お父様大好き少女
一夜明けた本日も、ベルザーグは予定が満載だった。
ヴァレリーとの話し合いもあるが、まずはようやく神官ファニールの元へ出掛けるつもりである。なにしろ、創造神として話しかけてから、まだ一度もちゃんと対面していないのだから。
本来はダイレクトコールで呼び出して面会の約束を取り付けるつもりだったが、なんとなくそれはしないで同じ帝都内の仮教会へと向かった。
……歩きながらも、ベルザーグはさりげなく帝都の住民達の反応を窺っている。
帝都が占領された翌日の朝なのだから、さすがに皆の反応を心配したためだが……しかし、予想よりはかなりマシだった。
皇帝デニケンが暗愚だというのは、この帝都では子供でも知っているせいか、店先などで住民がかわす話題は、「果たして、住民には手を出さないという魔王の約束は、最後まで履行されるだろうか」という点に集中していた。
しかし、昨晩ベルザーグがヴァレリーに頼んでおいた通り、中央広場に立てた立て札の「魔族は基本的に帝都へは立ち入らず、住民達の生活を乱すことはしない。政務は代理の者が既に城内にいるので、住民は普段と変わりない生活を送るように」という文章を大勢が見つけ、かなり安堵感が広がっているようだ。
もちろん、まだ完全に信頼されたわけではないだろうが、そもそも「帝国西部地方を魔族から奪ったのは人間側である」という過去の歴史も、住民の中の識者が大勢指摘し始めている。
よって、今のところ住民の多くは「不安に思いつつも、まずは様子見」という感じらしい。
(それでいいさ。何事もなければ、自然と慣れるだろう)
それに、帝国を治める新たなリーダー達は、なんといってもベルザーグの信徒達なので、女漁りの貴族がまかり通っていた以前よりは、百倍も増しである。
内心でベルザーグがそう結論付けたところで、ファニールに与えた仮教会が見えてきた。
帝都のメインストリートとはいかないが、そこから一本裏道に入っただけなので、まずまずの場所にある。
見かけはゴシック調の石造りであり、中はいきなり吹き抜けの聖堂となっている。
そこに多数の長椅子を左右に整然と配置してあり、中央は壇上へ向かう通路となっている。そして聖堂の奥は、ファニールやエレナの個人的住居として使われている――はずだ。
木製の重厚な両開きドアは閉まっていたが、試しにノックすると、中からエレナの声で「はい、開いてますよ」と冷静な返事が聞こえた。
(お、少なくともエレナはいるな。よかったよかった)
ベルザーグはほっとしてドアを開けた。
エレナは相変わらずメイド服着用で、呆れるほど広い聖堂内を一人で掃除していた。
しかし、ベルザーグが入ってきたのを見ると、ぱっと顔を輝かせ、モップなどはそこらにうっちゃって、小走りに駆けてきた。
喜色満面であり、いつも冷静沈着に見えるこの子としては、珍しい高揚ぶりだ。
(私の信徒は、だいたいみんな私を敬ってくれるが、この子も例外ではないらしい。有り難いことだ)
というか、ベルザーグが愛情を注ぐ子は、ほぼ間違いなく向こうも好いてくれているらしい。逆に言うと、自動生成プログラムで作成したようなキャラは、「ベルザーグって誰だっけ?」程度の感慨しかないらしい。
まあ、お互い様なので別に腹も立たないが。
「私の創造主様っ。お久しゅうございます!」
「いやいや、まだ数日ぶりくらいだろう」
ベルザーグは苦笑し、寸前で止まってもじもじするエレナに、自ら両手を広げた。「俺、調子に乗ってる!」と思わないでもないが、幸い、「多分、抱いてほしいのだろう」と思った予想は当たっていた。
手を広げた途端、潤んだ瞳で飛び込んできたからだ。
「我が大君、創造主様っ」
情熱的に抱き締め返されるところは、あのシャロンの積極性を思わせるが……この子のキャラ設定はかなり控えめな性格だったはず。
自分の親も同然の相手故の、例外だろう。
「うん、苦労かけたな……ていうか、ベルザーグでいいぞ」
「ありがとうございます!」
長い黒髪をポニーテールにまとめた、女武者のような美貌を持つエレナだが、今こちらを見上げる顔は歓喜に輝いている。
この子を創造してよかった! と思う瞬間である。
十五歳という設定年齢であり、知識量も半端ない設定なのだが……それでも、生まれてまだ数日という事実は変わらない。
ベルザーグも、ヴァレリーやシャロンと抱き合うよりは、遥かに気安く抱き締めることが出来た。
ついでにさらに調子に乗り、「ちょっと話を聞かせてくれるかな」と持ちかけ、軽々と抱き上げて、近くの長椅子に運んだ。
エレナは一瞬、「まあ!」と驚いた声を上げたが、すぐに赤くなった顔をベルザーグの胸で隠すようにした。
(か、可愛い! 戦闘経験値はほぼ皆無とはいえ、マルチプレックス【職種複数選択】スキル付きで、レベル85という実力者なのに、なんだこの可愛い生き物っ)
なんとなく、赤ちゃんを抱いているというより、「お父様大好き!」と臆面もなく叫ぶ、幼女を抱いているような感じである。
ちなみに、当初の役割として考えていた「ファニールの護衛」という仕事は変更して、今はベルザーグが召喚した魔獣を護衛に当てている。
シャドウガーディアンというレベル70クラスの魔獣で、護衛する対象の影に潜んでどこまでもついてくる。
人間と違って飽きるということがないし、夜眠る必要もない。
護衛としてはまず信頼できる者達を、三匹も付ければ上等だろう。




