虫けらのように死ね!
こいつは、なぜかヴァレリーではなく、その後ろのバーンズを見つつ口上を述べた。
バーンズ本人はあからさまに顔をしかめ、そしてヴァレリーはじろじろと彼らを見た挙げ句、不審な面持ちを見せた。
「……一つ尋ねたいが?」
「聞こうではないか」
大物騎士ぶりをアピールするように鷹揚に頷く相手に、ヴァレリーは直球で訊く。
「おまえ達はどう見てもそこまで強いとは思えぬが、騎士の中では身分が高いのか? だとすれば、帝国の軍制とは、呆れ果てたものだな」
静かな口調ではあるが、内容は辛辣である。
大物ぶっていた先頭の騎士は絶句していたし、あとの二人は憤怒の表情を浮かべていた。
「戦う前からなにを言うかっ。我々は帝国騎士団の上級騎士であり、それぞれが光と風と空を司る部隊を率いる者達だぞっ」
「……なるほど、帝国三騎士というやつだな」
ヴァレリーとて、敵の情報はそれなりに掴んでいる。
こいつらの口上が本当なら、彼らは確かに帝国騎士の中でも、最も精強とされる三人だろう。実際に目の前で見て、ヴァレリーはいたくがっかりしたが。
「信じはすまいが」
それでも一応、哀れになってチャンスをやることにした。
「私はそばで見れば、だいたい本当の強者かそうでないかくらいは判別がつく。そして、おまえ達は私から見れば、弱者だ! というか、ハイラ――いや、帝都のギルドでは、私が注目せざるを得ない戦士がちらほらいたのに、なぜ肝心のここに、こんなのしかいないのだっ」
しまいには腹が立ってきて言葉がキツくなってしまった。
黙って聞いていたバーンズが、「やはり、あのギルドへ行かれてましたな?」などと口を挟みむ。
思わぬところからハイランダー行きがバレてしまい、そのことにもむっとした。
「とにかくっ」
ヴァレリーはバーンズを無視して語気を強めた。
「今なら見逃してやる! おまえ達は先の弓兵達の運命を見ていなかったようだから、あえて生きるチャンスをやると言うんだっ。己が無力な弱卒であると自覚し、黙って私の前から消えろっ」
口調の割には、ヴァレリーなりの親切だったのだが、あいにく彼ら三名には通じなかった。そもそも自分達を「無力な弱卒」と言われて、腸が煮えくりかえっていた。
それに彼らは、実はヴァレリーの背後の大男、つまりバーンズを魔王だと勘違いしており、『従者の女ごときがなにをっ』と憤然とした。
結果、最初に口上を述べた先頭の男を含め、三名揃っていきなり斬りかかってきた。
「下賤な女ごときがあっ」
「誰にものを言ってるつもりか!」
「剣の穢れではあるが、斬り捨てるっ」
対するヴァレリーは侮蔑の表情で一言吐き捨てた。
「ふん? 自分の運命を選択したか」
次の瞬間――ヴァレリーの姿がその場から消え、ほとんどの疾風のごとき勢いで先頭の男とすれ違った。
「――っ! なっ」
脇を走り抜けた時には、男の剣を持った右腕が宙に飛び、鮮血が噴水のように吹き上げた。
「うっ」
「馬鹿なっ」
続く二人が驚いたように足を止めようとしたが、その時には獲物に飛びかかる獅子のように、ヴァレリーが間合いに突入していた。
「愚か者! 戦いの最中にどこを見ているかっ」
叱声と共に刀が鮮やかに一閃し、銀の軌跡を虚空に刻む。
一人目の首が飛び、二人目が慌てて剣を構えようとした時には、もうヴァレリーの刀が胸部のブレスアーマーごと、そいつの心臓を貫いていた。
素早く刀を引き抜き、確かめもせずにヴァレリーが踵を返すと、二人の騎士は斬られた順番通りにそれぞれ芝生の上に倒れていく。
確認するまでもなく、二人揃ってもう絶命していた。
「ぐあああああっ」
ただし、口上を述べた一人目だけは、まだ腕が飛んだ部分を押さえて転げ回っていたが、ヴァレリーはそいつの横に立ち、背中に足を乗せて固定してしまう。
その上で、冷えた口調で宣告した。
「あえて最初に腕だけ飛ばしたのは、仲間まで道連れにして死に追いやった、貴様の愚かさの報いだ。……しかし、安心しろ。必要以上の苦痛を与える気はない。自分で宣言した通り、虫けらのように死ぬがいい!」
語り終えた後、ヴァレリーは無造作に背中から刀を突き刺す。
正確に心臓を貫かれ、彼もその場で絶命し、静かになった。
「あっ」
刀を抜いた後、ヴァレリーは目を瞬く。
「……三人揃って、名前を聞くのを忘れたな」
すぐに、まあいいかと思った。
自分が名前を覚えるような値打ちは、全くなかったのだから。




