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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第五章 ベルザーグ、既存シナリオを破棄する
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降伏か、死か?


 一方、最初に戦った……というか、一方的に倒したのが、ほとんど木偶でくの集団も同然ということに不機嫌になったヴァレリーは、今もことさらゆっくり歩みを進め、王宮へと向かっている。


 この芝生敷の中庭を抜け、王宮の入り口に至るまであと二百メートル程度しかないが、もしも皇帝が脱出するような気配があれば、即座に襲い掛かるつもりである。


 もちろん、そのための魔法探知も継続中だが――





「とはいえ、なんらかの手段でこそっと姑息に逃げられると困るからな。今からもう警戒しておくか」

 

 言下に、ヴァレリーは片手をあてて魔力を集中し、ぼそりとコマンドワードを口にし、魔法を行使した。


「ダブルマジックシールド、リバース!」


 瞬時に、七階建ての白亜の王宮を含む、周囲一帯をすっぽりと巨大な魔法防壁が覆ってしまった。

 しかも、通常とは違い、防御面を内側にして。


「……入るのは自在ですが、出ることは不可能なわけですな」


 人間より遙かに目立つ大口を皮肉に歪め、バーンズが半透明の輝く防壁を見た。


「普通とは逆ですが、陛下の希望はかないますか」

「そうだ、私に挑む気のある戦士は、幾らでも入ってきて構わない。しかし――逃げるのは許さない。だいたい、皇帝の首は是が非でも獲るからな」


 ヴァレリーは、ことさら大声で言ってのけた。


 実質的にたった一人で戦っている者のセリフとも思えないが、しかしバーンズはますます赤ら顔がニヤけてしまう。

 ただし、周囲で呆然と囲む兵士達は、誰も笑うどころではない。

 それどころか、今のを聞いていた兵士達が口々に絶望の呻きを洩らし、我先にと武器を放り出して走り出す。


 あっという間にヴァレリー達の周囲が、ぽっかりと空白地帯になった。





「ちくしょうっ、なぜ俺は、なぜ俺はあああっ! もっと早く逃げればよかったっ」

「全くだっ。後で叱責を受けたら困るから形だけでもとか、姑息なことを考えたせいでっ」

「あああああっ、せめて嫁を抱いてから、今晩の当直に来ればよかった!」


「……だから、逃げるのは無理だと言ってるだろうがっ。わざわざ聞こえるように言ってやったのに」


 うんざりしたヴァレリーの言い分も無理はなく、マジックシールドの防壁まで駆けた連中は、全てその先へ行くことができず、狂ったように防壁を蹴ったり叩いたりしている。


 無論、その調子で百年続けても、ヴァレリーのシールドは破れはしないのだが。


「失礼な連中だ。別に私は、弱い者虐めが好きなわけじゃない。向かってこないのなら、なにもするものかっ」


 ぶつぶつ文句を言ったものの、あいにく声が小さかったので、相変わらず逃げ惑う者は減らなかった。


「しかし陛下、ご覧下さい。向かって来る者もいますぞっ」

「……む、確かに!」


 とことん不機嫌になっていたヴァレリーの声音が、ようやくやや回復した。

 見れば、王宮の方角から、彼女を上回る身長の偉丈夫いじょうふ達が、三名ほどこちらへ来るところだった。


 金髪碧眼というこの国の貴族の特徴を備えているが、腰に装着した白鞘の剣にはそれぞれ上等な飾りが付いているし、柄も非常に凝ったものだ。


 軽装の鎧にも、全員、家紋のような紋章がついていた。




「ほう? 騎士か。しかも三人だけとは、期待させるではないか」


 ヴァレリーは目を細めて笑い、右手を虚空へ突き入れ、マジックボックスから一振りの刀を掴み出した。

 彼らと対照的に、黒鞘に黒い柄であり、刀身部分はかなりの長さがある。ヴァレリーがすらりと鞘を払って抜くと、薄闇の中でさえ銀色の刃がぎらりと光った。


「前のバスターソードから、刀に変えたのですか?」

「うん。創造主様が私に贈ってくださったからな」


 この時ばかりは、ヴァレリーの声が弾んだ。


めいはノーブルソウル(気高き魂)というそうな……めいそのものが、この私のことだとあの方は仰ってくれた」

「ふあ!?」


 夢見る少女のような、うっとりとした主君の微笑を見て、バーンズが驚いたような声を上げた。

 たちまちかき消したように笑みが吹っ飛び、ヴァレリーがじろりと彼を睨む。



「……なんだ、その『いやいやっ! ないわー、さすがにそれはないわーっ』的な顔付きは? おまえ、魔獣の餌になりたいの?」



「いえいえっ、違います違いますっ」


 焦った顔でバーンズが両手を振りまくる。


「単純に、陛下の笑顔に心奪われただけ――」



「侵略者の魔族どもよっ」



 内輪もめしているうちに接近していた三名のうち、一番長身の男が声をかけた。


「二人のみで来た勇気に免じ、おまえ達自身に選ばせてやろう。名誉ある降伏か? それとも、虫けらのように殺される方を望むか?」


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