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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第四章 真の拠点は蒼天にあり
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魔王が皇帝の首を所望


 ヴィルゲリア帝国の帝都エグランデルは城塞都市であり、この国を支配する皇帝がいるエグランデル城に辿り着くまでに、まず、街を丸ごと囲む防壁を越える必要がある。


 とはいえ、ヴァレリー以下魔族軍一万は、今回の遠征では飛行可能な戦士ばかりを集めているので、なにも街の防壁を相手に、地上でめんどくさい戦闘をやる必要はない。


 そのまま上空を悠々と通過していった。


 時刻は予定通り零時を過ぎ、今のところ、予定外のことはなにも起きていない。

 ヴァレリーは、防壁を越える時に一応警戒していたのだが、空を埋め尽くす勢いで魔族軍が通過していくのを、眼下の門番達は指差して口々に叫ぶばかりだった。


(なんだ? さすがに帝都へ入る時はなんらかの攻撃があると思ったが……ここには飛行可能な戦士は皆無か? ならば、エグランデル城に防備が集中しているということか?)


 そう予想し、ヴァレリーは城へ到着する頃には、全軍の高度をやや上げ、わざと数百メートルの上空で待機させた。





「――全軍、停止! 各自、迎撃を警戒せよっ」


 ヴァレリーが鋭い声で命令を発すると、各種族の部隊長から、それぞれ配下達に素早く命令が行き渡った。

 ヴァレリーは、帝国で最重要な城の上空に待機していれば、さすがにそれなりの反応があるだろうと思って待っていたが、特に空へ上がってくるような戦士は見当たらない。

 まさか、まだ気付いていないのかとも思ったが、城壁を守る兵士達がこちらを見上げて右往左往しているのが見えるので、それもなさそうだ。


 今宵は満月なので、一万の軍勢が上空にいれば、それは目立つだろう。


「……なんだ? なぜか迎撃に上がってくる奴がいないな? まあ、いい。ならば今のうちに宣戦布告するまでだ」


 痺れを切らしたヴァレリーは、マジックボイスを使うことにして、眼下に見える帝都を、さっと掌でなぞるようにした。





「マジックボイス発動! 効果範囲指定、帝都全域っ」


 ……遠方の、ただ一人を指定して声を届けるなら、高レベルルーンマスター(魔法使い)ならできなくもないが、帝都の住人全てに己の声を届けることが可能なルーンマスターとなると、大陸中を探してもあまりいない。


 だがこの程度の魔法なら、ヴァレリーはさほどのMP消耗もなく、簡単にこなすことが可能である。


 大きく息を吸い込むと、ヴァレリーはおもむろに声を張り上げた。



『帝都の住民と、そして皇帝デニケン・ド・ヴィルゲリアに告げる! 私は魔族を率いる魔王だっ。今から貴国の城――エグランデル城を攻撃し、皇帝の首を頂くっ。今宵より以後、我らは帝国西部の魔族本領を取り戻すことになるだろう。そのための最初の挑戦を、私が行う。帝都の支配者が交代したことを、これ以上なく明確に、内外に示すためである!』



 そこでぎらっと眼下を睨むと、ようやく城内の明かりがあちこちで灯りはじめた。

 反応が遅くて笑える。

 ヴァレリーは呆れた気分で口上を続けた。 



『ただし、帝都の住民達は、我らが敵にあらず! そのまま屋内に留まり、決して余計なことをしないように! 抵抗しなければ、我々も住民には一切手を出さない。繰り返す、抵抗さえしなければ、我が魔族軍は一切、住民には手出ししないっ。我らの敵は、怠惰で無能な皇帝デニケンと、そして役立たずの貴族どものみだっ。自らの国が外敵に攻められているにもかかわらず、なんら手を打とうとしない連中に、国と臣民を率いる資格などないっ。なお、城への攻撃は、今から十分後とする。もしも降伏の意志があるのなら、それを示せ。その場合、皇帝とその取り巻き達の首をもって、帝国の降伏を認めることとする。以上っ』



 ヴァレリーがマジックボイスを解除すると、魔族軍から大歓声が湧き起こった。


 今の宣言は、敵はほぼ皆殺しが普通の魔族軍にしては極めて穏当と呼べるはずだが、なんといっても今回の戦は、百年以上前に失陥した、魔族の本領を取り戻す聖戦に等しい。

 長寿の魔族達なので、未だに大勢の戦士が、当時の敗戦とその悔しさを覚えている。魔王の堂々たる宣戦布告を聞き、密かにむせび泣く者も多かった。

(一郎はゲーム内時間を操作しているし、設定上は記憶があって当然だが、その真実は不明)


 ヴァレリーの絶対命令がなければ、とっくに全軍が帝都を蹂躙じゅうりんしようとしただろう。




「さて、敵はどう出るかな?」


 いささかの油断もせず、ヴァレリーは腰に片手を当ててバーンズを見た。


「いやぁ、私なら後ろも振り返らずに逃げますが」


 バーンズは強面の赤ら顔で苦笑した。


「しかし、敵がそこまで陛下の実力を把握しているかどうか」

「実力を把握する以前に、そもそもまだなんら動きがないわ。城壁の兵士共が右往左往しているだけだ――おっ」


 ふいに、兵士のざわめきしかなかった城内に、鋭い笛の音が鳴り響いた。

 同時に、どこかで鐘が鳴る音も。


「……戦闘準備の合図かな? それにしても立ち上がりが遅いが。攻撃開始まで、あと数分なのだがな」

「正確には、あと六分ですな。しかし陛下、奴らの切り札である絶対防御のパーフェクトウォールと、インモータルナイトは警戒しなくて大丈夫ですか?」


 先代の魔王が同じく帝都に攻め寄せた時、帝国軍はこの二つの切り札を持って、魔族軍の撃退に成功し、当時の魔王は戦死した。


 よってバーンズの心配は当然なのだが、ヴァレリーは顔をしかめて忠実な副官を睨んだ。


「今宵零時を過ぎた時点で、その二つの切り札を使えなくしておく――それが、創造主様のお言葉だった。おまえは、それを疑うというの!」


「い、いえ。そういうわけでは……」

「いずれにせよ、おまえの危惧はもうすぐ無駄だと明らかになる」


 ヴァレリーはバーンズを遮り、言い切った。

 そして無言のまま待機を続け――ついに、宣告した十分が過ぎた。


「時間だ!」


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