創造主の担当外!
そんな国――兵力を十万も送り込むような外敵がいるのなら、今の一郎が絶対に知っているはずだ。デザイナーなのだからっ。
しかも、ヴィオランディス大陸以外にも大陸は点在すると言いつつ、そちらはまだまだ、未設定が多い。
現状「蛮族の闊歩する地」として、棚上げしている状態なのだ。
「誰だよ、誰がそんな国、設定した!?」
そもそも……その大陸北部近くに今いるのは、再起を誓う魔族達の軍勢のはずだっ。
そこにもお気に入りキャラがいるというのに、勝手にゲーム前に戦ってもらっては困る。
続々と南下していくプレートアーマー姿の軍勢を見やり、一郎は密かに歯軋りした。
「よし、出現理由はさっぱりわからんが、とにかく君達には死んでもらうっ」
サクッと決断し、メインストリートで三名ほど消したのと同じ要領で、今度は十万の軍勢をまとめて範囲指定する。
如何に十万いようが、マップの縮尺を変えてマウスで一気に指定するだけだから、問題などない。
無事に範囲して後、一郎は極悪な笑いを浮かべて呟いた。
「悪いな、諸君。ここは俺が創造した世界だ。自儘な真似は許さん!」
号令と同時に、一気にマウス右クリックで出たメニュー「消去」を選択!
「よしっ……て、あれっ」
軍勢は……なぜか、消えていない……今も元気に南下中である。夜だというのに、松明の明かりを頼りにっ。
「き、消えないってどういうことだよっ。右クリックからメニューで消去を選べば終わりのはずだろっ」
もう一度同じことを繰り返したが、やはり鎧集団はしれっと移動を続けている。
しかも、今度は記憶にない、赤い文字の警告まで出た。
■警告!■
クレアデス共和国軍は、ヴィオランディス世界を故郷とする軍勢ではなく、外の世界からこの大陸に来た軍勢です。
貴方が創造して命を与えた者達ではないので、自在に消すことはできません。
目障りだと思った場合、戦って殺すか、和平を考えてください。
――以上。
「な、なんだってぇえええ」
一郎は、おそらくその赤字の警告を、優に二分は眺めていたはずだ。
真面目な話、漫画に出てくるキバヤシの突っ込みなど、問題にならないくらい衝撃を受けた。
この世界全てをデザインした一郎は、当然ながら、ほとんどの警告文やメッセージを熟知している……はずだ。
それはまあ、他の社員が分担して作成した文章もあるだろうが、それだって、最終的には一郎がチェックしている。
なのに、こんな奇妙な警告文、一郎は全く知らない!
見たこともないと断言できる。
「ど、どういうことだ……外の世界ってどこだよ……」
世界を守る創造主にしては、我ながら気弱な声が出た。
しかし、頭を抱えている場合ではない。
この大陸北部の位置から見て、もっともこの軍勢にぶち当たる可能性が高いのは、かつて人類に敗北して今は再起を狙っている、魔族の軍勢である。
当代の魔王は、ヴァレリー・クリフォードといって、これまた一郎自身が特に念入りにキャラデザインした女性だ。
十年前からこっち、雌伏する魔族の王として君臨している。
「そうだ、ヴァレリーなら既に気付いてるんじゃないか。というか、万一まだ気付いてないなら、俺が警告してやらないとな」
……この時一郎は、もう少しよく考えるべきだったかもしれない。
確かに今、モニターの中では、謎の軍勢の侵略が行われようとしている。
しかし、敬虔なベルザーグ教団の信徒(一人だが)であるファニールは、既に戦の噂があるようなことを述べていた。
つまり、ファニールが噂として認識している不吉な戦と、今一郎が目の前で見ている謎の軍勢は、また別物だということだ。
しかし、この時の一郎は、そこまで考えが至らなかった。
愛着のあるキャラに、警告をすることで頭がいっぱいだったからだ。
記憶にある旧魔族達の残党は、大陸北部の大峡谷にある地下の入り口から下りた場所にある。マップを問題の場所までスクロールし、大峡谷に存在する秘密の入り口から、地下の大空洞へと視点を移した。
すると、目指す女性は、既に魔族達を集め、演説の真っ最中だった。




