神すら関知しない、謎の軍勢
ちなみにパーフェクトリフクレションは、見た目は純白の髪留めであり、いわばヘアバンドにしか過ぎない。
しかし、れっきとしたマジックアイテムである。
受けた魔法攻撃を無効化しつつ、逆にそのエネルギーをMPに転換して補給してしまう、強力アイテムなのだ。
世界に千個もないと言われる、それぞれナンバリングされた上級アイテムの一つだ。
さらに大盤振る舞いして、そんなアイテムをもう一つ。
銀色に輝くブレスレット、「リザレクションリング」も装着させてやった。
これは、ファニールのHPがゼロになったその瞬間、フルステータスで回復し、死んだ現場から離れた場所でこそっと蘇るという、優れもの。
効果は一度だけだが、死が回避できるのは大きい。
「ええいっ。さらに、インビジブルマントもつけてやるぜっ」
金貨五百枚は積む必要がある、透明化の装備も所持品に放り込んでやった。
あとは、所持金を大幅に増やし、彼女が日記代わりにしているらしいノートに、与えたアイテムとその効果を書いておいてやる。
ついでに「このノートに伝言を書けば、私が必要に応じて声をかけてやろう」とも書いた。
そこまでして、ようやく一郎は再び時間を動かし、視点を屋内から外に移した。
すると上手い具合に、例の下品なレイプ未遂野郎二人が、ファニールの家に押し入る寸前だった。
当然、一郎が言い含めた通り、こっそり接近していた警備隊員の若者達が、そいつらを取り押さえてくれた。
わざわざ警備隊の詰め所で「我が信徒を、賊が狙っている。おまえたちはさっさとここへ向かえ」と、一郎がガンガン喚いてやったのが功を奏したらしい。
「遠回しに見張って、現行犯で押さえるのだっ」とも忠告したが、守られたようだ。
狐につままれたような顔をしている警備隊員の一人が、ファニール宅のドアをノックしようとするのを見て、一郎はほっと息を吐いた。
とにかく、これで彼女を救うことはできた。
あとは、警備隊の隊員を通して、今回の事件が広まったりすると、一郎としては万々歳なのだが、それは少し様子を見ねばわかるまい。
食事をした後で、念のためにファニールの無事をきちんと確かめようと、彼女の自宅内に視点を移すと、なんと彼女は与えられたアイテムをきちんと装備したまま、例の土間に跪いて祈りを捧げている最中だった。
これがもし一郎なら、「この調子なら、俺は神様から一億くらい引き出せるかもな!」と真っ黒いことを考えそうだったが、この子は本当にとことん真面目だった。
というか、神様一途と言うべきだろう。
感謝の祈りを捧げるその神々しいまでの姿を見ていると、なんと頬に涙がひっきりなしに伝っている。
唖然とするほどピュアな子である。
まあ、むしろ一郎の方が、現代人かぶれしすぎなのかもだが。
ともあれ、一郎はてきめんに居心地が悪くなり、覗き見――ではなく、現状確認を中止した。
しかし、ファニールの姿を見た一郎が、俄然やる気を出したのは事実である。
(よし、ひとまず国内の状況確認を終えてから、貴重な信者のために、とことんバックアップしてやるぜ。ジャンヌ・ダルクの二の舞は踏ません!)
歴史上の、そして悲劇のヒロインキャラに思いを巡らせ、一郎は決意を新たにした。
実は既に一つ、気になることがある。
このファニールは確か、配っていた自家製チラシの中で、「今各地から聞こえてくる戦乱の悲報は~」的なことを書いていた。
しかし……言ってはなんだが、この段階……つまり、帝国歴1001年春の現時点では、剣と魔法が全盛のヴィオランディス大陸において、戦はまだ起こっていないはずなのだ。
ただ、ゲーム内時間で今から半年もすれば、大戦の兆しは起きる。
魔法全盛の帝国軍と、剣技と第八時代の遺棄兵器、それに召喚術を使って戦うカルランデス王国とが、戦端を開く。
さらにそこへ、かつて敗北した魔族達が加わる感じだ。
だから一郎も、今はその大きな流れに沿うようにシナリオを作り、プレイヤーがそれぞれの陣営で遊べるように工夫していたのだが――。
「さすがに聞き捨てならないんで、ちょっと調べるか? やたらめったら広いマップなんで、めんどくさいけど……まあ、フルダイブして現地調査するほどじゃあるまい」
独白しつつ、一郎は画面の中の広大なマップをチェックしていく。
正直、大陸はここだけではないし、始まりの街ランデルグがあるこの大陸だって、広さはオーストラリア大陸の二倍はある。
戦乱が起きている印である、十字に重なった剣マークを見つけるだけでも、かなりめんどくさいことではある――
「て、おいおいっ」
一郎は一際赤く、そして巨大に輝く剣十字のマークを見て、思わず声を上げてしまった。
場所は大陸の北端! リアス式海岸みたいにギザギザの岸辺がある近くの草原に、黒い軍勢の印がある。
慌ててクリックして見れば「クレアデス共和国軍」とある。
「ちょ、ちょっと待てえ!」
その国名と、軍勢の数が十万近いと知った時、一郎は比喩ではなく震えた。
「クレアデス共和国なんて、俺は設定してないぞっ」
叫び声を上げてしまったが、あいにく、応える者はいない。




