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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第六章 創造主(父)を愛する娘達
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指輪をください!

 

 長椅子にエレナを下ろすと、この子はそのまますぐに距離を詰めて、ぴったりと身体をくっつけてくる。見かけは置いて、中身は幼女以前の赤ちゃん年齢なので、遠慮というものがない。

 キャラ設定はあくまで、外面のみの話らしい。


「おまえがいてくれてよかったが、ファニールは留守かな」

「はい。市場で果物が安い日ということで、お買い物に行ってます。いつもは私が買い物へ行くので、今日は交代していました」

「そうか……生活費は足りているかな?」


 ベルザーグがさりげなく尋ねたのには、もちろん理由がある。

 つい数日前、ファニールに十分な現金を(ステータス画面越しに)所持品に追加してあげたはずなのに、早速にして「この早朝から、果物安売りセールかい!」と思ったからだ。


「あ、ファニールちゃんは、もの凄く倹約家なので」


 エレナは自分が申し訳なさそうにした。


「私もベルザーグ様から必要以上の現金を頂きましたし、決して、お金に困ってはいないのです。でも、ファニールちゃんは『贅沢に溺れるのはよくないと思うので』と言って、元のままの生活を保っているようです」


「もしかして……おまえも倹約生活に付き合っているのかな?」 

「だいたいは。でも、たまにファニールちゃんを無理に連れ出して、美味しいものを食べにいってます。でもやっぱりファニールちゃんは、レストランでも控えめなメニューにしか頼まないんですけど」

「……ふむ」


 どうしたものかと首を傾げるベルザーグを、エレナが何か言いたそうな顔で見つめていた。


「うん? なにか言いたいことがあれば、聞くが?」


 水を向けると、少し考えた後、思い切ったように述べた。


「あの、ベルザーグ様。人は常に質素を心がけるべきなのでしょうか? ファニールちゃんは、どれほど余裕があろうと、暮らし向きは元の街に住んでいた頃と変えないつもりのようです。それに、ベルザーグ様から頂いた装備も、身に着けずに飾って拝んでいるんです」


 もの凄く言いにくそうに言う。


「告げ口みたいでいやですけど、装備は付けておいた方がいいと思うんです」

「いや、そりゃそうだよ!」


 ベルザーグは心から賛同した。

 特に、見かけは薄い金属製の純白ヘアバンドに似せた「パーフェクトリフレクション」は、魔法攻撃無効の超強力アイテムだが、飾って拝んでもなんの意味もない。

 それに、即死回避の「リザレクションリング」は、それこそ身に着けてなければ、宝の持ち腐れである。


 エレナにそんな説明はいらないだろうが、一応ベルザーグはそう教えてやり、ファニールに伝えるように頼んだ。


「よかった……ベルザーグ様のお言葉なら、きっとファニールちゃんも聞いてくれると思います」


 胸に手を当てて、心底ほっとしたように微笑する。

 黙っているとキツそうに見えるのに、実は性根も優しい子だった。


「もしかするとファニールは、普段から昔同様の地味な服装かな?」

「……ベルザーグ様にお会いできればと、二人でハイランダーへ赴く時は、ファニールちゃんも少しおめかしします」

「少しかぁ」


 しばらく考え、ベルザーグは心配そうなエレナの頭を撫でてやった。


「わかった。それも今度会った時に、私からちゃんと言っておこう。女の子――いや、別に男も同じだが、特に女の子が自分のために着飾ったりお洒落したりするのは、罪でもなければ贅沢でもない。余裕が無いなら無いなりにすべきだし、逆に余裕があるなら盛大にそうすべきだ。自分を変えたいなら、内面より先に服装からだな」


 己の持論ではあるが、ベルザーグがきっぱり言い切る。


 いや、そういう自分は、リアルワールドにいた頃には着替える時間すらろくになく、家ではジャージ1択だが。

 返事がないので横を見ると、なぜかファニールは、メモ帳みたいな帳面にせっせとメモしていた。


 うわぁと思ってドン引きしかけたが、考えてみれば「この子達にとって」自分は創造主であり、紛れもない神様なのである。神様同然とか神に匹敵するとか、そういうあやふやなものではなく、マジで神様にあたるわけだ。

 ベルザーグの中の人である一郎だって、神が降臨してなにか教えてくれたら、忘れないようにメモくらいするかもしれない。


(俺の立場、ヤバすぎだろ! 神様は勘違いやら間違いなんか、絶対にやらかさないからな。これはもう、『今は生身だから、いろいろと不自由があってテヘペロっ』という切り札的言い訳を、随所にちりばめるしかないなっ)


 情けない話だが、ベルザーグは密かに強く決意した。


 しかし、あまりにも頻繁にその切り札を切りすぎると、今度は『この人なに? 生身だと全然駄目なのねっ。頼りにならなくてゲンメツしたわっ」とか思われそうな気もするのだが。

 ……なんてことを考えていると、メモを終えたエレナが、いつの間にかきらきら光る眼差しでベルザーグを一心に見つめている。


 もう瞳の輝きからして、内心で『今日は一つ、この世の真理を教えて頂きました。さすがはっ』などと思っているのが見え見えである。

 困惑したベルザーグは、これ以上危険な質問が来ないうちに、ささっと話題を変えた。


「ところで、ファニールにいろいろあげたのに、おまえになにもナシというつもりはない。今日はそれもあって来たんだ」


 今思いついたばかりなのに、堂々と告げてやった。


「なにか欲しいものはあるかな? ちなみにっ」


 慌てて口を開いたエレナに、先に釘を刺す。


「遠慮はナシだ。とにかく希望を言いなさい」


 きっぱりと言われ、エレナは嬉しいような申し訳ないような、実に複雑な表情を見せてから、俯いてしまった。

 ベルザーグが黙って待っていると、かなり経ってから顔を上げ、決然と言う。


「で、ではっ。ゆ、指輪――は、駄目でしょうかっ」


 エレナの顔を見て、ベルザーグは大いに困惑した。

 なんだ、この真剣勝負的な表情?


 なぜ希望が指輪なのか、小一時間ほど説明してほしいような、とんでもなく思い詰めた表情だった。 



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