泊まっていってもいいですか
「全く……しょうがない子だ」
ベルザーグは苦笑してそばの椅子に腰掛け……そのままの流れでさりげなく尋ねた。
「ところで、説明が必要かな?」
「いえっ」
シャロンの返事は早かった。
というか、早すぎた。おそらくは肉体ではなく、精神的なダメージがあったと見るべきだろう。今のお茶目さも、その裏返しかもしれない。
「そうか」
しかしベルザーグは、あえて素直に頷く。
「全ては私の説明不足が原因だ。おまえにもあの子にも責任はないんだ」
そう前置きして、ややこしい三者支配のやり方を説明しておいた。
ベッドに上半身を起こしたシャロンは、一応は聞いているようだったが、時折悔しそうな表情がちらつく。
ベルザーグが話し終えると、まず真っ先に宣言したほどだ。
「あいつ――いえ、あの人が同じ信徒だというのはわかりました。でもわたくし、ただ落ち込んでいるだけじゃないんですよ」
深呼吸するように息を吸い込み、ベルザーグを見つめる。
その時にはもう、いつもの覇気のあるブレイブハートの表情になっていた。
「ベルザーグ様はもちろん例外として……彼女は、わたくしが初めて出会った強敵です! むしろわたくし、今はわくわくしてきました。だって今宵までのわたくしは、『ひょっとして、この世界にはもう、我が敵はいないんでしょうか!』なんて、心配していましたものっ。そうじゃないとわかり、励みになりますわ!」
「いや、実力を競うのはともかく、あの子は敵じゃないからな?」
ベルザーグが念を押すと、なぜかシャロンは拗ねたように横目で見た。
「創造主様が『あの子』と言われるのは当然ですけど、なんだかちょっと妬けます」
「いや、そう言われても」
俺にどうしろと?
困惑するクレームだが、ベルザーグとしては多少嬉しくもあるのが、複雑なところである。我が子同然のキャラに恋愛感情は持ち込むまいと思っているのだが、あいにく神ならぬ一郎の部分が、邪魔をするらしい。
(なにしろ、魅力的な子だからな……)
世界を救う運命を持ったブレイブハートなのだから、それも当然だが。
「――でも!」
とふいにまたシャロンが声を上げる。
「なにかな?」
「わたくしだって、ベルザーグ様の娘ですわよね?」
「もちろん!」
「では、大きな壁にぶつかり、本音を言えば半分は落ち込んでいるわたくしを……いえ、貴方様の娘を慰めてくださいまし」
「お安いご用だ」
「きゃっ」
ベルザーグは微笑すると、その場で軽々とシャロンを抱き上げ、自分の膝の上で抱きかかえてやった。
普通ならしなかったろうが、先にエロゲーのエロイベントみたいなシーンを経ているので、割合簡単に手を出せた。
もちろん、小さい悲鳴を上げたものの、シャロンに否やはない。
すぐに自ら胸に顔を寄せ、嬉しそうに笑い声を上げた。
「うふふふふふっ」
「持ち重りがする……育ったなあ」
しみじみとした声が出た。
我ながら、どこの酔っ払い親父だよっと思わないでもないが、実際、この子がゲームのNPCだった時は、もっと幼い印象を受けたのだから、仕方ない。
だいたい、持ち重り以前に二次元だったし。
というわけで、お互いに満面の笑みで抱き合っていると、少し間を置き、シャロンが見上げた。
(近い、近いぞっ)
腰の上に横抱きにしているのだから当たり前なのだが、ベルザーグが仰け反りそうになる距離感だった。
「今夜……泊まっていってもいいですか?」
おまけに、彼女らしくもなく、消え入りそうな声で尋ねる。
なんとなく、「ただ泊まりたい」というだけではないような気がした。
宿泊のためのみなら、こんな声を出す子ではない。
「いやぁ……今のおまえの場合、まずい気がするな」
「まあ! 身分の違いが大きいとはいえ、父と娘ではないですかっ」
高山の天気かと思うほど、あっという間にシャロンが膨れる。
膨れるというか、こういう場合、この子はいつも拗ねたような眼差しで見るのだが、今宵はまた格別だった。
「そうだが、今の私は生身だし、おまえは本当に魅力的だ。間違いがあってはいけないから、帰りなさい」
ベルザーグが思わず本音を洩らすと、一瞬、シャロンは口元に手をやり、碧眼をきらっと輝かせた……ように見えた。




