早く不死の騎士達をっ
「む……いかん」
ヴァレリーはとっさに額に手を当てた。
同時に、どっと自己嫌悪に陥ってしまう。
「腹立ち紛れに、滅多に使わない攻撃特化のオーバースキルを使ってしまったな……蟻を剣で殺すようなものだ。大人げないことをした」
「まあしかし、陛下の慈悲を無視して攻撃してきたのですから、やむを得ますまい」
殊勝な言い方の割に、バーンズの声は、ヴァレリーと違ってうきうきと弾んでいる。
「時に、私はまだあの不思議な力を拝見するのは二度目なのですが……差し支えなければ、どのようなオーバースキルなのか、教えて頂けますかな?」
「なにを嬉しそうに訊く?」
なんだこいつと思いつつも、隠すほどでもないので、ヴァレリーはぶすっと教えてやった。
「さっきのは、PKという。自分の思念に応じて自在に不可視の力を操ることができる、攻撃特化のオーバースキルだ。魔法と違い、発動時間にタイムラグもなく、汎用性が極めて高いのが、最大の特徴だろう。この前、打ち合わせに来られたグレイアード殿との雑談で、初めてこのPKが、『サイコキネシス』という名称の略だと知ったわ」
「寡聞にして聞いたことがないスキルですが、凄まじいものですな!」
バーンズは、満更追従でもなさそうに笑み崩れる。
「私も、自分以外に持っている戦士を見たことがない」
ヴァレリーも素直に頷く。
「何年か前、創造主様にこのオーバースキルを授かった時は、せいぜい小石一つを動かすのが精一杯だったが……修練のお陰か、ようやくまともに扱えるようになってきた気がする」
「はっはっは! まともにどころか、そのPKでもう決着もつきそうですなっ」
「なぜ、いきなり上機嫌なんだ? だいたい、やりすぎたと今言ったはずだぞ!」
ヴァレリーは言い返したが、実はバーンズの心中は至極単純である。
自分が魔族であることに誇りを持つ彼は、ただ主君の強さを見て、ひたすら感激していたのだった。
『ぐははっ、やはりこうでなくてはな! 強い、強すぎるっ。我らを率いる魔王陛下は、やはり桁外れの強さっ。くぅうううう、さすがは創造主様に期待されるだけのことはある。うむ、うむ!』
――などと、内心では小躍りする勢いであり、大喜びだった。
そもそも軍の副官の地位にあるくらいだし、彼もまた、他のたいがいの魔族戦士同様、戦は血湧き肉躍る方である。
まあ今回の場合は、単純に主君の強さを見て楽しむ他ないが。
「PKの使用は控えるにしても、この調子で、ぜひこの忌々しい城を蹂躙してください!」
「おまえが鼻息を荒くしてどうする……」
ヴァレリーは、眉根を寄せて言い返した。
「それに――王宮へ侵入するまでには、さすがにもう少しなにか出てくるだろうっ。出てくるに決まっている、いや、きっと出てくるはずだ!!」
その声音は、あたかも願望を口にするかのようだった。
自分達が今まで大敵としていた連中が、ここまでモロいと思いたくない。
「仮にも、大陸最大面積を誇る帝国の中枢だぞっ。あんなので終わりはない。今からだ、今からが本番だっ」
自らの言葉を信じ、ヴァレリーはことさらゆっくりと中庭を進んでいく。
……ちなみに、駆けつけてきた城内の兵士達は、槍やら剣やらを向けたまま、ガクガクと震えて遠巻きに囲んでいるだけである。
もはや挑もうとする者さえ皆無だった。
加えてさっきのを見たせいで、増援で来た弓兵は、到着後十秒で逃げた。
「い、今のはいくらなんでも、普通の魔法じゃないよなあ?」
ひそひそと兵士達が囁く。
「攻撃時に発動のコマンドワードとか、さっぱりなかったぞ? なんというイカサマ魔法っ」
「さっき、オーバースキルがどうのとか、PKがどうのとか話してるのが微かに聞こえたが、それってどんなものか、誰か知ってるか?」
「騎士見習い以下の俺に、そんなこと訊かれてもな……」
ざわつくだけであり、斬りかかる剛の者は皆無だった。
剣と魔法が全盛の国で、いきなりマナに寄らない超能力系の力など見せられては、それも無理はないが。
その頃、ヴィルゲリア帝国の王宮魔法使いの地位にあるゲラニーは、ローブ姿のままで王宮内の地下階段を駆け下りていた。
まだ五十代にして、すでに二十年も今の地位にある彼だが、その栄光の歴史の中で、これほどの危機を迎えたことはない。
確かに、夜中に叩き起こされた時には、不安を覚えはした。
なにしろ、かつて魔族がこのエグランデル城へ攻め寄せてきたのは遙か昔のことだし、当時はまだ、先代の王宮魔法使いの時代だったのだ。
ただ、帝国――いや、このエグランデル城が持つ二つの切り札のお陰で、最終的には快勝を得たと聞いている。
だから不安ではあるが、とりあえずは『そもそも、この城へ侵入することが叶うまいさ。となれば、後は帝都の被害をどこまで抑えるかが勝負となろう』的な、悪い意味で余裕ぶっこいたことを考えていたのである。
実際は、そんな甘いものではなかったが。
さすがの皇帝も、今頃は誰かに起こされているか、あるいは女から無理に引き離されているはずだが……なぜか今に至るも、一向に命令がこない。
お陰で、実質的に防戦指揮を執るのは、将軍より上の立場である、ゲラニーの役割となってしまっている!
ともかく、既に敵に侵入された現状では、急がねば本当に危ないっ。
「時間稼ぎの手は打った!」
荒い息の下から声を絞り出す。
「あとは、インモータルナイト(不死身の騎士)だ! 奴らさえ起動させれば、今からでも逆転できるっ。見ておれ、魔族どもめっ」
独白しつつ、ゲラニーは慌ただしく石段を駆け下りていった。




