素直すぎるようだ。
きょうびのガキンチョは、そんなものではさっぱり喜ばない気がするのだが。
とはいえ……な、なんとかごまかせたな。
ベルザーグは笑顔を作って頷き、さりげなく歩き出す。
「では、今から大事な話し合いがあるので、私は行くよ。……みんな、そろそろ作業に戻りなさい。身体を壊さない程度にがんばるんだぞ」
『はぁいっ』
ああっ、俺は幼稚園の先生かよっと自分で思わないでもないが、少なくとも不満そうな目つきで見てくる奴はいないので、ほっとした。
やたらとよい返事が重なったし、問題あるまい。
ベルザーグはそのまま足早に歩き、一番後ろのローランド達と自然と合流する。
するとローランド達も一斉に歩き出し、大いにほっとした。
(やれやれ……て、おいっ)
安全圏まで遠ざかったあたりで振り返ると、しかし全員またこちらの背中を向いて拝礼に戻っていて、ベルザーグの背中に冷たい汗が流れた。
こいつら、真面目すぎるっ。
逃げられたのはいいが、とっさに口をついて出たノートの約束は、後でローランドに頼んでちゃんと実行せねばなるまい……目安箱かよ、と自分で思わないでもないが。
広い空間の中にあった、休憩場所のような部屋へ案内されると、ベルザーグは早速、窓のカーテンを全部閉めた。
そもないと、彼女や彼ら達が、外からずっとチラチラ見つめてくるような気がしたからだ。
だいぶ暗くなってしまったが、すぐに自分で魔法の明かりを作り、前より明るいくらいに光量を調整した。これで問題あるまい。
「ベルザーグ様、どうぞ」
ローランドがテーブルの椅子を引いてくれたので、礼を述べてようやく腰を落ち着ける。
それを待っていたかのように、彼らも同じテーブルに着いた。
すかさず、ローランドがコーヒーを入れたカップをベルザーグの前へ置いてくれた。
「先に尋ねるが……ホムンクルス達は、なんの作業をしていたのかな?」
礼を述べた後、ベルザーグは真っ先に尋ねた。
会合場所はローランドが活動している地下でいいと連絡したのはベルザーグ自身だが、まさかあんな人数でせっせと作業中とは思わなかったのだ。
「墜落した飛行戦艦の、故障した部品ばかりをここへ集め、お借りしたホムンクルス達に組み立てを頼んでいます。幸い、図面などは押収したので」
ベルザーグは「ほう!」と声を上げたが、ヴァレリーも初耳だったと見え、少し身を乗り出して尋ねた。
「すると、将来的には三隻とも動かせるようになるのだな?」
「ええ、そのつもりですよ」
ローランドにしては愛想のいい返事だった。
意外と、ヴァレリーと気が合うのかもしれない。




