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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第五章 ベルザーグ、既存シナリオを破棄する
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帝都の切り札発動せず

 ヴァレリーは即座に急降下しようとしたが、バーンズが後に続こうとするのを見て、急停止をかけた。


「なんだ、バーンズ?」

「いえ、私も同行しようかと」


「……おまえ、私の命令を聞いてなかったか?」


 ヴァレリーの声が不吉な響きを帯びる。

 バーンズは明らかにたじろいだように見えたが、しかし巨眼を伏せて述べた。


「ご不快なら、敵より私の首を先におねください。陛下のご意志を尊重して、手を出す気はありません。しかしながら、副官の立場にある者としては、間近で陛下の勇姿を見とうございます」


 言葉通り、自分の首を差し出すがごとく、深々と一礼する。

 ヴァレリーは腕組みして忠実な副官を眺めたが……やがて、根負けして息を吐いた。


 こいつの忠義は明らかだし、見物が目的ではなく、万一のために備えたいという思いも見え透いているが――こうまで申し出るからには、本当に殺さない限りは退くまい。

 頑固者を自認するヴァレリーも、さすがに感情のみで大事な腹心を殺すほど愚かではない。


「貴様の毛深い首などいらないっ。無闇にデカくて、重たそうだしな!」


 わざと吐き捨てるように言ってやった。


「……今宵、私が上機嫌だったことに感謝することだな、バーンズ。後で叱責はするが、とりあえず今は同行を許す。ただしっ」


 満面の笑みで顔を上げた彼に、ヴァレリーは言い聞かせた。


「先程自分で約束したことを忘れるなよ? 戦うのは私の役目、おまえは間近で見物するだけだ。よいな!」

「ははあっ」


 バーンズは前にも増して深々と頭を下げ、その後でようやく振り向き、大声で代理の指揮官を指名した。

 そこでほっとしたのか、全軍に響き渡るガラガラ声で怒鳴った。


「みんな、すまないが私は、副官の特権で陛下の勇姿を間近で見せていただくことにするっ。後で酒でも奢るので、妬んでくれるなよっ」


 その言葉が終わらないうちに、大爆笑が夜空に響いた。

 無論、ほとんどの者が彼と長い付き合いである。その言葉を額面通りに受け取る者など皆無だし、「またバーンズ様の心配性だな」とわかっているのだ。


「あまり見つめすぎて、種族の壁を越えて陛下にぼおっとなっちゃ駄目ですぜっ」


 誰かが濁声だみごえでからかい、せっかく収まりかけた笑いが、再び盛り返す始末である。


「ふん……どいつもこいつも、浮かれすぎだっ」


 ヴァレリーは苦々しく言ったが、どうも本気で腹を立てることはできなかった。ずっと聞いていると、自分までにやけそうな気がする。

 せめて照れ隠しで、叱声を飛ばした。


「いつまで笑っている、おまえ達! 私達が下りた後は、警戒を怠らぬようにっ」


 返事を聞く前に、ヴァレリーはぷいっときびすを返し、今度こそ眼下の城へ急降下していった。






 

 ――風切り音が耳元でして、たちまちエグランデル城がぐんぐん巨大化を遂げる。


 とりあえず中庭に舞い降りることにして、ヴァレリーは着地限界まで速度を落とさず、瞬く間に目指す中庭に下りた。


「ファントムウィング、解除!」


 ヴァレリーの意志を受け、黒い翼が光の粒子となってその場で消失する。

 元々これもスキルの一種なので、出すのも消すのも自由自在なのだ。


 降下途中でバーンズが「ええい、ままよっ」と呟くのが聞こえたので、おそらくこいつは本当にこのエグランデル城の切り札二つのうちの一方、「パーフェクトウォール」の発現を恐れていたと見える。


(しょうがない奴だ。創造主様がお約束を違えるはずなかろう!)


 だが、城壁周辺にいた敵兵達は当然、ヴァレリーが着地する前に頼もしい魔法防壁が発現するはずと思っていたらしく、愕然とした声を上げていた。



『ば、馬鹿なっ。侵入されたぞ!?』

『おいっ、例の魔法防壁はどうしたっ、パーフェクトウォールは!』

『俺が知るかっ。王宮魔法使いのゲラニー様を探して来いっ』

『それよりおまえ達、敵を倒すんだっ。たったの二人だぞ!』



 最後に防御指揮官の誰かが喚いて、ようやく四方から、ばらばらと兵士が向かってきた。

 芝生敷きの中庭を堂々と歩くヴァレリーに向け、まずは弓兵が前方にどっと人垣を作った。


 隊長の命令に従い、もたもたと準備を始め、ようやく隊列を幾重にも作って迎え撃とうとする。弓兵の人数はおよそ五十名程度か。それが十名ずつ互いに距離を取り、ヴァレリー達を半円系に包囲して弓を構える。


「侵入者に告げるっ。その場で停止して、膝をつくのだっ。それ以上進めば、矢を射るぞ!」


 ヴァレリーは思わず足を止めたが、それは相手の命令に従ったからではない。単純に、呆れ果てたからだ。


「……なあ、バーンズ」


 後ろに続く、忠実な配下に問う。


「もしかして私は、ナメられているのだろうか? あんなのが私に通用すると、本気で思っているのか、連中は? 仮に奴らが万単位いたところで、全くの無駄だと思うが」

「御意。陛下相手では、死体が一万増えるだけですな」


 バーンズの声にも戸惑いがまじる。


「正直、ここまでとは……二つの切り札があまりに強力で、突破された時のことなど、考慮にも入れていないのかもしれませぬ。時に陛下、おおよそ皇帝の居場所はわかりますが、そこの階を一気に叩いては?」

「皇帝を倒す前に、存分に目立てとの創造主様のご命令だ」


 ヴァレリーは生真面目に教えてやった。


「支配者の交代を印象付けるのは、それが一番だと」


 とはいえ、まさか魔王相手に、いきなりただの弓兵ごときを出してくるとは、さすがに予想の範囲外だったが。


「おのれっ、命令を無視する気かっ。放てえっ」


 ヴァレリーが歩き出した途端、引きつったような声で隊長が命じる。同時に、不吉な笛の音に似た音が幾重も重なり、そのほとんどが正確にヴァレリー目指して飛来した。

 一応、その程度の練度はあったようだが……しかし、どのみち無駄だった。


 五十の矢は五十の役立たずの棒と化し、全てがヴァレリーの至近で力を失い、そのまま芝生へ落下してしまう。




「レベルシールドを知らないのか? 貴様達の武器も貴様達自身も、私を攻撃する最低レベルにも達していないということだ。無礼は見逃してやるから、無駄なことはやめて退くがいい」

「な、なんの話だっ。怯むな、もう一度放てえっ」


 唾を飛ばして隊長が喚く。


「だから、効かぬのだ! うっとうしいぞ、雑魚共っ」


 ヴァレリーはいきなり右手を豪快に振り上げ、愚かな弓兵達に向けた。


「壁の染みになりたいかっ」


 途端に、そこにいた弓兵達全員が身も世もない悲鳴を上げ、豪快にふっ飛ばされてしまう。まるで小石かなにかのごとく軽々と宙を舞い、遙か後ろの王宮へ叩きつけられてしまった。


 彼らがいた位置から王宮までは、最低でもまだ数百メートルはあったはずなのに、まさに一瞬の惨事である。

 ヴァレリーの宣言通り、それぞれ全身の骨が砕け、皮膚が裂け、即死状態で墜落していく。本当に、壁に人数分だけの染みが出来ていた。


 少なくとも痛みを感じる暇など皆無だったのが、救いだろう。 



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