ある意味、危険な者同士
西部地方の占拠は特に問題なく進むとわかり、ヴァレリーは早めにベルザーグと待ち合わせるために、海岸沿いへと飛んだ。
……別に飛ばずとも、ベルザーグから拝領した転移のアイテムがまだそのまま残っているし、バーンズに渡した分も、一回使用した限りで、彼女が取り戻している。
よってそれを使えばいいのだが、例によって「いざという時のために残しておこう」と思い、使わずにおいた。
どのみち、その気になれば音速をも超える飛行スピードが可能なヴァレリーなら、西部海岸地帯まで、さしたる時間もかからない。
事実、約束の時間より遥かに早く目標に近付いたが……その海岸地帯へ近付く前に、眼下の街道ではあちこちに警備隊の隊員が詰め、問題の場所への立ち入りを制限していた。
どうやら警備隊の面々は、逃げなかったらしい。
(王宮魔法使いのゲラニーに命じて、「今まで通りの俸給を払うし、特別手当も払うので、逃げずに残るように」と警備隊の連中に連絡しておいたが、多少は役に立ったようだな)
もっとも、これはヴァレリーの手柄ではなく、ゲラニーの信用度が役立った結果だろう。
彼は使えると思い、わざわざ招聘した甲斐があったというものだ。
(いや、違うな。これもまた、ベルザーグ様のお陰だ。あの地下の壁に『我が使徒ヴァレリーにこの書き込みのことを告げ、降伏して慈悲を請うがよい』と書き込んでくださったお陰だ。さもなくば、あいつだって招聘に応じはしなかっただろう)
信仰心厚いヴァレリーは、当然のようにベルザーグの手柄だと結論付け、密かに感謝した。
ちなみに、その書き込みがあった壁の部分は、ヴァレリーが配下に命じて丁寧に下の石材ごと削り出し、新たな西部の拠点となる西部の城へと運ばせてある。暇ができたら、自分の寝室に飾るつもりだった。
せっかく自分のことに言及してくださったのに、そのまま放置するなどのもったいないことはできない。
「それにしても、思ったより厳重な警戒が――むっ」
呟きかけたヴァレリーは、ふいに視界の中に入ってきた巨大な船を見て、眉をひそめた。
上空から見れば一目瞭然だが、周囲には魔法防壁が張られていて誰も入れないようになっている上、その防壁が不透明なので、中も覗けない。
ただ、上空まではカバーしていないので、ヴァレリーのように空を飛んでいれば、一目瞭然だった。まあ、空なんか飛べる術者は、人間にはあまりいないだろうが。
「戦艦……なのか、この三隻は? 想像以上に巨大だが」
ベルザーグの危惧を思い出し、ヴァレリーは現地へ向けてぐんぐん急降下していった。
今やこの地方も自分の領地なので、可能ならなにか手伝いたいものだが……この場所で話し合うということは、やはり遠征の件だろうか。
ならば、お手伝いさせて頂けるチャンスもあるはず!
期待しつつ降下したヴァレリーは、既にベルザーグからの連絡を受けていたというグラガンという男性に迎えられ、丁重に臨時の指揮所に案内された。
「ベルザーグ様から任命されたこの件に関する責任者は、ローランドって男なんですけどね。割と気むずかしい奴ですが、腹を立てないでやってください」
陽気そうな青年であるグラガンは、苦笑気味に教えてくれた。
「悪い奴じゃないですよ、本当は。あいつが地下牢で手柄を立てた時、俺は入り口でぼさっと立哨警備してただけなのに、『自分と同じ功績がある』と、俺のことをベルザーグ様にかけあってくださったんです。お陰で、おまけの俺まで、重用されることになっちまって」
ざっと説明してくれた後、照れくさそうに頭をかく。
「なるほど、さすがはベルザーグ様だ」
ヴァレリーは、大いに感心して頷く。
「おそらく私も、さぞかし配下の者達に、気むずかしいと思われていることだろう。腹を立てたりはしないとも」
保証した後、間違いないとは思うが、一応尋ねた。
「時に、貴公やローランド殿も、ベルザーグ様の信徒だろうな?」
ヴァレリーにとって、おおざっぱに分けて、世の中には二種類の者しかいない。
ベルザーグの信徒か、そうでないかだ。多少なりとも関わる以上、面倒でもこれは真っ先に知っておかねばならない事柄である。
その返答によっては、彼女の対応に大きな差が出るのは言うまでもない。
それこそ、他人が唖然とするほどに。
「それはもう、二人共信徒ですとも。ただし、ローランドの熱狂度は俺以上でしょう。激しい言葉は滅多に使いませんが、ベルザーグ様をあしざまに言う奴を見つけると、飛びかかりかねない奴です。崇拝なんてレベルじゃないですなー」
「ほう! それはそれはっ」
ヴァレリーが声を弾ませると、グラガンは想像以上に小さい小屋の前で立ち止まった。
「ここから地下へ入ります」




