震えるバトルスーツメイド
ローランドに案内されたのは、このただっ広い地下空間の隅にあった、ガラス窓のついた待機場所のようなところだった。
ベルザーグがもしこれを見れば、「工事現場の隅に立ってる、プレハブの休憩所みたいだな」と称したかもしれない。
ただし、こちらはプレハブよりはかなり厚めの金属で出来ているし……そもそも、ここの周囲の壁も金属製である。
ドアを開けて皆で中へ入ると、内部は外から見るよりも広く、大きめのテーブルと椅子が四脚、それになぜか壁際に二段ベッドが置いてある。
そして、ヴァレリーと同じくある種のバトルスーツ姿の女性が隅に控えていて、まずローランドに深々と一礼した。
「お帰りなさいませ、ローランド様」
一度頭を上げ、今度はグラガンとヴァレリーの方を見てお辞儀する。
「それにグラガン様とお客様も」
格好の割に、ここではメイド役のような仕事に就いているらしい。
「ご丁寧に恐れ入る」
ヴァレリーが低頭したが、その返事はなかった。
あまりこの大陸では見ない、薄赤い色の髪をした女性だった。
その目立つ髪を肩口で揃えていて、ローランドを見る目つきは鋭いを通り越して殺気立っている。形のいい薄い唇も、なぜかわなわな震えていた。
なのに、不思議と彼には恭しい態度だった。
「ルティカ、コーヒーを三つお願いするよ」
ローランドが言いかけた途端、そのルティカの方に目を向けないようにしていたグラガンが、首を振った。
「いや、俺はいい。万一、ベルザーグ様がヴァレリー様と同じように空から降りて来られた場合に備え、地上で待っていないとな。お出迎えしないと、失礼だ」
「そうか……うん、それじゃ、頼むよ」
少し考え、ローランドも頷いた。
「おう。では、また後で、ヴァレリー様」
「うむ。案内して頂いて、助かった」
「いえいえ、とんでもありません」
にこやかに応じた後、グラガンは一転してローランドにわざとらしく顔をしかめて見せた。
「俺のいない間、あまりルティカを虐めるなよ? それと、お得意の毒舌にも注意しろ、ナイトウォーカー」
「虐めに毒舌? 生まれてから一度も経験ないな」
しれっとローランドが言い切る。
顔色ひとつ変えなかった。
「あー、はいはい。おまえは聖人のような品行方正な少年だとも」
振り返らずに手を振って見せ、グラガンはまた部屋の外へ出て行った。
「……あの、それでコーヒーは二つでよろしいでしょうか」
機会を窺っていたのか、相変わらず親の敵を見るような目で、ルティカとかいうメイドがローランドを睨む。
恭しい口調なのに、表情がさっぱり合っていなかった。
「いや、気が変わった。カップを四つと、コーヒーは陶器のポットに入れて持ってきてくれるかな。その方が早いだろうしね。高貴な方にお出しする菓子などがあれば」
逆にローランドの目つきは、彼にしては優しいとも言えるほどだった。
ヴァレリーは「気遣いはいらない」と言おうとしたが、ベルザーグのためでもあるので、差し出口は控えた。
「わかりました」
低頭して部屋を出かけたルティカは、しかし途中で振り向き、思い切ったように言いかけた。
「あの、謝罪しますからどうか――」
「君の罪はまだチャラには遠い」
ローランドは素っ気なく遮り、笑顔のまま手を振った。
「さあ、行って行って」
「……はいぃい」
歯軋りするような返事をして、ようやく長身のルティカが出て行く。
足が微かに震えていた。
「どうぞお掛けになってください、ヴァレリー様」
「ありがとう。ところで、彼女はなにかの罰を受けていたのかな? おそらく、侵攻してきた敵だと見たが?」
テーブルに着きつつ、ヴァレリーはさりげなく訊いた。
さすがに彼女の様子が異様過ぎるので、自分の予想を含め、訊かずにはいられなかったのだ。
「ご明察です」
ローランドはあっさりと肯定した。
「彼女は、あの飛行戦艦でこの大陸へ攻めてきた軍人ですし、それに僕のマインドコントロールを受けて、ここで強制的に働かされているところでして」
「……あえて、ああいう罰を与える理由は?」
ヴァレリーの声音には、微量の非難が交じっていたのだが……それも、ローランドの返事を聞くまでだった。
「ベルザーグ様を侮辱したのですよ、ルティカは」
「なにっ! なぜ殺さないのかっ」
席を蹴って立ち上がったヴァレリーを見て、ローランドはなぜかゆっくりと微笑した。
「貴女とは気が合いそうです」
「……うっ」
なにも、グラガンと同じことを言わなくても。
多少バツが悪くなり、ヴァレリーは椅子を引き起こして座り直した。




